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2019/10/07
NPIメールマガジン(2019年5月16日号)

中曽根平和研究所(NPI)メールマガジン (2019年5月16日号)

【目次】
1.特集記事
2.研究活動のご案内
3.刊行物のご案内
4.イベント・お知らせ

【特集記事】
ブレグジットの現状と展望-危機に直面する民主主義-
上席研究員 細谷雄一(慶應義塾大学法学部教授)

■閉塞状況のイギリス
 2017年3月29日にイギリスのテリーザ・メイ首相はEU離脱の通告を行い、本来であれば2019年3月29日にイギリスはEUを離脱しているはずであった。ところが、いまだにイギリスはEU加盟国のままであり、イギリス政治は深刻な危機に陥っている。
 このような混迷を招いた直接的な理由は、イギリス議会が三度にわたって、EUとイギリスとの間の離脱協定を否決したことである。特に最初の下院採決では、イギリス議会政治の歴史でも最大の造反を招いてしまった。本稿では、EU離脱、すなわちブレグジットをめぐるイギリス政治の混乱の原因を考え、今後の行方を展望したい。

■イギリス憲政の機能麻痺
 メイ政権が成立してから、イギリス政治は混迷を深めている。政権と議会との間で繰り返し意見が対立し、イギリス政治を機能麻痺させているのだ。問題は、内閣と議会が対立したときに、それを解消する手段が不十分な点にある。すなわち、2011年の議会任期固定法によって、内閣は議会を自由に解散できなくなったのである。
 イギリスは議院内閣制であるために、議会の多数派が内閣を形成して、両者の意向は一致するはずであった。ところが、メイ政権は2017年の総選挙で少数与党になってしまい、北アイルランドの地域政党で欧州懐疑的な民主統一党(DUP)の閣外協力に依存している。

■失政が続くメイ政権
 前述の議会任期固定法によって、2020年まで総選挙は行われないはずだったが、離脱交渉をめぐる保守党内での造反を想定して、2017年にメイ首相は解散総選挙に踏み切った。その結果、保守党は下院での過半数を失い、DUPの閣外協力を得て政権を維持した。
 離脱協定では、イギリスと地続きの国境で接するアイルランドとの関係が留意され、過渡期的にイギリスはEUとの関税同盟にとどまると規定された。これにDUPや保守党内の離脱強硬派が反発し、議会での否決が繰り返されたのである。

■イギリスの迷走
 EU側が離脱協定の修正に応じることはなく、「合意なき離脱」はイギリス経済に破滅的な影響を与えるという脅しも、むしろ党内の離脱強硬派の反発を招いた。DUPからの批判も強まる中で、手詰まりとなったメイ首相は労働党との妥協を試みた。こうして、メイ首相は党内の信頼を完全に失い、「メイ降ろし」が始まっている。
 事態の打開策を持たないメイ首相は、EUに対して離脱時期の延期を申請した。EU側は、イギリスが5月に行われる欧州議会選挙に参加することを条件に、フランスなどからの強い反発もありながらも、10月31日までの延期を受け入れた。

■今後のシナリオ
 まず、メイ首相が欧州議会選挙への参加に同意しなければ、6月1日にイギリスはEUから離脱することになるが、メイ首相は選挙を実施する方針である。他方、イギリスが欧州議会選挙に参加するとしても、10月31日までに離脱協定が下院を通過する保証はない。膠着状態が続けば、議会を解散するか、あるいは二度目の国民投票を実施するという考え方もある。ただし、どちらも容易な選択肢とは言えない。
 国民投票も解散総選挙も避けるとなれば、メイ首相は現行の離脱協定案に議会の同意を得るしかないであろう。もしそれが失敗すれば、離脱時期の再延期を要請するほかないが、それをEU側が受け入れるかどうかは定かではない。

■なぜこうなったのか
 このような閉塞状況をもたらした遠因をいくつか指摘できる。まずは、政治エリートや官僚への国民の不満の蓄積である。さらには、ポピュリズムとナショナリズムが結合することで、強烈なEU批判や複雑な問題の単純化が見られる。
 1980年代以降の新自由主義的な経済政策に疲弊し、キャメロン政権下の緊縮財政政策に不満を抱いていた国民は、キャメロン首相への批判の意味も込めて、EU離脱に投票した。EU離脱によって、イギリスが抱える問題が解決するわけではないであろう。長期的な展望が見通せない中で、しばらくイギリス政治の混乱は続くことが予想される。

※NPI Quarterly第10巻第2号(2019年4月)に掲載された記事を要約、一部修正したものです。
 後日、ホームページに本文を掲載致します。

【研究活動のご案内】
こちらでは、研究所の様々な研究活動について、その成果や提言を中心にご案内致します。

研究レポート(http://www.iips.org/research/kind/report/)
〇米中経済研究会レポート集(2019/03/25)
 https://www.npi.or.jp/research/2019/03/25094041.html

〇現代における潜水艦による通商破壊の妥当性(2019/03/20)
 https://www.npi.or.jp/research/2019/03/20095719.html

研究ノート(http://www.iips.org/research/kind/note/)
〇中国製造2025・半導体の潜在力を考える(2019/04/16)
https://www.npi.or.jp/research/2019/04/16164055.html

〇米国の鉄鋼輸入関税がもたらす影響について-関税賦課決定後1年を振り返って-(2019/04/15)
https://www.npi.or.jp/research/2019/04/15100228.html

〇USTR「中国のWTO遵守レポート」から見た「中国とWTO」の変遷;米国の失望と怒り(2019/03/26)
 https://www.npi.or.jp/research/2019/03/26175152.html

〇米中摩擦による日本の対中国ビジネスへの影響(2019/03/20)
 https://www.npi.or.jp/research/2019/03/20093832.html

【刊行物のご案内】
 こちらでは、研究所が刊行するNPI Quarterly(季刊)や、Asia-Pacific Review(英文ジャーナル)、研究員の著書・論文・その他の活動などについて、ご案内致します。

〇高橋主任研究員がISQOLSからインタビューを受けました(2019/05/07)
 https://www.npi.or.jp/media/2019/05/07115909.html

〇岩田主任研究員がBoston Global Forum主催のAI World Society Standardsのパネリストとして参加しました(2019/04/26)
 https://www.npi.or.jp/media/2019/04/26130551.html

〇高橋主任研究員のインタビュー記事がBLOGOSに掲載されました(2019/04/11)
 https://www.npi.or.jp/media/2019/04/11093357.html

【イベント・お知らせ】
 こちらでは、研究所が行うイベントなどについてご報告致します。

〇「国際金融視点で見た中国経済」(児玉哲哉 バークレイズ銀行東京支店・バークレイズ証券株式会社会長、米中経済研究会「コロキアム」No.1)(2019/04/08)
 https://www.npi.or.jp/research/2019/04/26130153.html

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