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2022/12/06
10月25日に宇宙・サイバーと先端技術研究会は、公開ウェビナー「宇宙・サイバー・先端技術革新と安全保障の将来像」を開催しました。

 近年、革新的技術の同時多発的ブレイクスルーが進む中で、経済・社会活動に大きな変化が生じており、その変化は安全保障にも及び、宇宙、サイバー空間の複雑化・戦闘領域化も進んできています。ハイブリッド戦争と言われるロシア・ウクライナ戦争では宇宙・サイバー・認知空間で、新しい時代の戦闘様相が一気に現実のものになりました。


 今回の公開ウェビナーでは、宇宙・サイバーと先端技術研究会の委員の皆様にご登壇いただき、宇宙・サイバー・先端技術の技術革新はどのように進展しているのか、また、急激な技術革新による将来の安全保障はどのようなものになるのか議論しました。


日時:2022年10月25日(火)10:30-12:00

テーマ:宇宙・サイバー・先端技術革新と安全保障の将来像

モデレーター:森  聡   慶應義塾大学教授/当研究所上席研究員

パネリスト: 長島 純   元航空自衛隊幹部学校長/当研究所研究顧問

       奥山真司   国際地政学研究所上席研究員

       上高原賢志  株式会社クライシスインテリジェンス事業部長

       福島康仁   防衛研究所主任研究官

       川口貴久   東京海上ディーアール株式会社主席研究員

       長迫智子   笹川平和財団研究員


ディスカッションの概要は、以下の通りです。


◆長島委員

「ロシアによるウクライナ侵攻から見た宇宙・サイバー・先端技術」

 今回のロシアによるハイブリッド戦は、2008年のジョージア侵攻や2014年のクリミア併合の際とは異なり、目立った効果が見られなかった。一方で、ウクライナ側の宇宙・サイバー領域における戦いにおいては、衛星画像、衛星通信、サイバーセキュリティ、ソーシャル・ネットワーク(SNS)など、民間部門が大きな役割を果たした。

 日本が留意すべきことは(1)ハイブリッド戦に対抗するには多国間協調が重要であること、(2)半導体などの先進技術に関わる経済制裁は長期的に大きな効果を発揮すること、(3)戦争における国民の抵抗する意識やモラルが引き続き重要であること、(4)ハイブリッド脅威への対処においては戦略的自立性が必要であること、などが挙げられる。


◆福島委員

「ニュースペース時代の安全保障」

 ニュースペースは、2010年代に入って本格的に到来した宇宙ビジネスの新たな潮流を意味している。衛星コンステレーションを用いたインターネットや地球観測サービスはその象徴である。2022年2月に始まったロシア・ウクライナ戦争はニュースペース時代の本格的な到来後、初めての大規模戦争である。ウクライナ軍は作戦の遂行にあたり商業宇宙サービスを積極的に活用している。同戦争が示唆することは、商業サービスを用いることで敵味方双方が宇宙を作戦利用できる時代が来たということである。さらに、互いによる宇宙の作戦利用を妨げるために、宇宙利用をめぐる攻防も活発化する可能性があることを示唆している。同戦争では実際に宇宙システムに対するサイバー攻撃やジャミングが確認されている。

 ニュースペース時代の到来はまた、宇宙開発利用におけるイノベーションの中心が官から民へと移行したことを如実に示している。こうした中、どれだけ速やかに民間のイノベーションに追随できるかが軍事的優劣に影響を与えると考えられるようになっている。


◆川口委員

「ロシアのウクライナ侵攻とサイバー分野における先端技術活用」

 ロシアはサイバー分野で大きな成果をあげていないように見えるが、実際にはそうではない。例えば、ロシアは前例がない規模でワイパー型マルウェア(データ消去型ウイルス)を開発・展開し、局所的・戦術的な成果をあげた。 一方、ウクライナは外国民間企業からの支援を含むテクノロジーを活用してサイバー防衛で成果をあげた。スペースX社による衛星インターネット接続サービス「スターリンク」によって、ロシアに破壊された地上の通信インフラを宇宙から代替した。また、ウクライナはマイクロソフト社やアマゾン社の協力を得て、政府データを国外に退避・クラウド化し、バックアップをとった。一部の政府データは破壊されたが迅速に復旧できた。

 今後、有事を想定した同盟国・有志国でのデータ保管は日本でも大きな論点となってくるだろう。さらに、ウクライナは平時から市民認証アプリ(Diia)を開発していた。このアプリは、ウクライナ市民がロシア軍の動向を収集・投稿する際、ウクライナ市民であることの証明としても機能した。いずれも、平時におけるDXの取組みや民間テクノロジーが有事において成果をあげたといえる。


◆長迫委員

「新たな戦闘領域:認知戦の脅威」

 近年、情報戦における影響工作の一環として、SNSを利用した情報操作型のサイバー攻撃が確認されている。 これは、われわれの認知をも標的としており、こうした情勢から、認知空間は新たな戦闘領域として認識されつつある。 情報戦や認知戦においては、平時、グレーゾーン、有事までを視野に入れた多角的な対策が必要であるものの、表現の自由や通信の秘密との兼ね合いなどから整備が追い付いていないのが日本での現状である。外国勢力による選挙への干渉やナラティブの戦いは我々の民主主義を脅かすものであり、NATOや欧米諸国の取り組みを参考に対策を行っていくことが喫緊の課題である。情報戦における影響工作の効果を定量的に明らかにすることは困難であるものの、モニタリング機関の設置、ファクトチェックやSNSにおけるクラスター分析等を組み合わせていくことで、実効的な対策に近づくであろう。


◆上高原委員

「量子技術が切り開く未来:暗号通信の観点から」

 量子技術によって通信が大きく変わることが期待されている。しかし、量子暗号通信技術は、絶対的な安全性が担保されている一方で、通信速度・距離は相当犠牲になる。ブロードバンド通信に慣れてしまったユーザーにとって、容易に受け入れることは困難である。また、携帯端末に本技術を搭載することも現状不可能である。さらに、日本のように四面環海で島嶼部が多い地形では衛星通信は必須であるが、まだ実用段階に至っていない。よって、「どのような通信ユーザーに、本当に安全性が高い通信の適用が必要なのか」また、どの程度守っていくのか、議論が必要となるだろう。 先端技術と軍事。技術的な突出した機能を部分的にでも生かしていく。完全ではなくてもある程度不足した状態でも受け入れる考え方や風土が必要である。


◆奥山委員

「ハイブリッド戦の切り札は「顔認識」? 」

 生体認証のうち顔認識の分野では、対象の同意を得ずに情報を収集する動きがある。例えばClearview AI社はインターネットにアップロードされているあらゆる顔写真をデータベース化している。同社の技術はウクライナでも利用されており、戦死したロシア兵の顔をデータベースと照合することで個人を特定し、遺族に連絡がとられている。ほかにも、監視カメラによる映像から戦争犯罪を犯した個人を特定することや、身分証を持ちあわせていない避難民の個人認証に利用されることもありうる。倫理的側面や法的側面において課題が残されている一方で、その利便性から米国では既に警察や公安に導入された例がある。


以上

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