2020/04/27
高橋主任研究員の研究レポート「新型コロナウイルス感染症が国民の心理に与える影響:感染拡大は自殺リスクを高めているのか」を掲載しました。
高橋主任研究員の研究レポート「新型コロナウイルス感染症が国民の心理に与える影響:感染拡大は自殺リスクを高めているのか」を掲載しました。
本文(pdf)はこちらからダウンロードできます。
(要旨)
世界各国での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大抑制策として様々な経済社会活動の制限・自粛が採られている。そうした状況が続くことによる国民の心理面への影響、特に自殺者数の増加が懸念されている。COVID-19を直接の死因とする死者が抑制できても感染拡大に起因する自殺者数が急増しては意味がない。
COVID-19の感染拡大は、既存研究を踏まえると、①自身が感染してしまう不安や恐怖、②人と人の接触機会の減少で深まる孤立感、③経済社会活動の自粛による企業の業績悪化、賃金カット、失業など経済状況の悪化、の3つの経路を通じて心理面に影響することが考えられる。
本稿ではこれまで数年毎に定点観測をしてきた全国の男女に対するオンラインアンケート調査などを活用して、日本でのCOVID-19の心理面への影響として抑うつ状態、孤立感、自殺念慮の状況とそれに与えている要因に焦点を当てて分析を行った。
その結果、2020年3月末時点で自殺念慮を抱く者が急増しているとはいえないが、重度の抑うつ状態にある者は新入社員などの20代前半と会社の中堅などである30代後半を中心に増加していた。影響を与えていたのは、自身がCOVID-19に感染してしまう不安ではなく、失業、倒産など経済状況の悪化への不安である。その観点で経済的不安を取り除く経済政策が不可欠である。澤田ら(2010)が指摘するように1997年から98年の自殺者急増は健康問題とともに経済社会問題であった。今回の危機が1998年の再来とならないようにする必要がある。今後の感染拡大や経済社会状況によって要因の変化、それに伴う自殺リスクの更なる高まりの可能性が高く、引き続き注視が必要である。
従来、日本では自殺念慮を抱えても誰にも相談しない者がほとんどである(日本財団(2016)では73.9%)。毎年60万件超といった日本で最大の自殺相談を受け付けているいのちの電話が12箇所で受付中止するなど、自殺防止の受け皿にも制約が起きている。都道府県などにこころの相談センターが設置され、SNS相談などの活用も進むが、高齢の両親などが離れて暮らす者に電話などで近況を聞くなど社会的接触を積極的に図ることが求められている。さらにいわれなき批判の対象になっているCOVID-19陽性患者や治癒者、治療に当たる医療関係者などのこころのケアも課題となろう。
キーワード: 新型コロナウイルス, 自殺念慮, 経済的不安, 抑うつ状態