2014/07/08
台湾の有識者等との海洋安全保障に関する意見交換
この六月下旬に、松本太主任研究員及び福田潤一研究員の二名が台北・金門島・与那国島等への出張を行ったところ、概要以下の通り。
1.台北での意見交換
(1)まず、遠景基金会を訪問して、先方の招待した台湾側識者と共に意見交換を行った。当方の松本主任研究員よりまずアジアを取り巻く安全保障環境についての情勢分析を披瀝し、これに対して台湾側の識者が質疑を行う形で意見交換がなされた。議論されたテーマは、日ロ関係、日ベトナム関係、海洋における信頼醸成措置、台湾の南シナ海への政策、日台漁業協定への評価、中国国務院台湾事務弁公室主任の張志軍の訪台、日本版台湾関係法の可能性、米アジア太平洋リバランス政策への台湾の評価など、広範に渡った。
(2)また、複数の台湾の有識者とも個別に意見交換を行った。まず、本年3月に始まった台湾学生による立法院占拠、いわゆる「ひまわり運動」の台湾政治における意義について、同運動に関係する台湾の識者から話を聞いたところ、「ひまわり運動」は現在では両岸経済協力枠組協議(ECFA)のサービス貿易協定(STA)に対する反対運動に留まっているが、潜在的には台湾独立を志向する政治運動であり、本年11月の地方都市選挙及び2016年の台湾総統選に向けた政治的インパクトが注目されるとのことであった。
(3)更に、台湾の外交・軍事に詳しい別の識者との意見交換によると、中国は2008年以降、日本やベトナム、フィリピンなどの諸国に対しては高圧的姿勢で接するようになったが、逆に台湾に対しては国民党の馬英九政権の誕生を受けて軟化した対応を示すようになったという。さりとて1,000発を越える弾道ミサイルが台湾を志向する状況は変わらず、台湾としてはスウェーデンなどを参考に中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力への対抗を考える必要があるとのことであった。しかし台湾は米国の有事の際の来援を不確かなものと考えているということであり、軍事演習は米国による支援の想定抜きで実施しているとのことであった。
(4)中央研究院の識者との意見交換では、昨年同研究院で行われたジョン・ミアシャイマー教授の講演への言及が行われ、中台間で経済を中心とした漸進的統一(creeping unification)が進んでいることが指摘された。識者はこうした状況に警鐘を鳴らし、台湾の関係者がミアシャイマーの主張(台湾には①核武装、②通常兵力による抑止、③中国に宥和する「香港」戦略、の三つの選択肢があり、最後は③の選択肢を受け入れざるを得なくなろう、というもの)を正面から批判できなかったことを指摘して、問題視した。
(5)最後に、国民党系の識者との意見交換では、「ひまわり運動」について政治運動として拡大することはないとの見通しが示され、台湾の中で同運動に対して様々な見方が存在することが裏付けられた。同識者はまた、今年11月の地方都市選挙について、国民党と民進党はそれぞれ三都市ずつを分け合うような選挙結果に終わるであろう、民進党がそれほど躍進することはないであろう、との見通しを示した。
2.離島視察
この機会に、台湾の離島である金門島及び日本の離島である与那国島を視察したところ、概要以下の通り。
(1) 金門島では、古寧頭戰史館、翟山坑道、湖井頭戰史館、八二三戦史館など、主に1949年の古寧頭の戦い及び1958年の第二次台湾海峡危機(八二三砲戦)に因んだ史跡や資料館を視察し、A2/AD環境下における離島防衛の実例について理解を深めた。また、対岸わずか6kmほどに位置する中国側の厦門への往復を行い、2001年から始まる中台の金門島経由の小三通の実態について把握した。
(2)与那国島では、2016年3月以降の配備が予定されている自衛隊の沿岸監視部隊の配備候補地(久部良・祖納地区)を視察した。