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2024/08/20
8月6日に、NPI「知りたいことを聞く」シリーズ「混迷する中東情勢と日本の対応」を開催しました。

 NPI「知りたいことを聞く」シリーズは、人々が関心を寄せる旬のテーマについて、第一線の研究者・実務家に「知りたいこと」を投げかけて見解を聞く討論会です。

 ガザをめぐる情勢は、イランにおいて新大統領が就任するというタイミングでハマスのハニヤ幹部が殺害される等、不透明さと混沌が増しています。中東はなぜ混乱するのか。中東情勢の見通しと、日本がとるべき対応について、山内昌之・東京大学名誉教授をお迎えし、議論しました。


【パネリスト】

山内 昌之 東京大学名誉教授

【モデレーター】

藤崎 一郎 当研究所顧問/元駐米大使


 外務省はじめ諸官庁や企業、マスメディア関係の方々の視聴参加を受け、活発な議論が交わされました。藤崎顧問(前理事長)がインタビュアーを務めました。主な質問(参加者のものも含む)は以下の通りです。


・ハマスのハニヤ幹部の殺害を敢えてイランで行ったのは、イランを巻き込み米国がイスラエル支持を打ち出さざるを得なくするとの狙いではないか。このままガザ紛争はイランを巻き込んでエスカレートしてしまうのか。イランはイスラエルに報復しなくとも国内的に面子が保たれるのか。

・米大統領選の討論会で、トランプ氏はイスラエルに好きなようにやらせればいいと発言した。ネタニヤフ首相は、バイデン政権は相手にせずあと3か月頑張ればいいと思ったのではないか。そうだとすれば膠着状態が続くだろうか。

・イスラエルがハマス壊滅という目標を維持していては、ハマスとしては交渉も成り立たない。そうなるとガザの将来の統治はどうなるか。西岸は漁夫の利を得ることになるか。

・アラブの支配層・富裕層は、自国内の宗教過激派の伸張こそを警戒しているが、民衆の不満が自分たちに向かわないように、強く米国・イスラエル批判をしているとの見方があるが、どうか。

・ イランで新大統領が就任しても、実権は最高指導者の手にあると思われる。イランが核兵器保持国を目指すのを阻止するのは困難ではないか。そうするとイスラエル、アラブも公然と核保有を目指すことになり、中東は極めて危険な状況になるのではないか。

・中東において対米・対イスラエルの行動が次々と起こっている状況において、アフガニスタンがテロリストの温床となる可能性はどう見るか。

・中東外交において、日本としてアメリカと協調すべき点、一線を画すべき点は何か。

・ガザ紛争に関して、グロバールサウスと西側との間に亀裂が深まっているのではないか。


 これらの質問に対し、パネリストの発言のうちいくつかをまとめると要旨以下のとおりです。


・これまで直接的に対決してこなかったイスラエルとイランが国家的に対決することは、短期的・政治学的にはすこぶる危惧されるが、中長期的・歴史学的にみると、正面対決するにはハードルがある。親イランの他国組織による報復は否定できないが、イランの軍事力を直接使うことにイラン指導部は慎重であろう。またイランの世論として、新大統領を支持した層はイスラエルに対する過剰な攻勢に否定的でもある。イスラエルもイランの防衛体制の脆弱性を示すにとどめるなど、これまでは一線で踏みとどまってきた。

・ネタニエフ首相はアメリカを引き込みたい、巻き込みたいと考えている。イランとの対決においてもアメリカに出てきてもらいたいと考えており、トランプ氏の発言とは必ずしも合致していない。

・ガザにおいてハマスは市民の全体的な支持を受けているわけではない。選挙で選ばれている政治体である西岸の自治政府には有望な人物はおり、徐々にガザの人々の信頼を得ていくという道は考えられるのではないか。

・中東の社会・地域の安定のための選択肢は限られており、西洋的民主主義・プルラリズムはうまくいかずその代替として、神の唯一性を担う政治的体制のみが合法であるという考えが一つの答えとなっており、その他は内戦に終始するか軍主導の独裁政治体制で市民を抑圧するというのが現実。

・イランにおいて改革派の大統領が周期的に出てくるのは、民衆の不満を抑えている意味がある。またイスラム以前からペルシャ語による長い歴史と伝統が蓄積されている。このような性格を持つイランに対し、アメリカはうまく対応できずにきた。イランからの対話の呼びかけをアメリカは受けてみてはどうか。またイランはウラン濃縮を進めているが、核兵器を保有するという政治的な強い意志をすぐ実現するとは断定できない。西側にはこのような核敷居国を保有国にさせない技量が求められる。

・タリバンは、最初の政権時に比較して賢明になっており、はっきりした敵もいない。技術能力にも乏しく、アフガニスタンにおいて西側に向かうような組織的な暴力がすぐに発展する可能性は低い。

・日本は米国と一線を画すように見える必要はなく、また日本がはっきりとどちらかのグループに属するということは必要ない。ただ、ガザの人道的な犠牲の増大については声を上げるべき。パレスチナにおける共同農産業団地への日本の支援などが重要。

・グローバルサウスと西側の間でガザにおいて亀裂が生じたというよりは、冷戦時から各国の間には亀裂というよりは様々な相違があった。グローバルサウスの内部にも種々の対立がある。そのような中でも、ガザにおいて人道的犠牲を増やさないことについて国際世論が一致して議論し解決していくことが重要。

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