2014/05/20
2014年5月20日開催 海洋の安全保障に関するシンポジウム「台頭する中国と日米の戦略」
米国の戦略研究の泰斗であるエドワード・ルトワック博士及び村井友秀防衛大学校教授を招いてのシンポジウム「台頭する中国と日米の戦略」が5月20日に80名以上の聴衆の参加のもと開催された。シンポジウムは、二つのセッションに分けて行われた。
第一セッションでは、ルトワック博士による講演が行われた。博士によれば、現在の中国にとって最善の戦略とは「能力を隠して力を蓄える」という鄧小平時代の韜光養晦(とうこうようかい)方針の継続であり、次善の戦略とは日本以外の全ての周辺国と安定的な関係を築き、日本に対しては尖閣諸島を巡り強硬姿勢を採ることである。しかし中国は国内の指導部の分裂のために多くの周辺国と同時にトラブルを抱えるという最も望ましくない戦略を採用せざるを得なくなっているとされ、その結果としてこれらの諸国は次第に中国に対する対抗連合の形成を模索するようになると指摘した。そしておそらくは韓国を除いてそうした対抗連合が中国を圧倒するようになろう、すなわち中国は戦略面において「自滅」への道を辿っている、と指摘した。
これに伴う幾つかの論点として、博士はまず中国の「海軍主義」について、軍事力をどれほど高めても他国に脅威を与える存在であれば活動に制約が生じ、その点で中国は1914年以前のドイツと同じ過ちを犯していると指摘した。また中国の指揮統制システムの管理が厳格でないことについて触れ、旧ソ連では厳罰に処されたそのような行動が中国では一般的であることについて懸念を示した。また、日本の自衛隊は冷戦期の重厚長大な装備に拘り過ぎており、現実に直面する可能性の高い中国とのより低いレベルの紛争への備えを欠いていることについて警告した。ルトワック博士によれば、現在自衛隊が必要としているのは艦船の通信マストを破壊して通信を不能にしてしまうミサイルや、スクリューに絡まって相手の船舶を行動不能にしてしまう特殊な装置などの非致死性(non-lethal)兵器なのであるという。大切なのは、死者を出さずに相手を港へと帰らせる装備や戦術であることが強調された。
これに対して、第二セッションでは防衛大学校の村井教授からのコメント及びフロアからの質疑と応答が行われた。まず村井教授は、中国には友人がいない、とのルトワック博士の指摘に対して、中国は友達=同盟の有効性を信じておらず、そのために日米同盟の結束についても読み誤る危険性があるのではないか、と指摘した。続いて、中国は航空母艦を作っているとされるが、それは自分より弱い東南アジアや南アジアを念頭にした話ではないか、しかし過去と違うのは経済成長の結果として空母か潜水艦かのトレードオフがなくなり、両方の建造を同時に追及できるようになったことではないか、と指摘した。
更に、村井教授は現在の中国は力を蓄えて米国に挑戦しようと考えているのではないか、しかし現在はまだ国力が不十分なので代わりに日本を分裂させようとしているが、いずれは米国にも挑戦するのではないか、と指摘した。また、国際政治の考え方には権力移行が生じるときに戦争になるという考え方と経済的な相互依存の結果として戦争にならないという考え方の二つがあるが、中国は日本との間では経済的相互依存はないと考えており、日中関係は危機に直面しやすいのではないか、と指摘した。加えて、中国の現在の戦略が自滅的に見えるとしても、それは外交上のことであって内政上は成功しているとの理解なのではないか、もしそうならば日本の努力のみで関係を改善する見込みはないのではないか、とも指摘した。
こうしたルトワック博士と村井教授の指摘に対し、フロアからは中露提携の可能性、中国に正しい路線を採らせるためにどうすればよいか、米国の対応や中国への関与の在り方、中国との陸続きの諸国との提携が有効か、台湾をどう見るか、などの多様な質問が行われ、活発な意見交換が行われた。
ルトワック博士はこのシンポジウム開催に前後して、安倍晋三首相及び岸信夫外務副大臣と面会したほか、内閣官房国家安全保障局や海上自衛隊幕僚監部、防衛省防衛研究所及び航空自衛隊幹部学校などを訪問し、日本の専門家と意見交換を行った、また、メディアの取材にも応じるなど、近著『自滅する中国:なぜ世界帝国になれないのか』(芙蓉書房出版、2013年)の内容に基づき、中国の台頭を戦略面からどう見るべきかについて、活発な戦略対話を展開した。