English

外交・安全保障

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE

2015/02/04
東アジアにおける新しい海洋安全保障アーキテクチャーに関するシンポジウム(2015年1月30日開催)

 今般、世界平和研究所主催、読売新聞後援にて、1月30日に都内ホテルにおいて「東アジアにおける新しい海洋安全保障アーキテクチャーに関するシンポジウム」が、アジアおよび米国、豪州を含む九か国からの有識者を招聘し、80人以上の聴衆の参加のもと開催されました。シンポジウムでは、各国有識者による活発な議論が展開されました。



150204_diplomacy_2.jpg 冒頭、世界平和研究所の佐藤謙理事長より、東アジアには、喫緊の課題である海上の安全保障問題に関して、監視能力を備えた地域機構が存在しないことを指摘しつつ、「アジア海洋安全保障協力機構(Asian Maritime Organization for Security and Cooperation, AMOSC)(仮称)」の創設を提案しました。

 とりわけ、昨年11月の日中間の首脳会談や1月22日には日中高級事務レベル海洋協議が開催され、また、本年がASEANと中国との間の海洋問題に関する協力年であることなどをふまえ、新たな提案を行うものであることにつき言及がありました。


150204_diplomacy_3.jpg 第一セッションでは、「東シナ海及び南シナ海における海洋安全保障問題と紛争に関する現状と見方」と題して、北岡伸一世界平和研究所研究本部長(国際大学学長)がモデレーターを務め、フィリピン、ベトナム、中国、台湾、日本の参加者からの報告が行われました。

 フィリピンのロイロ・ゴレズ氏(元上院議員)は、中国による南シナ海の島嶼の埋め立てが地域のみならずグローバルな勢力均衡に影響を与える点を強調しました。

 ベトナムのトラン・ベト・タイ氏(ベトナム外交学院)は、2014年の南シナ海情勢を概観する報告を行いました。

 中国の朱鋒氏(南京大学)は、中国以外の地域諸国も海洋における自己主張を強めていると述べ、安全保障のジレンマを回避する重要性を指摘しました。

 台湾の林泉忠氏(中央研究院)よりは、台湾の参加なくして、南シナ海の海洋紛争の解決はありえず、台湾は交渉の当事者たるべきことが強調されました。

 日本の香田氏(元海上自衛官)は、南シナ海の永興島、赤瓜礁、スカボロー礁で行われている中国の埋立ては、同海域の中心部に戦略的な三角形を作り出し、地政学的構図を変える点を強調しました。

 さらに、モデレーターの北岡伸一世界平和研究所研究本部長(国際大学学長)よりは、海洋紛争を国際法に基づいて多国間で協議を通じて解決していくことの重要性について指摘されました。


 コーヒーブレイクの後、当研究所の松本太主任研究員から、OSCEモデルに基づく「アジア海洋安全保障協力機構(AMOSC)」のアイデアの具体的な提案説明が行われました。

 同機構は、海洋での紛争防止やマネッジメント、中長期的な秩序づくりを目的とし、主な任務として、①中立的な立場から紛争海域を監視し、報告を作成する、②加盟国の外交当局や、海洋保安機関、海軍などの関係者一同が集まり、信頼醸成を図る、③加盟国の海洋保安機関などのキャパシティ・ビルディングを行うなどを想定していることが説明されました。


150204_diplomacy_4.jpg 第二セッションでは、「新しい地域的な海洋アーキテクチャーを含む海洋紛争に関する前進の方策と政策提言」と題して、藤崎一郎世界平和研究所副理事長(前駐米特命全権大使)がモデレーターを務め、AMOSCのアイデアに対してインドネシア、シンガポール、マレーシア、豪州、米国からの参加者による報告及びコメントが行われました。

 まずインドネシアのシャフィーア・ムヒバット氏(インドネシアCSIS)およびシンガポールのジェーン・チャン氏(RSIS)からは、新規の提案よりも既存のASEANの海洋安全保障アーキテクチャーを整理統合する重要性が指摘されるとともに、ASEAN中心主義との整理の必要性や、アジアにおいては欧州の知見を借りる必要は必ずしもないのではないかとの諸点が指摘されました。

 マレーシアのスッパイア氏(マラヤ大学)は、最初はインフォーマルな取り組みから初めて次第にフォーマルなやり方に発展させる方策について指摘し、その一例として太平洋経済協力会議(PECC)をモデルとすることを提言しました。

 豪州のジョン・リー氏(シドニー大学)は、提案成功の条件について、①勢力均衡の反映、②地政学重視、③制度の非遵守コストの向上の三点を述べました。

 米国のクローニン氏(CNAS)からは、中国がアジアの海域で国際法などのルールを守ることが必要であり、この点で地域において包括的な枠組みを作ることの重要性が指摘されました。

 


 世界平和研究所としては、今回のシンポジウムを通じて提示された各国有識者の意見やコメントをふまえて、ありうべき「新しい海洋安全保障アーキテクチャー」について、AMOSCのアイデアを中心に年度末に向けて報告書を作成し、今後、関係各国の官民に対してアイデアを提示していくことを考えています。


150204_diplomacy_5.jpg 150204_diplomacy_6.jpg


※本会議の成果を踏まえて当研究所が発表した政策提言はこちら。


▶世界平和研究所報告書:
「アジア海洋安全保障協力機構 (Asian Maritime Organization for Security and Cooperation, AMOSC)」~概念枠組みに関する第一次報告書~

▶IIPS (Institute for International Policy Studies) Policy Paper:
"Asian Maritime Organization for Security and Cooperation" (AMOSC) -- Initial Report on Conceptual Framework --

< 前のページに戻る

外交・安全保障の最新記事

記事一覧へ >

他の研究活動

公益財団法人 中曽根康弘世界平和研究所(NPI)
Copyright ©Nakasone Peace Institute, All Rights Reserved.