2002/10/25
フランソワ・エイスブール 英国IISS理事会議長 講演会 「9.11テロ攻撃後の戦略的変化」
於:キャピトル東急ホテル
世界平和研究所は、日本財団の助成を受け、10月25日、キャピトル東急ホテルにて フランソワ・エイスブールIISS理事会議長の「9.11テロ攻撃後の戦略的変化」に関す る講演を開催した。
講演の冒頭、エイスブール議長は、9.11テロ攻撃によって、世界はなお冷戦時代の 遺産を引きずりつつも、大きな枠組み変化が訪れたと指摘し、そのため、つぎのよう なさまざまな変化が起こっていると続けた。
まず、非国家(的国際行為)主体による脅威の増大が顕著となったが、とりわけ、大 規模破壊を行う勢力の脅威が問題となってきた。米国はこうした脅威に対し、アジア の同盟国などと協力し対処を図っているが、多くの矛盾なども生じてきており、危機 は増大しつつあるといってよい。また、核の拡散に関する問題に関しても、その枠組みに変化が現れ、従来の枠組み が機能しにくくなっている部分がある。とりわけ、中東においては政治、宗教、ある いは石油利権をめぐる複雑な動きがあり、新たなリスク、危機が兆しつつある。むろ ん、欧州もアジア諸国もこうした問題に対処しようとしているが、問題の構造は簡単 ではない。
すなわち、広範な基盤を有するイスラム勢力の力は弱まってきたが、代わって、ア ルカイダのような少数派の過激派勢力が台頭している。また、けっして豊かとはいえ ない国々が軍事力増強の努力を続けているという問題もある。これら諸国は、オスマ ン・トルコ崩壊以降に成立し、抑圧的国家として存在してきた場合が多いのだが、問 題にはナショナル・アイデンティティなどの要素も絡んでいるので簡単ではない。
しかし、事態は以前考えられていたほどではないものもある。大量破壊兵器問題に 関しては、かつてケネディ政権時代には、将来、15~20カ国程度が核を保有するので はないかとみられていたが、当時リストに上げられていた多くの国は、その後、米国 や国際社会の説得を経て、そうした望みを断念している。だが、同様に禁止条約が結 ばれている化学兵器や生物兵器では、状況は必ずしも芳しいとはいえないものがあ り、これはミサイル問題でも同様である。依然として、幾つかの国は秘かに開発を進 め、輸出なども行っている。そして関係する諸国間の抑止状況は冷戦時代よりも緩ん でおり、その意味でも危機は冷戦時代より高まっているといってよいだろう。
また、非国家主体による大量破壊兵器の取得を考えた場合、一部のならずもの国家 は、大量破壊兵器の開発拡散だけでなく、国家犯罪的麻薬取引を行うなどあらゆる無 法行為を行うことから、きわめて大きな問題を起している。むろん、国家と異なりテ ロリストには封じ込めは効果が薄いから、あらゆる手段で対応することが重要であ る。9.11テロ事件でも明らかとなったように、テロリストは、テロ対象国の内部で活 動しており、抑止にはテロリスト情報の収集など幅広い分野の対応が必要であり、テ ロの防止のためには、かつてマネーロンダリング防止でも行ったように、資金規制、 経済行為の監視等、やはりあらゆる対応が必要となる。また、抑止には先制が手段と して重要であり、手を拱いていては絶対に抑止は成立しない。実際、非国家主体の内 外活動区分は不明確であり、それに対応するためには国際協調が絶対必要である。米 国はすでに本土防衛でそれをめざし、フランスもまた同様の国防強化を行っている が、単に軍事的、安全保障面で協力するだけでなく、資金面、情報面でも緊密な国際 協力が必要である。
また、同盟関係に関しては米国は国際的連帯の強化を図っており、その動きは欧州 でもアジアでも変わらない。すでに米国は本年1月29日発表の一般教書で米国の新戦略 を発表し、化学兵器、生物兵器テロ防止の必要性を指摘している。また、本年6月、9 月のブッシュ演説でも、それら戦略に言及し、先制の必要性について述べているが、 これは必ずしも欧州、アジアの考え方と一致しているわけではない。ただ、現在では 先制に対する考え方は過去とは同じとはいえない。かつて、1981年にイスラエルが建 設中のイラクの原子力発電所を先制攻撃した際には、米国も含め世界がそれを非難し たが、現在の状況は異なっている。
エイスブール議長は、以上のような指摘を行った上で、最後に、9.11テロ攻撃後の 世界では、直面する脅威ならびにリスクは増加し、しかも国内、国外という区分を前 提した考え方も崩されてしまった以上、安全保障上だけでなく、幅広い分野で、かつ てなく全世界的な国際協調による対抗が必要となっていることは明らかであると総括 し、質疑応答においても広範な多国間協調の必要性などについて改めて言及して、講 演を締めくくった。(大濱)
※この講演会は日本財団の助成事業により行っております。