2021/12/21
11月29日に、米中関係研究会・米国新政権研究会は共同ウェビナー「中国・台湾のCPTPP加盟申請をめぐる外交と政治」を開催しました。
米中関係研究会・米国新政権研究会は、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)をテーマとするウェビナーを開催、日本にとっての意味などについて、中国、台湾、東南アジア、オーストラリア、米国を専門とする研究者相互の対話並びに参加の皆様からのご質問を交えて解説を行いました。
モデレーターは当研究所研究本部長代行(東京大学大学院教授)の川島真氏が務め、大庭三枝氏(神奈川大学教授)、川上桃子氏(アジア経済研究所地域研究センター長)、佐竹知彦氏(防衛研究所主任研究官)、津上俊哉氏(津上工作室代表・当研究所客員研究員)、森 聡氏(法政大学教授・当研究所上席研究員)に登壇いただきました。外務省をはじめ諸官庁、大学関係者、企業、マスメディアから100名の視聴参加をいただき活発な議論が交わされました。
冒頭モデレーターより、「CPTPPに対する中台の加盟申請問題では『中国の加盟は反対、台湾については賛成』、『対中包囲網なのになぜ中国が入るのか』、『中国牽制の役割がCPTPPにあるのではないか』といった議論が散見される中、一歩足を止めて考えてみることが重要でないか」との問題提起がなされ、中国、台湾、東南アジア、オーストラリア、米国といった国々のCPTPPへの見解を通して日本はどうすべきかを考えたいとの趣旨を述べました。
ディスカッションの概要は以下の通りです。
(中国の視点) • 中国には、1.米国がCPTPPから脱退している間に国際社会のルール作りに主導的に参加する、2.改革開放政策の推進、3.台湾に対する牽制という意図がある。 • 一方で、関税撤廃などマーケット・アクセスに関わる問題、労働組合結成の自由、強制労働の撤廃、データの取り扱いといった「国のかたち」に関わる問題、国有企業に対する政府の干渉など国家資本主義の是非に触れなくてはいけないというハードルが存在する。
(台湾の視点) • 2000年代後半からアジアのFTAの波の中で取り残されたことへの焦燥感が背景にある。 • CPTPPは中国のいない大きな貿易の枠組みであるため関心は高く、2016年に当選した蔡英文政権も対中国経済依存からの脱却という方針と親和性が高いことから取り組んできた。 • 経済的には、素材産業、多数の最終組立工場を展開しているベトナムとの貿易にはメリットがあるものの、農産品、自動車業界は打撃を受けることから国内での議論は分かれる。 • 日本、米国との食品禁輸問題は高度な国内政治問題となっており、CPTPPに対する反対意見につながっている。
(ASEANの視点) • CPTPPはASEANが主体となって作ってきたものとは異質な枠組みであり、現在ブルネイ、シンガポール、マレーシア、ベトナムの4ヶ国のみの加盟に留まるが、タイ、インドネシア、フィリピンといった未加盟国の中には焦りを感じている国もある。 • RCEP(地域的な包括的経済連携協定)はASEANを中心とする物品中心の統合であり、サプライチェーンの深化拡大に繋がっていた。それに対してCPTPPは高いレベルで包括的な自由を目指しており、また知財、投資、環境、労働、国営企業といったASEAN諸国としては踏み込みにくい分野も俎上に上るため、対米輸出拡大が見込めるメリットはあるものの敷居が高く、参加できる国は限られていた。 • 米国の離脱と中国の加盟申請は、ASEAN諸国にとってCPTPPの意味に大きな変化を与えた。中国の加盟申請に濃淡はあっても強く反対する国はないだろう。一方で台湾の加盟申請については複雑な対応を迫られると見込まれる。
(オーストラリアの視点) • 加盟申請を行う国はCPTPPが求める条件を満たす必要があること、中国はオーストラリアに対する経済的圧力を止める必要があること、中国が交渉のテーブルにつくこと、の三点を求めている。 • 国内では対中関係の改善のためのツールと捉える見方や国際的な秩序作りに中国を組み込んでいく好機との見方があるが、豪中対立は安全保障上の脅威という声も多く、足下のAUKUS設立を踏まえると米国不在のCPTPPに中国が加盟することを容認する可能性は低い。
(米国の視点) • 基本的に中国の加盟申請に対しては「加盟国の判断次第」というスタンスであり、バイデン政権は現段階ではCPTPPへの加盟は考えておらず、棚上げするのではないか。 • 米国が代替案として検討を進めている「インド太平洋経済枠組み」は現時点において具体的内容がわからない点が多いが、今後どのように補強、充実させていくかは注目すべきであろう。
(日本の対応) • 米中が進めるサプライチェーンの囲い込みを柱とする経済安全保障とCPTPP/RCEPが目指してきた自由で開かれた経済体制は矛盾するところもあり、その意味でも改めてCPTPPの意義が問われていると指摘できる。 • 対中外交カードとして活用しつつ、中国の加盟申請に強硬に反対し続けることでCPTPP加盟国内での孤立も避けたい。そのため「中国のCPTPP加盟申請は歓迎するが中台同時加盟とすべき」と積極的に提案する姿勢が必要ではないか。 • オーストラリアを含め有志国と言える国々と連携しつつ、当事者意識を強く持ち、地ならしを早めに、かつ積極的に行っていくことが重要である。
