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経済安全保障

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2024/12/09
KAS-NPI 共催セミナー 「地政学リスク下での重要鉱物とサプライチェーンをめぐる日EU連携」を開催しました。

パネルディスカッションの様子

KASリナーツ日本代表 ご挨拶の様子

中曽根理事長 ご挨拶の様子

城内大臣 ご挨拶の様子

提言概要発表の様子

 11月27日、中曽根平和研究所は、コンラート・アデナウアー財団(KAS)と共に、特別セミナー「地政学リスク下での重要鉱物とサプライチェーンをめぐる日EU連携」をホテルオークラ東京にて開催しました。


 冒頭、パウル・リナーツ KAS日本代表からご挨拶いただき、経済安全保障分野における協力関係にある当研究所とともに、重要鉱物というタイムリーなテーマに関する共同提言をまとめることができたこと、また、本セミナーの開催にあたって、モデレーター及びパネリストに謝辞を述べた上で、ティム・ペーター氏とユルゲン・マッテス氏にドイツから来日いただいたことについて紹介いただきました。


 また、中曽根弘文 当研究所理事長からのご挨拶では、昨年12月のMoU締結以来、KASと当研究所が実施してきた経済安全保障に関する取り組みについてご紹介いたしました。


 引き続き、城内実 経済安全保障担当大臣よりご挨拶をいただきました。城内大臣は、11月21日に第一回日独経済安全保障協議がベルリンで開催されたことに触れたうえで、経済安全保障分野における日EU間、日独間の協力は、国際秩序の維持・強化に資するものとして、引き続き専門的知見の共有、連携をしっかりと行っていかなければならないとの見解を示されました。


 第一部では、ティム・ペーター KASベルリン本部 分析・コンサルティング局 経済・イノベーション部門 欧州の競争力担当より、共同提言書「日EU重要原材料アライアンス」の概要説明を行いました。ペーター氏は、今回の提言の狙いは、(1)日EUに協力の機会があることを明らかにすること、(2)日本は、EUと日本の資金力と市場を統合することで、経済的利益を得るだけでなく、経済的威圧への対抗力を強化できること、(3)EUが重要原材料法を迅速かつ確実に実行に移す道筋を提供すること、そして、重要鉱物サプライチェーン強靭化において、JOGMECが多くの経験を有していること、(4)EUが、EU原材料機関の設立や欧州レベルでの相当な予算投入といった、大胆かつ必要な措置を講じるよう奨励することであると説明しました。


 第二部では、鶴岡路人 慶應義塾大学総合政策学部准教授をモデレーターとして、「日EUの重要鉱物とサプライチェーンをめぐる現状と今後の対応」 について、4名のパネリストによるディスカッションを実施しました。


 田中一成 経済産業省 首席通商政策統括調整官 兼 大臣官房審議官 (通商政策局・製造産業局担当) は、重要鉱物のサプライチェーン強靱化に関する現在の取組状況と課題について、重要鉱物の供給確保の取組を今後とも継続強化していく、特に、①備蓄量の確保、②供給源の多角化、③サプライチェーン全体での対応強化を行っていくと述べられました。


 アデリン・ヒンドゥラー 駐日欧州連合代表部 公使参事官/通商部⾧からは、EUの競争力強化の鍵となる重要鉱物に関するものを含む、経済安全保障とサプライチェーンの強靭化に関するEU政策の現状と課題について紹介がありました。EUは、重要原材料法、欧州半導体法、ネットゼロ産業法などの取り組みを展開していること、原材料生産国と14の戦略的パートナーシップを締結していること、そして、貿易協定においても原材料関連の条項を盛り込んでいることを説明されました。また、安定的な供給確保に関するJOGMECのアプローチはEUにとって示唆に富むものであり、EUと日本は、二国間およびG7、重要物質・鉱物に関する会議、鉱物安全保障パートナーシップなどのフォーラムにおいて、対話を継続していることも紹介されました。


