2023/11/14
11月7日にNPIウェビナー「2024年台湾選挙の行方~台湾政治経済と国際関係の交錯~」を開催しました。
2024年1月13日に投票日を迎える台湾総統・立法委員のダブル選挙に向けて、台湾での選挙戦は本格化し、国際的な関心も高まりを見せています。私たちは、この総統選挙戦のどのような部分に注目し、選挙戦のなかで現れる様々な論争をどのように捉えるべきでしょうか。
本ウェビナーでは、台湾の選挙情勢と展望を台湾政治経済と国際関係の両面から分析しました。
[パネリスト]
松本 充豊 (京都女子大学 教授)
伊藤 信悟 (国際経済研究所 主席研究員)
福田 円 (法政大学 教授/中曽根平和研究所 客員研究員)
[モデレーター]
川島 真 (中曽根平和研究所 研究本部長)
当日は、官庁、企業、研究者、マスメディア等の方々の視聴参加を受け、活発な議論が交わされました。議論の主なポイントは以下のとおりです。
・足元の支持率は、蔡英文路線を踏襲する民進党の頼清徳氏が支持率でリードしているが、これは蔡総統の掲げた中華民国台湾など「四つの堅持」に対する評価も反映している。
・それを追う国民党の侯友宜氏と民衆党の柯文哲氏が、候補者を一本化できれば逆転する可能性があるが、今のところ調整が難航している。
・世論には長期政権を敬遠し、政権交代を期待する向きもあるため、選挙は直前までどうなるか分からない。
・有権者は、統一・独立といった二者択一のナショナリズムより、台湾人意識に基づいた台湾アイデンティティ(現状維持)を選好している。
・台湾の対外政策の選択肢は限られているため(対米関係が基軸)、米中問題は争点とはなっていないが、対中チャンネルがない現状の評価は論点となりうる。
・米中両国は台湾選挙への表立った介入は行っていないが、候補者の郭台銘氏について、米国政府が副総統候補の米国籍放棄手続に協力した一方で、中国当局が鴻海精密工業の中国子会社に税務調査を行うなど、微妙なさや当てが見られる。現在中国政府が台湾に対して行っている貿易障壁調査の期限が、台湾の選挙前日(2024年1月12日)に設定されている点は留意が必要。
・国民党の中でも中国との関係では温度差があり、侯氏はそれほど中国とのつながりは強くない。仮に政権交代したとしても、馬政権時代とは国際環境が激変していることから、当時の安全保障政策に戻ることは考えにくい。中国も国共合作は既に放棄している。
・2019年に中国の習近平国家主席が台湾政策重要講話で台湾統一を表明して以降、台湾世論は中台関係について経済的利益より国家主権(外交・安全保障)を重視するようになった。香港における民主派排除と一国二制度の形骸化や、米国のペロシ下院議長(当時)の訪台を契機とした中国による軍事的・経済的威圧も同様に台湾世論に大きな影響を与えている。
・中国軍による台湾周辺での軍事演習は常態化し、経済的威圧も継続しているが、露骨な威圧が逆効果であることは、中国側も過去の経験から認識している。
・台湾の対中貿易依存度は、低下傾向にはあるものの、依然高い水準にある。
・日米欧企業のサプライチェーンの再構築(デリスキング)の影響もあり、台湾から中国への投資も減少傾向にある。台湾企業はITを中心に受託生産が多いため、顧客企業の動向に左右される。
・台湾経済は足元で景気回復に向かっており、インフレ率も低下傾向にあるため、経済は大きな争点とはなっていない。
・頼氏が総統に選出された場合でも、総統選挙と同日に開催される立法委員選挙で民進党が過半数を確保できず、総統府と立法府に「ねじれ」が生じて分割政府となった場合は、政権運営の足かせとなる可能性がある。台湾にとって、各国との議会交流は重要な外交手段である。
・中国政府も、頼氏の総統就任を前提として今後の台湾戦略を検討している可能性はあるが、92年コンセンサスを否定する頼氏が対中チャンネルを構築できるかは不透明である。頼氏は蔡英文路線を継承するものの、状況に応じて独自の政策を打ち出す可能性はある。
・今回政権交代したとしても、自由・民主主義・対米関係といった理念(価値)・基本政策に変更はないとみられる。
・今月に予定されるAPECでの米中首脳会談を通じて、両国の競争をコントロールするためのガードレールが整備され緊張緩和に向かうかどうかは、台湾にとって重要なポイントとなる。
・日本は台湾にとって米国に次ぐ重要な友好国と見なされており、誰が政権を担っても基本政策は変わらない点を認識したうえで、新政権との関係構築に向けて準備すべきである。
以上