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2001/11/14
「IT革命がもたらす問題と国家の役割」

スケジュール
(1)第1セッション(14日(水)10:00~12:30)
議 題:「経済・金融」
報告者:東京大学大学院経済学研究課・奥野(藤原)正寛教授[PDF]
    Centre for the Study of Financial Innovation(英国)・Andrew Hilton所長[PDF]
    香港科学技術大学・Larry Dongxiao Qiu助教授[PDF]
    East-West Center(英国)・Dieter Ernst主任研究員[PDF]

(2)第2セッション(14日(水)14:30~17:00)
議 題:「経済・金融」
報告者:東京大学大学院情報学環・須藤修教授[PDF]
    Helsinki工科大学・Paul Lillrank教授[PDF]
    Connected Communities(米国)・Seth G.Fearey代表[PDF]
    漢陽大学(韓国)・朴容震(Yong-Jin Park)教授[PDF]

(3)第3セッション(15日(水)10:00~12:30)
議 題:「政治・社会」
報告者:Teesside大学CIRA研究所(英国)・Brian D.Loader共同所長[PDF]
    Georgetown大学(米国)・Linda Garcia教授[PDF]


【第1セッション】

当研究所は、11月14・15日の両日、東京全日空ホテルにて、「IT革命がもたらす問題と国家の役割」と題する国際会議及びシンポジウムを開催した(日本財団協賛)。IT(情報技術)革命は、単にニュー・エコノミーを生んだかどうかといった狭い議論でなく、電子商取引などにより経済・流通の仕組みのあり方、電子政府の進め方、デジタル・デバイドといわれる格差の問題など、社会・国家の仕組みにまで影響を及ぼす。しかも、IT革命の大きな特徴は、インターネットの利用など、ITを媒体とした取引や意思決定のプロセスがグローバルな性質を持っており、国家政策のあり方自体が他国との関係を考慮せざるを得ないといった点にある。こうした多角的かつ国際的な観点に立って、今後のIT革命がもたらす問題と国家の役割について、総合的な議論を展開した。

まず、第1セッションでは、「経済・金融」をテーマに4人の研究者が報告を行った(司会:当研究所小堀深三首席研究員)。最初に東大大学院経済学研究科の奥野(藤原)正寛教授が、IT化に伴う情報量の爆発的増大と経済のスピード化、電子的なデジタル情報処理技術の発展によるモジュール化といった新しい観点での経済の見方を説明した。英国CSFI(金融技術革新研究所)のアンドリュー・ヒルトン研究主幹は、金融部門におけるIT革命の影響に関して、オンラインでの金融事業がほとんど成功していないことや、セキュリティーやプライバシー保護の問題などを指摘しつつ、冷静な見方を提示した。

米国イースト・ウエスト・センターのディーター・アーンスト教授は、従来の多国籍企業から発展したグローバル・フラッグシップ・ネットワークといった観点での企業活動が持つ意味と、経済成長にとって重要な要素である知識の創造・普及といった側面について解説した。最後に香港工科大学経済学部のラリー・キウ教授は、著作権保護の強さとソフトウェアの貿易との関連を、パッケージ・ソフトとカスタム・ソフトとの違いを明確にした理論モデルを背景に説明した。質疑応答としては、ソフトウェア産業に関して、国際的な企業連携の動きや、リナックスなどのオープン・リソース開発が今後及ぼす影響、そして、電子的なコーディネーションの進展に伴って中国が生産基地化することのマクロ経済的なインプリケーションが論じられた。



【第2セッション】

次に、第2セッションでは、「電子政府・電子自治体」をテーマにやはり4人のパネリストが報告した(司会:当研究所薬師寺泰蔵研究主幹)。東大大学院情報学環の須藤修教授は、日本における電子政府への取組みを説明しながら、電子認証などのセキュリティ上の課題や、実際のIT化を進めるうえで必要なNPOなどの市場と政府を繋ぐ第3者領域の重要性に言及した。

ヘルシンキ工科大学のポール・リルランク教授は、世界の中で最もIT化が進んでいるとも言われるフィンランドにおける電子政府推進の取組みを、行政・政治分野での実績を中心に解説した。米国コネクテッド・コミュニティーのセス・フェアリー代表は、自治体レベルにおけるITを活用した行政事務の合理化・効率化が実現可能であり、これを通じて地方自治への住民参加を深めることができることを紹介した。

最後に、漢陽(ハンヤン)大学工学部の朴容震(ヨンジン・パク)教授は、韓国における電子政府化について、大統領直属の「電子政府具現戦略報告会議」による推進など最近の動きを含めて説明した。ディスカッションとして、電子政府化が持つ意味として、行政サービスの自動化(「eガバメント」でなく「aガバメント」)や効率化にとどまるものかどうかが主に論じられ、電子化技術に埋没することなく、地域・民主主義の活性化に結びつけることの重要性が指摘された。



【第3セッション】

最後の第3セッションでは、「政治・社会」について次の3人の研究者より報告が行われるとともに、当研究所中曽根康弘会長からもコメント、問題提起が行われた(司会:薬師寺研究主幹)。慶応大大学院政策メディア研究科の金子郁容教授は、藤沢市の例を通してIT化の持つ意味を説明しつつ、今後の可能性を含めてNPOの重要性について言及した。

英国ティーサイド大学のブライアン・ローダー教授は、米英における投票率の低下や政治的無関心の増大など民主主義の危機に対して、選挙運動、市民フォーラム、バーチャルな政治運動などを、インターネットを活用しながら行っている具体例を紹介した。米国ジョージ・タウン大学のリンダ・ガルシア教授は、米国における通信政策の歴史を振り返りながら、IT革命とメディア、そして政治との関係を論じ、多様な政府の役割を説明した。  中曽根会長は、90年代における日本政治の状況から現在の小泉政権への変化を、この間のメディアやITの発展に関連付けながら、大統領的首相と議員内閣的総理といった二つの役割の観点から論じ、IT革命そしてインターネットが政治や選挙に対して持つ意味についての問題提起を行った。これを受けて、パネリストを中心に活発な論議が行われ、IT革命と政治、とくに選挙との関係についての分析の重要性やITを効果的に活用するための行政区域の大きさ、そしてデジタル・デバイドへの対応など多様な問題に対する新たな視点の提示が行われた。

以上の議論を受けて、公開シンポジウムでは、当研究所大河原良雄理事長の司会により、第1セッションについて奥野(藤原)教授が、第2セッションについてリルランク教授が、第3セッションについて薬師寺研究主幹が、それぞれ各セッションの要約を報告した。これに対し、フェアリー代表が、米国カリフォルニアにおける電子自治体推進運動である「スマート・バレー・プロジェクト」の経験を踏まえながら、IT化の推進を通じた行政の透明性向上、役人が住民を顧客として見る考え方が広まっていることなどを説明した。その後、他のパネリストも含めて議論が進められ、IT革命の進展の下で、改めてトラスト(信用)の重要性をセキュリティーとの関連も含めてクローズアップする必要があることや、NPOなど市場と政府の間を埋めるものの役割が高まっていること、そして従来型の国の役割はインターネットの発達や「ブランド」の威力などにより着実に低下している一方で、政府自身は多様な役割を本来担うべきものであることなど、様々な考え方が集約されつつ提示された。 (富岡則行、主任研究員)


※この講演会は日本財団の助成事業により行っております。

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