2020/11/30
第13回「日中関係シンポジウム」をオンラインで開催しました。
中曽根平和研究所(NPI)と中国人民外交学会は2020年11月26日に「日中関係シンポジウム」を開催した。
第13回に当たる今回は、「ポストコロナ時代における東アジア地域の平和と安定に向けて」をテーマに、日中双方の有識者11名が参加し、幅広い議論を交わした。今回のシンポジウムは、当初、中国人民外交学会側参加者を東京へ招致し開催する予定であったが、折からの新型コロナウィルス感染症の拡大に伴い、やむなくオンラインテレビ会議システムを使った遠隔開催となった。そのような世界規模のパンデミックの一方で、日中を取り巻く国際環境も大きく変化しており、これらが東アジア地域情勢特に日米中関係にどのようなインパクトを与えるのかに関して、広範かつ活発な議論が行われた。
シンポジウム開会式では、冒頭で藤崎一郎NPI理事長から、バイデン新政権の下でも軍事的対立や新技術面の競争など米中間の対立が続くとの見方が多い。しかし米国民主党は、政策綱領で新冷戦を否定している一方、中国王毅国務委員・外相は米中は対立でなく対話と唱えており、双方からエールを送りあっているようにも見え、注目していると述べた。また王超外交学会会長からは、コロナ禍による日中間の往来が困難ななかでもこのような形で継続的に議論を行うこと重要性が強調され、本シンポジウムでも新しい日中関係に向けて有意義な議論を行うことへの期待が表明された。
第1セッションでは、久保文明NPI研究本部長から、米大統領選挙の評価と今後の国内政について報告が行われた。まず米大統領選について総括した後、今回の選挙が米国の国内政治に及ぼす影響について、議会内のねじれによる政府閉鎖の可能性が示された一方で、民主・共和両党の協力による経済刺激策、対中外交などの面で前進がある可能性についても言及された。また対中政策については、バイデン政権が誕生した場合は、トランプ政権と異なり、意思決定は原則に基づいた、体系的で長期的なものになるとの見通しが示された。ただし、選挙終盤においてバイデンが中国を厳しい言葉で批判していたことなどから、必ずしもバイデン政権が対中融和姿勢になる訳ではないという認識が示された。
次に王文中国人民大学重陽金融研究院執行院長から、コロナ関係、中国経済、米中、日中関係について報告が行われた。今回のコロナ禍は過去100年経験したことがないような衝撃であったが、ワクチンの開発を含め日米中の国境を超えたコロナ対策が重要であることが強調された。また、米国の情勢については、今後の中米関係の改善と、米国が多国間主義に復帰することへの期待が述べられた。ただし2024年にトランプ主義が復活する可能性についても指摘され、今後の四年間の推移が中国側にとっては重要であるとの見解が示された。TPPについては、中国にとって有益であるばかりかASEAN諸国も恩恵を享受できるもので、投資においても多国間主義は尊重されるべきであり、直接投資を増やしていく必要があるとの見解が示された。
第2セッションでは、まず森聡NPI上席研究員から、今後の米外交について報告された。①米国内の分断が目立っているが、過去4年間に米国世論は同盟や国際貿易を重視する外向きの姿勢を強め、②バイデン政権は多国間外交のアプローチをとりながら、中国、気候変動・感染症対策・不拡散といったトランスナショナルな問題、人権・民主主義にまつわる問題を重視し、③直接武力介入を避けつつ国内への投資を増やし、先端技術の軍事利用、アジア太平洋地域の重視、同盟国に対する防衛努力の強化を要請するといった外交・国防政策を打ち出すとの見通しが示された。
次に楊伯江社会科学院日本研究所所長から、コロナによってどのような変化が生じたかについて報告があり、米中間の経済関係など国際社会における力の配分の変化、G20の成立によるグローバルガバナンスシステムの変化、国家間・ブロック間の分断があり、いわゆる「新しい冷戦」とも呼べる時代が到来することへの懸念が示された。また、経済や安全保障分野での日中間の連携の重要性についても指摘があり、今や両国はRCEPを通じた日中の経済協力や東シナ海における問題で合意を模索する時期にきているとの見解が示された。
第3セッションでは、まず川島真NPI上席研究員から、今後の日米中関係の展望について報告が行われた。この中で、バイデン政権に変わったといっても劇的な対中変化というものはないだろうが、経済的、とりわけ貿易問題についてのトーンは下がるだろうとの見通しが示された。同時に、技術のデカップリングや、民主化問題についての対決姿勢は一層悪化するかもしれないが、地球温暖化問題やその他の地球規模問題については、バイデン政権は熱心に解決に取り組む可能性があり、この点は中国にとってよい機会となるだろうとの見解が示された。一方で、中国はアメリカに対して「新型大国関係」を求めるだろう。日中関係では、中国が用いる「新時代」に日本が困惑することが多く、また米中対立や尖閣諸島周辺での海警の活動などに係るネガティヴな対中感情がボトルネックになっており、ウィンウィンの関係としていくためには日中の共通課題である気候変動問題やRCEP多国間自由貿易や高齢化問題、社会保障、空気汚染、海洋汚染について協力関係を築くことが重要であるとの見解が示された。
次に詹永新元駐イスラエル大使からポストコロナ時代の国際交流の重要性に関する報告があり、コロナ禍は各国のサプライチェーンを寸断し、経済的打撃を与えるものであったが、先日署名されたRCEPは景気後退や一国主義、保護主義に対抗して地域経済の発展に寄与する重要な出来事であると総括された。また次期誕生するバイデン政権は、中国とより協調して問題解決にあたると言われており、米中が世界を二分するのではなく、協調していくことが大切だとの見解が示された。
その後、日中双方の出席者により質疑応答が行われた。その中で、欧渤芊外交学会副会長から今後の世界の平和と安定に向けての4つの課題として、①米国による国内問題の責任転嫁(コロナ拡大問題の中国非難へのすり替え)の是正、②現実世界とサイバー空間の乖離の解消、③米中関係の協調的競争への転換、④多国間主義の推進が指摘された。
閉会式では、王超外交学会会長と藤崎一郎理事長によってシンポジウム全体の総括が行われ、その成果と課題について双方の認識を共有した。またいかなる形であれ、日中双方での意見交換の場としての日中シンポジウムを継続させていくことの重要性について、双方で認識を共有した。