2017/03/09
中国経済研究報告書(平成28年度)
中国経済研究会の報告書を掲載しました。
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外交・安全保障問題を考えるにあたり、国の基礎となる経済情勢に着目することは重要です。特に、中国との関係において、貿易や直接投資を通じて中国と世界の各国の経済的な結びつきは拡大・深化しており、経済分野に焦点を当てた調査研究の必要性は高いといえます。
そこで、本調査研究では、2013年度、2014年度、2015年度に引き続いて、中国の経済情勢を俯瞰することを目的に、中国経済の実態に詳しい専門家の方々を講師に招き、コロキュアムを開催しました。本報告書は、中国の経済情勢について、その輪郭と主要な動きを浮き彫りにすることを目指し、各講師の発表内容を整理し記述するとともに、内外の中国経済に関する見方を整理しました。
2015年半ばから2016年前半にかけての中国経済の減速及び中国からの資本流出に関する懸念は、2016年半ば以降落着きを示しています。中国の公式統計において2016年の実質GDP成長率は6.7%となり、中国政府は中国経済の新常態(ニューノーマル)に自信を示しています。一方で、経済の回復は国有企業を中心とした公共事業・公共プロジェクトに支えられており、国有企業を含めた民間債務の増大は続いています。金融緩和と過剰生産能力削減努力によりデフレ懸念は払しょくされているものの、2015年後半から2016年にかけて地価バブルの懸念が指摘されています。減少を続けた貿易に回復の兆しはみられるものの、資本流出と人民元安の懸念は続いており、中国政府は資本取引規制の引締めを強化しています。中国経済は、依然として、投資・製造業主導から消費・サービス業主導の成長に向けた経済モデルの変革の途上にあると言えます。また、2017年はアメリカのトランプ政権の誕生で、米中関係は、外交・安全保障面だけでなく、貿易面でも不確実性が増しています。
こうした中で、中国の経済情勢を把握するには限りがあることは否めませんが、本調査研究における中国経済研究者や専門家からの貴重な講話を通して、中国経済の現状に関して、その一端を浮き彫りにすることができたと思います。世界平和研究所としては、2017年度も引き続き中国の経済運営の動向に注視してまいりたいと考えております。お忙しい中、ご協力いただいた専門家の皆様に改めて心よりお礼申し上げます。本調査研究が日中関係の改善、外交・安全保障問題の検討において、関係者のご参考になれば幸いです。
2017年3月
公益財団法人世界平和研究所