 川瀬剛志 上智大学法学部教授は、サプライチェーン構築には、WTO(世界貿易機関)やそれに準じる FTA (自由貿易協定)のような通商協定が不可⽋であること、そして、IPEF(インド太平洋経済枠組み)のような市場アクセス約束を伴わない、サプライチェーン強靭化に焦点を当てた通商枠組みは、CPTPP(環太平洋パートナーシップ協定)のような⾃由貿易協定と組み合わせることによって効果を発揮すると述べられました。そして、伝統的な通商協定は、強靭なサプライチェーン構築の基盤として⽋かせないものであり、⾃由貿易は安全保障を弱体化させるものではないこと、また、ルールベースの⾃由貿易体制の強化が重要であるとの見解を示されたうえで、ルールに基づく国際秩序と自由貿易は、サプライチェーン強靭化、ひいては日EUの経済安全保障に資するとの見解を述べられました。


 ユルゲン・マッテス ドイツ経済研究所(IW)国際経済政策担当責任者は、EUのデリスキングの取り組みと中国依存度を低減するために必要な対策について、欧州委員会は中国からのデリスキングや経済安全保障で主導的な役割を担っているが、権限は限られていること、また、ドイツはデリスキングを強調した初の中国戦略を策定したが、その実行はいくつかの理由から遅れており、不完全であることに言及。ドイツの輸出モデルの遺伝的特徴が、デリスキングと経済安全保障の実現促進を妨げていること、すなわち、効率性を志向する企業は、ドイツの社会的市場経済の枠組みの中で、政府の介入なしに経営判断することに慣れてしまっている点を指摘。これを踏まえ、政府は企業のデリスキングに対するインセンティブを高めるために、この枠組みを見直す必要があるとの見解を述べられました。その上で、EUは情勢の変化に適応し、例えば日本から学ぶ必要があること、そして、トランプ政権発足後、米国から中国製品が流出し、EU市場を防衛する必要性が高まってくる可能性について指摘しました。


 第一部・第二部の内容に関する質疑応答では、有事における重要原材料の融通などの経済安全保障上の問題に関して、政治・外交のロジックとビジネス(経済利益)のロジックはどのように両立させられるのか、中国などの特定の行為が経済的威圧に該当するか否かを日EUがどのように判断するのか、米国トランプ政権発足の日EU連携への影響などについて議論が行われました。


 最後に、鶴岡准教授からパネルディスカッションを踏まえて、(1)日EUは経済安全保障の取り組みについて互いに学びを得ることができること、(2)経済安全保障の確保にはコスト増が避けられないが、それはリスクへの対処であり、コストとしてのみ捉えるべきではないこと、そのためにもリスク分析の重要性が増していること、(3)経済的威圧への対応で、重要原材料の融通などを考える場合には、「他国を助ける」観点が不可欠であり、これこそ、安全保障面でいう同盟、ないし集団防衛だが、他国を助けるためにはコストがかかることを踏まえれば、果たして我々にはその覚悟ができているだろうか、、(4)実態の把握とリスク分析のためにインテリジェンスの重要性がますます高まっており、日本として強化を図らなければならない、とのまとめや問題提起がなされました。


◆提言書 プレゼンター

 ・ティム・ペーター

  KASベルリン本部 分析・コンサルティング局 経済・イノベーション部門 欧州の競争力担当

◆パネルディスカッション モデレーター

 ・鶴岡路人

  慶應義塾大学総合政策学部准教授

◆パネリスト

 ・田中一成

  経済産業省 首席通商政策統括調整官 兼 大臣官房審議官 (通商政策局・製造産業局担当)

 ・アデリン・ヒンドゥラー

  駐日欧州連合代表部 公使参事官/通商部⾧

 ・川瀬剛志

  上智大学法学部教授

 ・ユルゲン・マッテス

  ドイツ経済研究所(IW)国際経済政策担当責任者

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