モデレーターは当研究所研究本部長代行(東京大学大学院教授)の川島真氏が務め、大庭三枝氏(神奈川大学教授)、川上桃子氏(アジア経済研究所地域研究センター長)、佐竹知彦氏(防衛研究所主任研究官)、津上俊哉氏(津上工作室代表・当研究所客員研究員)、森 聡氏(法政大学教授・当研究所上席研究員)に登壇いただきました。外務省をはじめ諸官庁、大学関係者、企業、マスメディアから100名の視聴参加をいただき活発な議論が交わされました。
冒頭モデレーターより、「CPTPPに対する中台の加盟申請問題では『中国の加盟は反対、台湾については賛成』、『対中包囲網なのになぜ中国が入るのか』、『中国牽制の役割がCPTPPにあるのではないか』といった議論が散見される中、一歩足を止めて考えてみることが重要でないか」との問題提起がなされ、中国、台湾、東南アジア、オーストラリア、米国といった国々のCPTPPへの見解を通して日本はどうすべきかを考えたいとの趣旨を述べました。
ディスカッションの概要は以下の通りです。
(中国の視点) • 中国には、1.米国がCPTPPから脱退している間に国際社会のルール作りに主導的に参加する、2.改革開放政策の推進、3.台湾に対する牽制という意図がある。 • 一方で、関税撤廃などマーケット・アクセスに関わる問題、労働組合結成の自由、強制労働の撤廃、データの取り扱いといった「国のかたち」に関わる問題、国有企業に対する政府の干渉など国家資本主義の是非に触れなくてはいけないというハードルが存在する。
(台湾の視点) • 2000年代後半からアジアのFTAの波の中で取り残されたことへの焦燥感が背景にある。 • CPTPPは中国のいない大きな貿易の枠組みであるため関心は高く、2016年に当選した蔡英文政権も対中国経済依存からの脱却という方針と親和性が高いことから取り組んできた。 • 経済的には、素材産業、多数の最終組立工場を展開しているベトナムとの貿易にはメリットがあるものの、農産品、自動車業界は打撃を受けることから国内での議論は分かれる。 • 日本、米国との食品禁輸問題は高度な国内政治問題となっており、CPTPPに対する反対意見につながっている。
(ASEANの視点) • CPTPPはASEANが主体となって作ってきたものとは異質な枠組みであり、現在ブルネイ、シンガポール、マレーシア、ベトナムの4ヶ国のみの加盟に留まるが、タイ、インドネシア、フィリピンといった未加盟国の中には焦りを感じている国もある。 • RCEP(地域的な包括的経済連携協定)はASEANを中心とする物品中心の統合であり、サプライチェーンの深化拡大に繋がっていた。それに対してCPTPPは高いレベルで包括的な自由を目指しており、また知財、投資、環境、労働、国営企業といったASEAN諸国としては踏み込みにくい分野も俎上に上るため、対米輸出拡大が見込めるメリットはあるものの敷居が高く、参加できる国は限られていた。 • 米国の離脱と中国の加盟申請は、ASEAN諸国にとってCPTPPの意味に大きな変化を与えた。中国の加盟申請に濃淡はあっても強く反対する国はないだろう。一方で台湾の加盟申請については複雑な対応を迫られると見込まれる。
(オーストラリアの視点) • 加盟申請を行う国はCPTPPが求める条件を満たす必要があること、中国はオーストラリアに対する経済的圧力を止める必要があること、中国が交渉のテーブルにつくこと、の三点を求めている。 • 国内では対中関係の改善のためのツールと捉える見方や国際的な秩序作りに中国を組み込んでいく好機との見方があるが、豪中対立は安全保障上の脅威という声も多く、足下のAUKUS設立を踏まえると米国不在のCPTPPに中国が加盟することを容認する可能性は低い。
(米国の視点) • 基本的に中国の加盟申請に対しては「加盟国の判断次第」というスタンスであり、バイデン政権は現段階ではCPTPPへの加盟は考えておらず、棚上げするのではないか。 • 米国が代替案として検討を進めている「インド太平洋経済枠組み」は現時点において具体的内容がわからない点が多いが、今後どのように補強、充実させていくかは注目すべきであろう。
(日本の対応) • 米中が進めるサプライチェーンの囲い込みを柱とする経済安全保障とCPTPP/RCEPが目指してきた自由で開かれた経済体制は矛盾するところもあり、その意味でも改めてCPTPPの意義が問われていると指摘できる。 • 対中外交カードとして活用しつつ、中国の加盟申請に強硬に反対し続けることでCPTPP加盟国内での孤立も避けたい。そのため「中国のCPTPP加盟申請は歓迎するが中台同時加盟とすべき」と積極的に提案する姿勢が必要ではないか。 • オーストラリアを含め有志国と言える国々と連携しつつ、当事者意識を強く持ち、地ならしを早めに、かつ積極的に行っていくことが重要である。