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2019/04/26
「国際金融視点で見た中国経済」 (児玉哲哉 バークレイズ銀行東京支店・バークレイズ証券株式会社 会長) (米中経済研究会「コロキアム」No.1)

 中曽根平和研究所では、「国際金融視点で見た中国経済」と題して、英国に本拠を置く国際金融グループである、バークレイズ・グループの日本拠点会長である児玉哲哉氏と、会員・研究所員との意見交換を、下記の通りにて開催しました。議論の概要は下記3のとおりですが、オフレコを前提としていますので、これ以上の詳細は割愛いたします。

 この会合は従来型の講演会ではなく、最初の1/3を基調講演、その後2/3を会員はじめとした出席者との質疑応答、という、意見交換重視型のものです。今後も継続して開催する予定です。

1 日時:平成31年4月8日(木) 15:00-17:00

2 場所:中曽根平和研究所 大会議室

3 概要

(1)国際金融の仕組み、ならびに中国の位置づけ

 まず、国際金融市場は文字通り「市場(いちば)」であります。世界から参加者が集って賑わってナンボです。基軸通貨であり続けたり、国際金融センターであり続けたりするためには、そうした魅力と安全性とを兼ね備え続けること、そして参加者からそうした信頼が寄せ続けられることが大前提になります。

米ドルのほうが使い勝手が良い、またいついかなる時でも使い勝手が良いように、政府・連邦銀行が、全面サポートをしている。だから国際決済通貨に使われ、基軸通貨たりうる、という構図がなかなか崩れません。

中国は、人民元の国際取引活用拡大を中長期的には志向しているとは思われます。ただこのためには、人民元の国際決済の割合を増やしていく必要があり、決済者(市場参加者)にとって、米ドル他の通貨以上に使いやすいように、為替規制緩和をはじめとした金融の自由化、人民元の海外流通量拡大を進めていかないと、決済者の人民元に対する支持は得られず、基軸通貨への道のりは相当遠いと思われます。ただ、旧ソ連(CIS)の一部諸国のように、地域経済の一国依存度が高い小さな国々のみであれば、そこでの人民元の取引優位性が、地域限定的に生じうることは考えられます。

 更に重要なのは基軸通貨たりうる立場を持続することの難しさです。ユーロについても一時期、米ドルの対抗軸としての基軸通貨を模索していた時期がありますが、ギリシア他加盟各国の財政危機の惧れに端を発したユーロ通貨危機により、国際通貨としての信認がゆらぎ、いまやユーロを単一通貨制度として維持することが第一義で、国際的基軸通貨への機はしぼんでしまったといってよいでしょう。通貨だけを統合し、財政基盤統合維持が不十分という構造的問題については、中国人民元ほか、国際流通を志向する通貨にとっては他人事ではありません

国際金融センターの面に目を向けると、香港の位置づけは不透明な部分があります。中国返還当初は、国際金融センターとしての地位が信じられていたが、上海への注力もあり、その地位維持向上へのメッセージが弱くなってはいます。ただ香港自体はシンガポール等との競争も意識しており、様々な取り組みは進めているところです。

一方、設立時にその意図や方向性について話題になったアジアインフラ投資銀行(AIIB)ですが、世界銀行やアジア開発銀行との協調融資を進めるなど、国際開発金融機関の一員として、一生懸命運営を進めている様子がうかがえます。もしかすると、中国政府にとっては、かえって使い勝手が少々悪くなったといえるのかもしれません。

(2)国際金融主体にとっての"安全保障"

バークレイズ・グループをはじめとした国際金融機関は、自行の運営の常なる安定維持、いわば"安全保障"を意識します。従って、国際取引・国際決済の最重要(かつ代替不可能)な市場である米国において、ビジネスが出来なくなるような(規制当局から認可が取り消されるような)取引は実施しないし、出来ません。またサイバーセキュリティに関してもBCP(事業継続性)の観点等から、然るべき外部人材登用も含めて、意識が高いです。

ある企業の経営陣が、米国でもし有罪判決を受けたら、米国で活動する金融機関との取引が相当困難になるでしょう。これはすなわち、米ドル決済が困難になるということであり、輸出入企業にとっては、企業運営存続にかかる極めて大きな打撃といえます。また、手続きには相当高い公正性とハードルとが必要になるでしょうが、米政府が、特定外国企業の決済を、安全保障上の観点から止める、といった可能性も理論的にはゼロではありません。

そうした(ある企業等にとっての)金融機能の不全化が、ビットコインをはじめとした「仮想通貨(暗号資産)」の活用をもたらす側面はあります。そうした意味では「仮想通貨(暗号資産)」は実質、利用主体から見たときに市場流通通貨が何らかの理由で活用できないときの代替手段的位置づけであるのが現実であり、従って現状、投機性も免れることが出来ないといってよいでしょう。

(3)国際金融主体からみた中国経済リスク

中国経済における最大のリスク懸念点の1つは、政府が経済をどこまでコントロールできるか、です。「一帯一路」についても、より大きな経済圏を志向し、内需を拡大していく、という経済システムとしての意図があると思われますが、一方で、中国を金融システムの面から見た場合、正直、青信号であるとは言い難い状況です。なかでもリスクなのは、国有企業の財務状態でありましょう。この国有企業には、日本でいういわゆるノンバンクも含まれると共に、また、地方政府が設立した企業も多く、中央政府がどこまで実情を把握し、どこまで底支えできるか、という問題があります。もしここで債務超過やデフォルト(債務不履行)などの信用不安が広がり、その時に中央政府が十分にマネージ出来ない状況などが露見した場合、中国の国際的経済金融リスクは一気に表面化します。巷間言われているような強硬策(預金封鎖や国有企業向けの大幅税率アップ)なども軽々しくとれるものではありません。

既に地方債が解禁され、中央政府保証での発行が行われるなど、国内地域ごとの財政安定化が少しずつ志向されては来ているものの、かつての日本や米国、欧州等と同様、「不良債権をはがして、民間企業の不採算事業を整理して、金融機関の資本注入等を通じた信用補完」といったオーソドックスな策をどこまで国家としてとれるか、がポイントになるのではないでしょうか。

(4)中国をめぐる米英等の付き合い方

米中貿易戦争は、広い意味で、今後20年以上は続くでしょう。米国にとっては安全保障の問題に加え、国際スタンダードの問題でもあります。

 そのなかで、人民元の為替レートについては、一時期より交渉におけるトーンは落ちたと思われます。しかしながら、関税引き上げをトリガーとして、物品別輸出入交渉は続いており、そこにも影響を及ぼす為替レートの行方について、依然として、米国の関心は続いていると考えたほうが良いでしょう。

英国のスタンスは「一帯一路やAIIB含め、中国の経済振興に一枚噛んで利を得られるならOK、但しフルコミットしているわけではない」といったところではないでしょうか。ただし英国企業にとっては本社(英国)とアジアの出先との、ビジネスに対しての意識の違いが顕在化するシーンもあり得、そうした時は当然のことながら、全社利益を考えてビジネスの伸長・縮小を図ることになります。

 最後に、中国への外国投資について。例えばESG(環境・社会・ガバナンス)投資は、最近中国としても力を入れてきているところですが、グローバルスタンダートとは異なる中国スタンダードになりがちなところが悩ましいところです。国際的な機関投資家の投資基準から今後外れるリスクもあながち否定できません。

以上

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