2026/03/16
3月12日にNPI公開ウェビナー「中国の安全保障政策としての日本企業のエンティティリスト掲載―「新型軍国主義」という日本理解―」を開催しました。
中国政府による日本企業のエンティティリスト掲載をどう読むべきでしょうか。貿易摩擦の論理に基づいて「経済的威圧」とみなすのが妥当だという見解もあるようです。しかし、一連の措置は中国が日本との貿易をすでに安全保障問題だと認識していることを示しているとも考えられます。それはWTO体制が認めている安全保障例外の適用と考えることもできます。
本ウェビナーでは、新型軍国主義という言葉で代表される、現在の中国の日本認識を踏まえた上で、中国政府による日本企業のエンティティリスト掲載を、いかに読み解くことができ、どのような対処が可能かについて議論しました。
〔登壇者〕
川島 真 (中曽根平和研究所 研究本部長)
渡邉 真理子 (学習院大学経済学部 教授)
当日は、官庁、企業、研究者、マスメディア等の方々の視聴参加を受け、活発な議論が交わされました。議論の主なポイントは以下のとおりです。
- 中国は2049年に米国に追いつき、2035年をその中間点とする国家目標を踏まえ、米国と同盟国との関係を断つ、非先進国の代表として先進国を批判する等の行動をとっている。今年は習近平主席の後継者選びが視野に入る人事のシーズンともなっており、緊張度が増している。
- 中国は、サンフランシスコ講和条約は無効であり、沖縄の地位も未定、日本が集団的自衛権を持つこと自体が戦後秩序への挑戦とまで言っている。さらに2025年11月に楊伯江氏が光明日報の記事で用いた「新型軍国主義」という言葉が2026年1月の人民日報でオーソライズされ、政府機関の発表で使われている。行動も、尖閣周辺での活動活発化や海産物輸入禁止から、第一列島線を超える航空母艦の活動、エンティティリスト掲載等まで、言葉と連動して強められている。
- 中国政府が言説を強めたことで対日感情はコロナ禍明け頃から急速に悪化しており、日中関係の重要性についての認識も日中間で非対称となっている。またネット空間では、衆議院選挙時に「高市政権」を「戦争」と組み合わせる中国側の浸透工作がみられた。
- 中国の対日圧力はほとんど前例を見ないレベルまで高まっており、批判の対象は憲法改正、歴史(靖国)問題、安保三文書改定にも向かうが、中国にとっての核心は台湾にある。2026年11月のAPECなどもあるが、当面は関係「正常化」の糸口はなく、まずは2026年に複数回行われる米中首脳会談が注目される。日本は中国の政策や実情を踏まえた反論や、圧力強化により中国側も困ることになる、というメッセージを出していくべきである。
- 通商ルールでは、政治と経済の論理は分離すべきとされ、WTO、RCEP、CPTPPは最恵国待遇を原則とし、安全保障例外条項を設けている。中国はこれまで自由貿易を守るとしていたが、日本に対するレアアース輸出規制、旅客便減便、エンタメコンテンツ販売規制等は最恵国待遇違反と考えられる。
- これまで中国から差別的待遇を受けた豪州、リトアニア、ベトナム、インドはWTOに提訴している。上級委員会は米国により機能停止しているが、代わりに設置された多国間暫定上訴仲裁アレンジメント(MPIA)で紛争解決が図られている。
- ロシアのウクライナ侵攻以降、安全保障例外の判例が増えてきている。おおまかにいうと国連決議があるレベルの紛争があれば安全保障例外もやむを得ないというもの。日中に戦争状態はなく、高市発言等では安全保障例外が認められない可能性が高いにもかかわらず、最恵国待遇にあきらかに違反していると思われる経済的威圧が使われてきた。軍事的な脅威であると主張することをためらっていたと思われる。
- 中国はなるべくWTO整合的に安全保障例外を使うための法律整備として、CPTPPの加入申請をした2021年頃から域外適用法制を整えた。今回、日本に適用された両用品目輸出管理条例により、2025年から米国企業、台湾企業がリスト掲載されている。注視リストは今回、日本向けにはじめて使われた。
- 中国はこれまで軍事的競争の相手は米国のみとし、日本やEUとはそこまで対立構造を作りたくないため、あえてルール違反であっても経済的威圧を使っていたのではないか。今回、安全保障例外が使われたということは、安保三文書改定と武器輸出の検討を開始した日本については、米国とひとくくりに軍事的脅威の対象とみなすような変更が行われた(ただし交渉は米国のみと行う)ということではないか。
- 今回の中国の措置により、経済的威圧と安全保障例外の境目が明らかになったので、日本はWTOに提訴することで経済的威圧をイシュー化できる。これは韓国など同様に威圧を受けている国同士の横連係構築にも寄与する。エンティティリストについてはWTOのルールでは異議を唱えられないが、日本側もリストを用意することで、軍用・民用の線引きを明らかにできれば企業の予測可能性を引き上げられる。

