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2002/11/12
「9.11 以降の新しい国際秩序における欧州の役割と日本 」国際会議・シンポジウム

会議日程
1.日時:平成14年11月12日(火)・13日(水)・14日(木)
2.場所:東京全日空ホテル
   会議‥‥「オーロラ」
   シンポジウム‥‥「グローリー」
3.スケジュール

(1) 第1セッション(12日(火) 10:00~12:30)
議 題:「欧州の拡大と将来」
報告者:Bernhard Zepter(駐日欧州委員会代表部大使)[PDF]
    Christian Lequesne(パリ政治学院国際研究センター(CERI)副所長)[PDF]
    庄司克宏(横浜国立大学大学院国際社会科学研究科教授)[PDF]
(司会:世界平和研究所研究主幹・薬師寺泰蔵)

(2) 第2セッション(12日(火) 14:30~17:00)
議 題:「ユーロ流通開始と経済通貨統合の欧州経済への影響」
報告者:Michael J.Artis(イタリア欧州大学研究所(EUI)教授)[PDF]
    C. Randall Henning(アメリカン大学教授、国際経済研究所(IIE)客員研究員)[PDF]
    嘉治佐保子(慶應義塾大学経済学部教授)[PDF]
(司会:世界平和研究所首席研究員・小堀深三)

(3) 第3セッション(13日(火) 10:00~12:30)
議 題:「NATO拡大と新しい安全保障レジーム」
報告者:Karl Kaiser(ドイツ外交問題評議会研究所長)[PDF]
    Robert. E. Hunter(RANDシニアアドバイザー)[PDF]
    金子 讓(防衛研究所第二研究部第一研究室長)[PDF]
(司会:世界平和研究所首席研究員・今井隆吉)

(4) 第4セッション(13日(水) 14:30~17:00)
議 題:「欧州拡大の国際社会への影響」
報告者:Michael Reiterer(駐日欧州委員会代表部副代表)
    Jacques Pelkmans(オランダ政府政策研究協会(WRR)理事)[PDF]
    Eric Teo Chu cheow(シンガポ-ル国際問題研究所(SIIA)事務総長)[PDF]
(司会:田中俊郎(慶應義塾大学法学部教授))

(5) 公開シンポジウム(14日(木) 14:00~16:00)
議 題:「9.11以降の新しい国際秩序における欧州の役割」
パネリスト:Michael Reiterer(駐日欧州委員会代表部副代表)
      Karl Kaiser(ドイツ外交問題評議会研究所長)
      Jacques Pelkmans(オランダ政府政策研究協会(WRR)理事)
      Robert. E. Hunter (RANDシニアアドバイザー)
      Eric Teo Chu cheow(シンガポ-ル国際問題研究所(SIIA)事務総長)
      薬師寺泰蔵(世界平和研究所常務理事・研究主幹)
(司会:世界平和研究所理事長・大河原良雄)


 第1セッションでは「EUの拡大と将来」について2名から報告が行われた(司会:薬師寺泰蔵 当研究所研究主幹)。
 最初に、ベルンハルド・ツェプター 駐日欧州委員会代表部大使は、EU拡大による新しい欧州構築への気運が高まる中で、EUは、①最終的に一つの統合された政府(integrated government)をめざすのか、又は加盟国の主権を尊重して政府間(inter-government)の協調関係にとどまるのか、②各機構の役割分担の問題、③補完性原則の適用等の課題を指摘した上で、これらの問題についてはコミュニティ・メソッドで解決していくべきとの考えを示した。また、テロ対策や発展途上国支援等に関しては、EUは日本や米国との協調が重要になってくるとの見方を示した。

