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2024/02/01
1月26日にNPIウェビナー「台湾はどこに向かうか~選挙結果と国際情勢への影響~」を開催しました。

 1月13日に投開票が行われた台湾総統・立法委員ダブル選挙において、総統選では与党・民進党の頼清徳・副総統が当選する一方、立法委員選では国民党が第一党となり民進党は少数与党に転落しました。

 本ウェビナーでは、このような台湾選挙結果が何を意味するのか、中国と台湾の関係や地域の国際情勢にいかなる影響を与えるのかを分析しました。


[パネリスト]

門間 理良 (拓殖大学 教授)

家永 真幸 (東京女子大学 教授)

川上 桃子 (アジア経済研究所 上席主任調査研究員)

[モデレーター]

川島 真 (中曽根平和研究所 研究本部長)


 当日は、官庁、企業、研究者、マスメディア等の方々の視聴参加を受け、活発な議論が交わされました。議論の主なポイントは以下のとおりです。


・今回の総統選では、長期政権への懸念があるなか、初めて同じ政党から連続3選を果たした。

・かつての国民党による長期独裁政権を知る世代が有権者の半分以下に減少したことや、頼氏が駄目であれば4年後の総統選で交代させることも可能という台湾有権者の民主主義への自信が背景にある。

・現職の副総統が総統選に当選したのも初めてである。過去に国民党の連戦氏が挑戦したが実現できなかった。頼氏が政権運営に失敗すれば、4年後に蕭美琴副総統が出馬する可能性もある。蕭氏は5月20日の副総統就任まで公的身分がないため訪米する可能性がある。

・当選はしたものの、頼氏の得票率は40%強と伸び悩んだ。本来、頼氏に向かうはずの若者の票が、得票率26%を獲得して躍進した民衆党の柯文哲氏に流れたのがその大きな要因。

・若者の関心は、蔡政権で社会の分断をもたらした台湾アイデンティティよりも、経済・生活に向けられている。少子高齢化により、人口ピラミッドに占める若者の割合は低下傾向にあるものの、選挙への強い影響力は保ち続けると考えられることから、今後は各党とも若者の支持獲得に注力するとみられる。

・今回の選挙では、台湾海峡の安定は争点とはならず、民衆党が金権体質の二大政党への批判票の受け皿となった。有権者の新政権への期待は経済振興がトップとなっている。

・蔡政権8年間の経済パフォーマンスは、昨年は半導体市況の影響を受けたものの、景気は総じて堅調であり、失業率や物価も安定していた。世論調査における足元経済への評価は、支持する政党に左右されることから、党派性を帯びているといえる。経済への不満を表明する回答者は、別の政治的不満を転嫁している可能性がある。

・総統選で勝利した民進党と若者の支持を得て躍進した民衆党の狭間で、国民党の勢力衰退が目立った。現状のままであれば、次回はより厳しい結果が予想される。蒋介石や蒋経国に対する評価も今後の論点として残っている。

・立法委員選では、第一党の国民党(52議席)と第二党の民進党(51議席)のいずれも過半数を獲得できず、第三党の民衆党(8議席)がキャスティングボートを獲得した。台湾の統治機構は、総統の権限が比較的弱く、立法院の権限が強いため、民衆党の動向が政権運営を左右する。台湾の立法委員選は地方選の影響を受け易く、2022年の地方選で民進党は敗北している。次回2026年の地方選は民衆党の動向も含め注目される。

・民衆党は、民進党に吸収されない程度に距離感を保ちながら、是々非々で政権に協力する可能性がある。同党は、台湾本土派の民進党と考えが必ずしも遠いわけではない。頼氏は、現実路線を求める民意への対応として、「中華民国台湾」を維持するのではないか。2月1日の立法院長選が両党の関係を占う最初の試金石となる。

・人材不足の民衆党にとって、閣僚ポストを獲得できれば将来政権を目指す上での人材育成の好機となる。民衆党は人材不足に加え、地方組織の欠如および資金不足が弱点とされる。

・今回の総統選で民進党の3選阻止に失敗した中国は、得票率40%強で当選した頼氏について民意を反映していないとして批判している。選挙期間中、経済的威圧を含め多様な介入手段を行使したが、前回と比べて軍事的圧力は抑制的であった。

・総統選後に中国政府は日本や米国などによる祝意表明に反発し、さらに太平洋島嶼国のナウルが台湾と断交し、中国と国交を結ぶなど圧力を継続している。

・今後は国民党に加えて民衆党との連携を通じて、少数与党となった民進党による政権運営の妨害を試みるとみられる。

・中国政府は、ECFAによる台湾企業への関税減免を一部停止する一方で、ECFAをテコにして減少傾向にある台湾企業による対中投資を誘致するなど、経済面で威圧と融合を同時進行させるというジレンマを抱えている。台湾との融合発展に向けて福建省に設けたモデル地区も成果は出ていない。

・米中対立によるサプライチェーン再編や中国経済の低迷などを背景に、台湾の対中投資や対中輸出はピークアウトしており、中国による台湾統一攻勢の切り札である経済面での結びつきに陰りがみられる。今後も台湾の中国離れのなかで、台湾に対して「繁栄か衰退か」を迫るナラティブを試みるだろう。

・中国は、2010年代後半に台湾からインターン受け入れなど恵台政策を通じて中国ブームを起こし、台湾の若者の取り込みに成功したが、その後、香港における民主化運動弾圧やコロナ禍を経て既にブームは終息している。今後中国の取りうる手段として、若者に影響力のある柯文哲氏への働きかけが考えられる。台湾でTikTokの若者世代への影響を懸念する声もある。

・中国人民解放軍の能力不足や足元の経済低迷により、現時点で中国の台湾本島への軍事侵攻の可能性は低い。

・ありうるとすれば、金門島や馬祖島への認知戦や、東沙島など無人離島への超短期侵攻が考えられる。

・昨今のマスメディアにおいて、「頼氏=米国寄り、侯氏=中国寄り」、「外省人=国民党=統一、本省人=民進党=独立」といった極端に単純化された論調を目にするが、研究者は長期的視点から台湾の実態に即してより丁寧に分析・発信していくことが求められている。


以上

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