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2019/07/29
米中経済研究会「コロキアム」No.2「南太平洋に於ける中国の経済的プレゼンス台頭と日本はじめ諸外国のアクション」(黒崎岳大 東海大学 現代教養センター 講師)

中曽根平和研究所では、日本における太平洋諸島地域のエキスパートであり、中曽根康弘賞を一昨年受賞された、東海大学現代教養センター講師の黒崎岳大氏と、標題に関して、会員・研究所員との意見交換を開催しました。

議論の概要は下記3のとおりですが、オフレコを前提としていますので、これ以上の詳細は割愛いたします。

 この会合は従来型の講演会ではなく、最初の1/3を基調講演、その後2/3を出席者との質疑応答、という、意見交換重視型のものです。

1 日時:令和元年7月16日(火) 15:30-17:00

2 場所:中曽根平和研究所 大会議室

3 概要

(1)太平洋諸島地域における政治的アクターの変遷

 太平洋諸島は大きく、以下の3地域からなる:

①赤道から主に北に位置する「ミクロネシア」

(独立国は西からパラオ共和国、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国、ナウル共和国、キリバス共和国―――経済的には米国・日本と近い)

②赤道の南に位置し、海を隔ててオーストラリアと接する「メラネシア」

(独立国は西からパプアニューギニア独立国、ソロモン諸島、バヌアツ共和国、フィジー共和国―――経済的にはオーストラリアと近い)

③同じく赤道の南に位置し、メラネシアの東側および日付変更線付近に位置する「ポリネシア」

(独立国は西からツバル、トンガ王国、サモア独立国、ニウエ、クック諸島―――経済的にはニュージーランドと近い)

 第二次世界大戦以前から1950年代において、欧米等の植民地・支配下にあった太平洋諸島地域だが、1960年代以降、順次独立を果たしてきた。

 更に2000年代以降においては、国際情勢の変化(漁業・海底鉱物資源への注目、気候変動、地政学プレゼンス)に伴い、旧宗主国等に加え、国際機関、そして中国・台湾をはじめとした新興ドナー国等々の影響が増大する地域となった。

 前述の独立14か国に加えて、オーストラリア・ニュージーランドの16か国とフランスの2つの海外領土(ニューカレドニア、仏領ポリネシア)は、「太平洋諸島フォーラム」(PIF)を形成し、毎年年次会合を開催しており、この地域の政治経済社会の安定におけるもっとも大きな国際基盤となっている。

(2)太平洋諸島地域における中国(・台湾)の動き

 この地域における、中国と台湾の鍔迫り合いは激しい。

この背景を「人々の流入」という視点で見てくると、第二次世界大戦以前の華僑流入・現地化(オールドカマー)を源流に、1980年代以降は新たな中国人流入者(ニューカマー:先進各国の市民権をより容易に得るステップとしての意味も)が生じ、最近では東南アジア系の華僑ビジネスグループの経済進出もメラネシアを中心に著しい状況である。

また「国家間の関係強化」という視点でみると、特に中国においては、その巨大な経済力や軍事力を背景に、個別各国との関係強化がなされてきている(対フィジー:2006年のクーデター以降、距離を置いたオーストラリア・ニュージーランドに代わって関係を強化。対パプアニューギニア・サモア・トンガ・バヌアツ・ミクロネシア連邦等:社会インフラ建設での関係強化 など)。そして台湾も、それに対抗した動きを見せてきている。

こうした結果、太平洋諸島地域に於いては、前述の独立国14か国の内、現在、中国との国交樹立国が8か国、台湾との国交樹立国が6か国と、中米・カリブ海諸島地域と並び、世界で最も中台の影響力が拮抗したエリアとなっている。

更に、ここ1、2年の太平洋諸島地域における国際関係の動きについては「急激に影響力を強めている中国の影をにらみつつ、経済及び軍事面で協力関係を強めようとする米・豪・仏・日の動きが注目される」状況と総括できる。

とはいえ、中国のこの地域における影響力行使増大については、必ずしも地政学的戦略に基づく一貫したクリアなものとまではいえないのが実情である。むしろ、中国としては、この地域に於けるプレゼンスが、米・豪・NZ(ANZUS)に比べて下という意識があり、アジア・アフリカにおける自国のプレゼンスに少しでも近づくように、という感覚で動いている面もある(親・台湾と思われる国々への対抗措置等も特に発していない)。

一方、太平洋諸島諸国にとっては、旧宗主国等に代わる新たな資金援助元として、また有力な輸出先や観光送客元として、中国・台湾は魅力的であり、そこを可能な限り活用しようという、したたかな面も存在する。PIF加盟各国の中では、フィジー、パプアニューギニア、そしてサモアの政治的な存在が大きいが、3か国とも中台いずれかにべったりではなく、あくまでもバランス(経済的損得)を意識して付き合っている側面が大きい。また中国の経済的影響力の増大はあっても、この地域における中国元の流通にまでは至らず、やはり通貨経済圏の側面から見ても「ANZUS」への依存は変わらず大きい状況である。

(3)太平洋諸島地域にとっての"日本"

実は日本は、前述のPIF参加各国首脳を交えての国際会議を定例開催(3年ごと)している、域外における唯一の国家である(会議名「太平洋・島サミット」)。従って、この地域の安定・平和における日本のプレゼンスは、非常に大きいものといえる。

 2018年5月に開催された「第8回太平洋・島サミット」では、これまでの経済援助中心のテーマに加え、海洋における法秩序重視の証として「自由で開かれたインド太平洋構想」が新たに首脳宣言に盛り込まれた。そして今後、米豪等とも連携した能力構築支援(キャパシティ・ビルディング)も徐々に進められていく方向である。

 米国は、政権交代ごとに、太平洋諸島地域へのコミットメントの強弱が変わってきた経緯がある。またオーストラリアについても、太平洋諸島地域への自立支援と関与とのはざまで揺れ動いてきた歴史がある。そうしたなか、歴史的・経済的経緯に基づく諸島各国からの安定した信頼ベースがあるなかでの、日本の継続的な貢献は、この地域の安定・平和において、重要な役割を果たすものといえる。

 なお、太平洋諸島各国は、「独立国」の形態をとってはいるものの、独立への歴史的経緯や、前述の周辺諸国等への経済的依存を踏まえた場合、必ずしも私たちが考える「独立国」の概念・イメージとは一致しない部分もある。従って、環礁国にとっての「気候変動」、資源利権をめぐる国内(島内)対立など、個別事情を踏まえた柔軟な付き合いが、今後も求められていくと思われる。歴史的経緯もあって、この地域をつぶさによく知る一方、必ずしも利害関係優先の関係ではない日本だからこその、独自のコミットメントが可能であるともいえる。

以上

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