 次に、クリスチャン・ルケーヌ パリ政治学院国際研究センター副所長は、EU25カ国への拡大は、シューマン宣言・ローマ条約の基盤である平和と民主主義が新たに10カ国に導入されたという点で、歴史的な継続性が見られると述べた。9.11テロに関しては、EUはグローバルガバナンス・マネジメントが不充分であることを認識すべきであると指摘した上で、今後の課題として、閣僚理事会が指名する「欧州大統領」を創設して共通外交・安全保障政策(CFSP)代表や対外関係委員長等の経験を持つ外務大臣と協調して対応する体制を構築し、欧州の可視性を高めるとともに、欧州としての外交政策を明確にする必要があるとの見解を示した。また、EUの外交政策を憲法に列挙し、加盟各国独自の外交政策分野との区別を明確にすべきであると主張した。更に、EU拡大に伴い、効率的で民主主義的な政策策定のため新たな意思決定ルールの必要性を指摘し、多様な加盟国から構成されるEUの意志決定には、多数決の導入が望ましいとの見方を示した。最後に、トルコの加盟問題に関しては、今後EU加盟が可能と考えられる地域及び境界の明確化が求められるが、特定分野に関する部分的なEU加盟制度も解決策の一つであるとの見解を示した。

  最後に、庄司克弘横浜国立大学教授の論文について、薬師寺泰蔵研究主幹よりその概要が紹介された。庄司教授の論文は、EU拡大のプロセス及びそれに伴う機構改革に関する問題に焦点を当てたものである。EU機構改革は最も微妙な問題であり、諮問会議では未だ議論されてはいないものの、大国間で(非公式に)議論は進んでいるという状況を指摘した上で、機構間のバランスはどうなるのか、EUをリードする機構はどれか(大国主導の閣僚理事会か、全体の利益のために独立的に活動する委員会か)が重要な問題であるとの見方が示された。また、EUと加盟各国の権限に関しては、EU全体の傾向としては権限補完性原則に基づき、加盟各国の国内議会へ権限を戻す方向にあるとの指摘がなされた。更に、意志決定方式については、欧州委員会が提案している、加盟国の多数決とEU全体の人口に基づく多数決の両方をカウントする方式が、民主主義と透明性を高めるという理由から合理的であるとの見解を示した

 以上の報告を踏まえて、議論が行われ、トルコ加盟問題については政治的、経済的観点から議論が行われた。



【第2セッション】

 第2セッションは「ユーロ流通開始と経済通貨統合の欧州経済への影響」と題して、EU統合の経済的側面について議論を行った(司会:小堀深三 当研究所首席研究員)。
 最初に、イタリア欧州大学研究所のマイケル・アルティス教授から、1999年にスタートしたEMUの4年間の評価について発表が行われた。ここでは、各国経済のコンバージェンスが進展している事実、ECBの金利政策についてFRBと比較した反応の遅れを指摘する見解に対してはそれはむしろ米欧の経済状況の差を反映したものであるとみられることなどを分析しつつ、1997年のアジア危機や2001年のITバブルの崩壊の影響にもかかわらず1999年のEMUの導入や2002年のユーロキャッシュの導入は成功裡に行われたものと評価している。但し、各国経済の現況などを踏まえると域内消費者物価を2%のバンドに抑えることは現実的でない点等、EMUの更なる発展に向けては多くの課題があることを指摘した。

 次に、アメリカン大学教授であり、IIEの客員研究員を務めるランダール・ヘニング教授から、現下のEMUについて以下3つの点から発表があった。第一に、「安定・成長協定」(SGP)については、各国の多元的財政政策とECBの一元的金融政策の矛盾が顕在化しており、再検討が必要になっている。具体的には単年度の実際の財政赤字額でなく、ビジネスサイクルを考慮した構造赤字を用いるのが望ましいのではないかと強調した。第二に、中央銀行の独立性については、社会的な支持が不可欠であり、その確保のためには政治的な手腕も必要である旨指摘があった。第三に、対外的には、マンデートをもった「ミスターユーロ」の存在と、国際的協調メカニズムの確立が必要である旨言及があった。ここでは特に米国における政策形成経路の整理の必要性についても触れられた。

 最後に、慶應義塾大学嘉治佐保子教授から、国際通貨としてのユーロのパフォーマンスとアジア金融統合へのインプリケーションについて発表があった。ユーロのパフォーマンスについては、1999年の導入以降減価を続けた背景として、下落を続けたこと自体からくる失望売り、米国の好景気、ECBに対する信任の欠如、短期投資の為替レート安定化機能が変化したことがあったと考えられるが、このうち、米国経済の状況には変化がみられ、2002年6月にはドルが対ユーロで減価しはじめたとの分析が示された。国際通貨としてのユーロについては、少なくとも、自国レートの算出にユーロを含める国は増えている旨指摘があった。アジア金融統合については、アジアと欧州の違いの大きさについて強調するとともに、何よりも重要なのは日本がそのために如何なる犠牲も払うという点についてのコミットメントであるとして全体を結んだ。

