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2019/05/31
「知りたいことを聞く」シリーズ 「中国の知財・技術戦略-米中対決と日本への影響」(川島真上席研究員、荒井寿光副理事長、津上俊哉日本国際問題研究所客員研究員)

 中曽根平和研究所では、「知りたいことを聞く」シリーズ第五弾として、「中国の知財・技術戦略-米中対決と日本への影響」と題して、川島真東京大学教授(当研究所上席研究員)、荒井寿光元特許庁長官(当研究所副理事長)、津上俊哉日本国際問題研究所客員研究員と会員との意見交換を、下記の通りにて開催しました。議論の概要は下記3のとおりですが、オフレコを前提としていますので、これ以上の詳細は割愛いたします。

 この会合は従来型の講演会ではなく、はじめ川島上席研究員がモデレータとなり荒井副理事長と津上国問研客員研究員にいくつか質問した後、会員出席者から質問する形で進行しました。今後も本シリーズを開催していきます。

1 日時:令和元年年5月15日(水) 15:00-16:30

2 場所:中曽根平和研究所 大会議室

3 概要

(1)中国の知財・技術の現状

 中国は1980年代に改革開放政策の下、憲法に発明の奨励を規定。当初は「ニセモノ大国」だったが、WTO加盟後米国に叩かれ、ニセモノ退治に力を入れている。特許出願への補助金等国内技術振興を強化するとともに、日米欧から技術を導入し、現在ではファーウェイ等に見られるように先端技術も発展し、出願件数では世界一になっており、今や「知財大国」になっている。今や日本が周回遅れの技術もある。第135ヵ年計画(2016-20年)には「知財強国」の建設を明記。こうしたタイミングに米国大統領になったトランプが知財侵害等を許さないとして米中対立に至った。

 現在、米国から中国へのクレームは、①強制技術移転(合弁を強いる外資規制が関連)、②サイバー窃盗(米国を追い抜く「中国の夢」達成のためと国民全体で罪悪感が薄い)、③中国製造2025による先端技術育成(米国は15年の発表当時問題視しなかったが、17,18年に至り先端技術の長足の進歩を見せつけられ「スプートニクショックの再来」ともいうべき衝撃を受け、これ以上の中国技術発展を恐れ問題視)。

(2)中国知財・技術に対する日米での認識

 米国と日本ではビジネス界の態度が違う。米国ビジネス界は、これまでは親中的だったが、習近平の反腐敗で太子党の応援を得られなくなって以降、対中不満が高まり、今はトランプ大統領の対中強硬姿勢に声援を送っている。太子党の応援など受けられなかった日本のビジネス界にとっては、昔も今も中国のビジネス環境は悪いままであきらめており、ビジネス界の態度は変っていない。このため米国の持つ危機感とギャップが生じている。

 問題は、日本の経済界は中国の技術に遅れをとりつつあることへの危機感が不足していること。中国は米国に勝つために、懲罰的損害賠償制度導入等米国と同等の知財制度に変えている。中国は知財裁判のインターネット中継や機械翻訳で判決の英語版を世界に発信して、知財分野でも国際影響力を増そうとしている。しかし、日本は知財の法律も運用も古いままで、改善していない。知財システムでも日本は中国に遅れている。

 日本の大学の技術系も同様だし、文系も旧態依然で文学部以外で中国を扱う学部はないまま。日本人は、中国を2030年前と同じと思い込む、又は、変化に気付かないふりをしているのではないか。ただ、30才以下の若い人達は違っているが。

(3)米中対立と日本

(米中経済交渉の最近の困難化)

 最近、合意が近いと思われていた米中経済交渉の雲行きが怪しくなったのは、中国が事務方で合意した文書を大幅に削除する等後退したからと言われているが、これは知財等個別論点というより、国民・共産党内で過去の「不平等条約」の再来ではという反発が強かったのだろう。中国の体制に関係する問題があったのかもしれない。それを習主席も抑えられなかったとの見方もある。なお、米中交渉がこじれても、両交渉を担当するライトハイザー通商代表の体が空きにくくなることはあるかもしれないが、次期大統領選を控えたトランプ大統領の対日の貿易赤字の問題視は変わらないので、日米貿易交渉で日本に有利に作用することはあまりないのではないか。

(貿易戦争と覇権戦争)

 米中対立は、①関税引上げ等貿易戦争(ホワイトハイス主導)、②ハイテク覇権戦争(議会中心の超党派の対中タカ派)の2つがあるだろう。タカ派が強くなり、対中エンゲージメントは終わったとの議論が優勢。①は関税を払えば貿易自体はできるが、②は取引禁止になるのでビジネスへの悪影響がより大。ちなみに、②のタカ派(Hawkホーク)は、トランプ政権のアメリカファーストだけでなく、米国建国以来の伝統で、過去にも国際連盟や京都議定書不加入、ソ連ホーク、日本ホークも見られ、今、中国ホークだ。トランプ大統領が①の観点で6月の首脳会談で対中妥結したとしても、国防権限法等は粛々と実施され②は続く。中国もトランプ大統領が変わったら対中強硬姿勢が変わると思わなくなってきた。

(覇権戦争の影響)

 ②は、米国は国防権限法等で中国とのデカップリングを図ろうとしており、特にIT等グローバルなサプライチェーンを作ってきた産業が大変。第一弾として、5Gにからむファーウェイ等の技術利用が問題化している。規制以外に、DARPA(米国防高等研究計画局)等が米大学の理工系に対し中国人留学生がいるとベネフットに参加させないということで、スタンフォード、MIT等は中国人留学生の受け入れ停止との報道がある。米国は中国人留学生のビザ規制強化、メールチェック強化も行うが、中国は留学生帰国政策をとっておりそうした留学生の頭の中の情報をどうするか議論しているようだ。

(米中ブロック経済化)

 米国のデカップリングに対し中国は一帯一路で仲間作りをしており、21世紀の米中ブロック経済化のような動き。軍事・安保と経済の区分けもできなくなる。米中両者とも譲れないが、覇権争いが戦争に至るという「ツキディデスの罠」の話もある。米中の間に位置する、日本等北東アジアが踏み絵を迫られ一番困る。ただ、過去を見ると、米中両国とも政策が振り子のように振れており、対立構造が急に変わる可能性も頭に入れておく必要もある。

(日本は何をすべきか)

 日本の経済界は米国も大切だが中国ビジネスもやりたい。中国はお上中心の経済で中所得国の罠に陥っているようでもあり、米国には、「過激すぎる手段は仲間を遠ざけるだけで、持久戦で中国が弱るのを待った方がよい」等うまく訴えていく必要があろう。

 また、中国は現在米国との厳しい関係から日本に優しい態度をとっているが、過去の不買運動や現在の対カナダの厳しい態度等をみても、日本への態度急変もあり得る。

 いずれにしても、知財、技術、米中対立、日本との関係等変数も多いが、悪いことも含めた様々なシミュレーションをして考えておく必要がある。

以上

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