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外交・安全保障

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2019/03/20
現代における潜水艦による通商破壊の妥当性

浦口薫 主任研究員による研究レポート「現代における潜水艦による通商破壊の妥当性」を掲載しました。

本文はこちらからダウンロードいただけます。

(要旨)

〇 現代の潜水艦による通商破壊の妥当性については異なる見解が存在する。軍事史的観点からは異なる2つの見解が存在する。1つ目は潜水艦は主として通商破壊兵器と捉える見解である。第1次大戦でドイツは潜水艦による通商破壊によりイギリスを降伏の一歩手前まで追い詰めた。第2次大戦でもドイツは潜水艦による通商破壊を実施し、一時的には大成功を収めた。アメリカの対日勝利に最も貢献したのは潜水艦による通商破壊であった。当時の潜水艦は水上航走が常態の「潜れる軍艦」であり、潜航状態が常態の「真の潜水艦」ではなかった。このため、通商破壊に使用することで真価を発揮した。

〇 2つ目は潜水艦を海戦の主力兵器と捉える見解である。第2次大戦後、スノーケルの採用、電池性能向上等により、潜水艦は「真の潜水艦」に進化し、さらに高い機動力を有する原子力潜水艦が登場した。フォークランド戦争ではその真価が発揮された。すなわち、遠く離れた領土の防衛に派遣されたイギリス原子力潜水艦は迅速に現地に到着し、敵国主力艦を撃沈して敵国海軍全体を無力化した。一方、アルゼンチンのたった1隻の可動潜水艦の存在のために、イギリスは兵力の3分の1を対潜捜索に使用せざるを得なかった。

〇 国際法学的観点によると、現代では軍事目標のみに対して潜水艦による通商破壊を認める見解が通説を構成する。かつては軍艦が軍事目標として無警告攻撃の対象となる一方で、商船は海上封鎖や海上捕獲の対象であって無警告攻撃は許容されないとするカテゴリー別目標選定基準が支配的であった。しかし、潜水艦の最大の長所は隠密性であって、伝統的な海戦の方法である海上封鎖や海上捕獲は臨検・捜索のための浮上を伴い潜水艦では実施困難となる。このため、「潜水艦による商船への無警告攻撃を認めるか否か」が大きな論点となった。第1次大戦では、各国はこの問題を認識しつつも復仇等の議論で対商船攻撃を説明し議論が深まることはなかった。第2次大戦でも同様の問題が生じたが、アメリカが対日無制限潜水艦戦を実施していたため、ドイツの通商破壊自体を違法と認定できず、結局、潜水艦による通商破壊の合法性の評価に明確な結論は出せなかった。その後、長らく海戦法規の見直しの実際上の必要は生じなかったが、大規模海戦を伴った1980年代のフォークランド戦争とイラン・イラク戦争はその必要性を生じさせた。前者では中立国に対するイギリスの措置が広く受け入れられたが、後者では両交戦国の対商船無差別攻撃が国際的な非難を浴びた。その後、各国は機能的目標選定基準を導入し、商船でも同基準の下で軍事目標となるものには潜水艦による無警告攻撃を許容するようになった。すなわち、海戦の目標選定基準は、両次大戦の混乱の後、長い時間を経て、カテゴリー別基準から機能的基準へと変化した。

〇 いずれの見解もそれぞれ克服すべき課題を抱えている。無制限な通商破壊により軍事目標に該当しない商船を攻撃した場合、正当性の主張に困難を伴うのみならず、武力紛争非当事国を紛争に巻き込む可能性も高い。機能的基準により目の前の商船が軍事目標か否かを現場で判断するのも困難が伴い、便宜置籍船の存在がこの問題をさらに複雑にする。他方で、いかに潜水艦の能力が向上したといえども、やはり水上艦艇への攻撃が困難な任務であることには変わりはない。

以上

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