 この後、フリーディスカッションにて、ユーロ導入の成果(欧州の将来についての議論の活発化、各国制度改革の進展、価格の比較可能性増大)、英国のユーロ参加の可能性、イラク危機のユーロへの影響等についても活発な議論が行われた。

この後、フリーディスカッションにて、ユーロ導入の成果(欧州の将来についての議論の活発化、各国制度改革の進展、価格の比較可能性増大)、英国のユーロ参加の可能性、イラク危機のユーロへの影響等についても活発な議論が行われた。



【第3セッション】

第3セッションでは「NATO拡大と新しい安全保障レジーム」について3名から報告が行われた(司会:今井隆吉 当研究所首席研究員)。

 まず、カール・カイザー ドイツ外交問題評議会研究所所長は、テロリズムや大量破壊兵器(WMD)拡散防止へとNATOの役割が拡大する中で、NATOの役割の拡大あるいはそれを再定義する必要があると指摘した上で、NATOの再定義は国際秩序再構築の一部を成すものであると述べた。また、イラク問題については、第二次大戦以降の国際秩序の存在をイラクは無視してはならないが、イラク問題への対応は国際的対話に基づいて実施すべきであるとの見解を示した。

 次に、ランド・コーポレーションのシニア・アドバイザーであるロバート・ハンター 元NATO大使は、米国同時多発テロの際にはNATO加盟国は強固に団結して対応したが、イラク問題に関しては米国と欧州諸国あるいは欧州諸国内においても温度差があることを指摘しつつ、中東における安全保障問題に対するNATOの関与は今後も重要性が高まるとの見方を示した。

 最後に、金子譲 防衛研究所第二研究部第一研究室室長は、NATOが直面するであろう主要な二つの争点である「東方への拡大」と「危機管理ミッション」を採り上げ、ロシアとの関係、同盟の意義の再定義の必要性及び米欧の温度差について指摘するとともに、欧州における新たな安全保障レジームの模索が日本の安全保障に及ぼす影響についても言及した。

 以上3名の発表を踏まえて質疑応答が行われた。その中で、イラク攻撃は東南アジアのイスラム教徒穏健派を過激な方向へ変える可能性があることを欧米諸国は認識すべき、アフガニスタンでの作戦に日本が自衛隊を派遣したが、テロとWMDへの対応を重視しつつある中国が否定的な反応を示さなかったことから、日本も対テロへの国際的取組に参加すべき、欧州域外での危機管理ミッションが今後増大することが予測されるので欧州諸国は軍事力の投入能力を整備すべき、等の意見が出された。


【第4セッション】

第4セッションでは、「欧州拡大の国際社会への影響」と題して、欧州、アジア双方の実務家、研究者3名によって、欧州拡大が東アジアや米国などの域外にいかなる影響を及ぼすかについて報告と討議が行われた(司会:田中俊郎 慶應義塾大学常任理事・教授)。

 最初に、ミヒャエル・ライテラー 駐日欧州委員会代表部副代表・公使からは、一般的な影響の指摘の他、ASEMの活動を通じてみた影響について発表があった。同氏は、まず、欧州拡大の影響の基礎には、1994年以降のEUの対アジア戦略があると述べ、戦略はアジアを4つの地域に区分した上で、地域安定化、貿易・投資拡大、発展途上国の開発援助、グローバル・パートナーシップ構築などを目的とした活動を展開していると指摘、これがその他の地域フォーラムなどにも影響を与えるようになっているとの見解を示した。次いで、同氏は、ユーロ登場の影響やその他の分野の問題に触れ、ASEMの活動はこれら問題に関しても大きな貢献となっており、その活動は今後もますます進化を続けていくとの見解を示した。一方、現状、ASEMが事務局を持っていないこと、あるいは参加国の増加に対し、より実体的な行動を取るための体制作りを行なう必要性など幾つかの課題が存在していると指摘した上で、同氏はそうした問題はあっても、ASEMは引き続きアジア・欧州双方の関係強化に寄与し多大な貢献をなすであろうとの見解を示した。




