2016/12/14
第9回「日中関係シンポジウム」を東京で開催しました。
世界平和研究所(IIPS)と中国人民外交学会は2016年11月8日、「第9回日中関係シンポジウム」を東京で開催した。本シンポジウムは、政治・安全保障・経済・文化交流における日中間に横たわる課題を議論することを目的としたものであり、2007年の開始以来、両国の関係者が交互に訪問する形式を取ってきた。
今回、中国からは呉海龍・中国人民外交学会会長を団長とする12名の代表団が来日し、日本からは佐藤謙・IIPS理事長を含めた15名が議論に加わった。当日は、中曽根弘文・IIPS副会長主催のレセプションも催された。
第1セッションでは、「日中文化交流の深化に向けて」をテーマに、天児慧・早稲田大学大学院教授を議長として、川島真・IIPS上席研究員(東京大学大学院教授)と高洪・社科院日本研究所代理所長から報告があり、その後、意見交換を実施した。中国に対する日本の国民感情が悪化している要因として、いたずらに対立を煽るメディアの報道姿勢などが指摘された。これらを踏まえ、政治色を排除した草の根の文化交流が相互理解促進のために重要である旨確認された。具体的には、歌舞伎や京劇など伝統文化の交流に加え、小中学生など若い世代の相互往来が重要であり、さらなる拡大が期待されるとの認識が共有された。日中平和友好条約締結40周年(2018年)、東京オリンピック(2020年)といった節目を意識し、アカデミズムを始めとした民間レベルで相互理解増進に向けた様々な対話を増やしていく必要があるとの意見も出された。
第2セッションでは、「グローバル経済を踏まえた日中経済連携の方策」をテーマに、姜躍春・国際問題研究院所長を議長として、田中賢治・日本政策投資銀行経済調査室長と張季風・社科院日本研究所所長補佐から報告があった。その後、コメンテーターの西村康稔・衆議院議員も交え、環太平洋経済連携協定(TPP)・一帯一路の他、中国の構造改革について意見交換を行った。日本側からは、対中投資を呼び込むためには、過剰設備や不良債権などの構造問題にスピーディに対処するとともに、積極的な情報開示が欠かせないとの指摘がなされた。中国側からは、設備の「過剰」は相対的な概念であり、新興国の成長が持ち直してくれば解消される可能性があるとの主張がなされ、両国間で問題の捉え方にギャップが存在した。他方、日中の緊密な経済連携が必要であるという点については意見が一致し、環境対策・食の安全といった分野で官民一体の新しい協力体制の構築が必要だという具体的な提案もなされた。
第3セッションでは、「アジア地域の安定と繁栄に向けた課題」をテーマに、藤崎一郎・IIPS副理事長を議長として、香田洋二・元海将と晋林波・国際問題研究院研究員から報告が行われた。その後、コメンテーターの長島昭久・衆議院議員を交えた意見交換を実施した。日本側からは、北朝鮮の核・ミサイル開発によって米国の軍事的対応が現実化する可能性も否定できないとの指摘がなされたが、中国側からは韓国に配備予定の高高度ミサイル防衛システム(THAAD)に対する懸念が表明された。海洋問題については、いわゆる九段線を国連海洋法条約に即して説明することが法による秩序維持の観点から不可欠であること、航行の自由は日米にとり重要な国益であること、が日本側より指摘された。中国側からは、中国の海洋進出によって航行の自由が損なわれたことはなく今後もその惧れはないとの見解が開陳され、尖閣諸島国有化という日本の現状変更によって今に至る情勢悪化が引き起こされたと反論がなされた。各論では意見の対立が少なからず存在したが、認識ギャップを埋めていくために、重要な隣国として対話による相互理解を追求していく必要があるという点については一致をみた。