2023/11/21
11月17日に、NPI「知りたいことを聞く」シリーズ「ガザ、イスラエル、米国」を開催しました。
NPI「知りたいことを聞く」シリーズは、人々が関心を寄せる旬のテーマについて、第一線の研究者に「知りたいこと」を投げかけて見解を聞く討論会です。ガザにおけるイスラエルとハマスの武力による対立は多くの犠牲者を出し、日本や西側諸国、中東の周辺国は様々な外交努力を続けていますが、具体的な事態の改善につながっているとは言えません。ガザの人道状況も憂慮すべき状況です。今回は中東調査会の高尾賢一郎研究主幹と上智大学の前嶋和弘教授をお迎えし、今後のガザをめぐる現状の分析と今後の見通しを議論しました。
【パネリスト】
高尾 賢一郎 公益財団法人中東調査会研究主幹
前嶋 和弘 上智大学教授、総合グローバル学部長
【モデレーター】
藤崎 一郎 元駐米大使/当研究所顧問
外務省はじめ諸官庁や企業、マスメディア関係の方々の視聴参加を受け、活発な議論が交わされました。当日、パネリストに問いかけた主要な質問は以下のとおりです。
1. ハマスはなぜ、どのような成算があって、あの10月の攻撃をしたのか。
2. ヒズボラ、イランは事前に知っていたか。周辺アラブ諸国はイスラエルを非難しているが、本音としてはイスラム過激派が弱まることを期待していないか。
3. 米国のイスラエルへの親近感は世代間の相違が大きいと思われるがどうか。
4. 米国内では、米国も軍事的に巻き込まれると思われているか。
5. イスラエル内政について、ネタニエフ首相への支持が失われる可能性はないか。
6. バイデン大統領提案の対イスラエル・ウクライナ支援提案を下院共和党がそのまま通すことは難しそうにみえるが、トランプ氏の影響や財政規律重視が理由であろうか。
7. ガザをめぐる今後の見通し、展望はどうか。
これらの質問に対し、パネリストの発言のうちいくつかをまとめると要旨以下のとおりです。
1. ハマスとしては勝利ではなく、イスラエルを再び孤立させることが主な目的であった。また、パレスチナ内部のパレスチナ問題、すなわちヨルダン川西岸地区への対抗もあった。
2. 周辺国は事前に知っていた可能性は低い。また周辺国にとり自らの体制批判こそがおそれるべきことなので、パレスチナ支持ではあるがハマス支持ではない。
3. この20年ほど、米国民の中には、ユダヤ人への贖罪の意識が薄れた点、ユダヤ系の中に穏健派も出てきたという点、イスラエル絶対支持の福音派に対して疑念がみられてきた点、増加する非白人にとりイスラエル問題は過去のしがらみになっている点、分極化の中で極端な意見を唱える議員も登場している点などの変化がみられる。
4. 米軍基地への攻撃は米国が巻き込まれる流れとして望ましくないとみられており、イランの動きが注目されているが、イランはまだ本気ではないと米国は見ている。空母の派遣はあくまで予防的措置と言える。
5. ネタニエフ首相は挙国一致内閣を作って野党を巻き込んでいるのが安心材料だが、国際社会の地上戦への支持が薄いこと、ハマス殲滅後のガザの姿がハッキリしないこと等から、支持が不透明になっている。
6. この10年間、ティーパーティー運動をきっかけに、共和党支持者の中で反共・国際的というそれまでの色彩が変わってきた。
7. 今後の見通しについては、
・ハマスにとっては、イスラエルに妥協させられれば目的を達したことになる。
・戦後のガザについては、西岸自治政府にガザも統治させるという可能性が高い。したがって皮肉ながら西岸自治政府が漁夫の利を得る可能性がある。
・アジアなどのムスリムが多い国が米国から離れるという反米の動きが続きうる。
・イスラエルとアラブ諸国との接近の動きは遅くなる。
・今以上の混乱、世界規模の対立は誰も望んでおらず、イランもそこまでの動きをするとはみられていない。