 続けて二番目の報告者としてオランダ政府政策研究会理事を務めるジャック・ペルクマンス ブルージュ欧州カレッジ教授が発表を行った。同氏は、まず、欧州の拡大は国際社会から充分な支持を得ているとの考えを示した上で、これは国際機関についても同様であり、WTOなど一部の国際機関を除けば欧州の拡大は広く支持を集めていると指摘した。同氏は、引き続き、欧州拡大の対象となる中東欧諸国について言及し、これら諸国は順調な経済発展を遂げており、これら諸国に対して行われる直接投資や生産委託は域内分業体制の深化と高度化を促進し、貿易を拡大していると述べた。一方、農業、サービス分野、労働市場などでは依然としてさまざまな問題が存在しており、引き続き改革と調整が必要であるとの指摘を行った。最後に、同氏は、今回のEU拡大は、人口、経済規模の面でみると過去最大であり、中東欧諸国にとってはヨーロッパへの回帰となるのだが、社会、文化への影響は間接的なものであり、拡大EUは加盟国の「多様性の連合」となるであろうとの見解を示した。

 最後に、第三番目の報告者としてエリック・タオ シンガポール国際問題研究所事務総長が発表を行ったが、発表の冒頭で同氏は、現在、欧州では地域主義(リージョナリズム)、域内統合、域内拡大が並進していると指摘し、その背景には、グローバリゼーションとリージョナリズムという二つの世界潮流が存在していると述べた。同氏は、リージョナリズムの進行は、こうしたグローバリゼーションへの反動であり、同時に市場拡大、投資拡大、文化保全、安全保障強化などがめざされているとの見方を示した。また、欧州モデルの東アジアにおけるリージョナリズムへの影響を考えた場合、多様性と格差を抱える東アジアのやりかたは、欧州モデルとは異なるであろうが、依然として米国やアジアに影響を有することは間違いないとの考えを示した。一方、同氏は、現下のリージョナリズムは、グローバリゼーションへの反動として隆盛を得ている部分があるが、欧州の状況を勘案すれば、近い将来において東アジアでもそうなるかは不透明な部分があると指摘し、東アジアにとっての問題の核心が、依然として、東アジアが一体となる強い意志やリーダーシップを発揮できるかにあるとの考えを示した。

 以上三氏の発表を踏まえて、最後に質疑応答が行われ、台湾の問題、アジア的価値観、非民主的国家の取扱の問題等について質疑と議論がなされた。以上の議論を受けて、公開シンポジウムでは国際会議参加者からの報告が行われ、それを踏まえて質疑応答が行われた(司会:大河原良雄 当研究所理事長)。まずコーネリス・ケイザー駐日欧州委員会代表部一等書記官は、平和的なEU拡大及び枠組み簡略化のための憲法制定の重要性を述べた。次にカイザー所長は、9.11以降のNATOの役割はテロリズムやWMD拡散防止に向けた長期的戦略を有する大規模連合体であるべきで、国連の権威も高めつつ、日本に対しては平和維持活動への一層の貢献を期待すると述べた。ペルクマンス教授は、EUはWTOの枠組の中で農業政策の保護主義緩和を促進すべきこと、及び、トルコにEU加盟のチャンスを与えるべきとの見解を示した。ハンター大使は、テロリズムに対しては米国の単独行動ではなく、NATOや国連の枠組のもとで対応すべきであると述べた。最後に薬師寺主幹は、EUでは経済、安全保障、民主主義における統合が進展しているが、これは経済協力関係のみにとどまっているASEAN等へ示唆を与えるものであると指摘した。

以上5名の発表を踏まえて質疑応答が行われ、EUとNATOの役割分担、北朝鮮問題、イラク問題に関して質疑と議論がなされた。



※この講演会は日本財団の助成事業により行っております。

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