English

メールマガジン

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE

2019/10/07
NPIメールマガジン(2019年8月9日号)

NPIメールマガジン(2019年8月9日号)

【目次】
1.特集記事
2.研究活動のご案内
3.刊行物のご案内
4.イベント・お知らせ

【特集記事】
米国のインド・太平洋戦略
上席研究員 森聡(法政大学法学部教授)

 本年6月1日から2日にかけて、シンガポールで恒例のシャングリラ対話が開催され、各国の国防当局首脳陣が集った。アメリカからはシャナハン国防長官代行が出席し、これに合わせて『インド太平洋戦略報告書』(IPSR)を発表した。米国のインド太平洋戦略は、政治・外交的見地から二つの課題を抱えてきた。

■トランプの二国間主義の補完
 第一に、米国政府には、トランプ大統領の「米国第一」と、特に貿易における二国間アプローチを重視する姿勢から生じる地域諸国の不安を緩和するという課題がある。地域諸国は、米国に地域への関与を本格化する意思があるのか、米国の関心は東南アジアから再び北東アジアへと回帰したのではないかと疑念を深めている。
 国務省と国防省などの関係省庁は、米国がインド太平洋地域に多面的に関与する姿勢を示そうとしてきた。昨年のシャングリラ対話で、マティス国防長官(当時)は米国のインド太平洋戦略の主要テーマとして、海洋への関心の強化、同盟国・提携国との相互運用性の向上、法の支配・市民社会・透明性の高いガバナンス、民間セクター主導の経済発展を挙げた。
 また、2018年7月31日には、ポンペオ国務長官が「アメリカのインド太平洋経済ヴィジョン」と題する演説を行い、TPPからの撤退で地域諸国が米国の役割について疑問を抱いているであろうとしつつ、米国は高水準の二国間貿易協定を追求しながら、米国企業のプレゼンスを拡大しているとした。
 連邦議会もトランプ大統領の地域関与の薄さを補完しようとしている。それは、アジア安心供与推進法や開発投資法の制定に見られる。

■対中姿勢の硬化と地域諸国への安心供与
 第二に、地域諸国は米国の対中強硬姿勢にも不安を覚えており、米国政府は、中国への対抗に軸足を置きつつも、地域諸国にいかに安心を供与するかという課題も抱えている。オバマ政権第二期目の頃から米国の対中姿勢は硬化していたが、それは質的に変化している。2017年12月の『国家安全保障戦略』は中国を「修正主義国家(revisionist power)」と断じ、翌年1月の『国家防衛戦略』は中国との長期にわたる戦略的競争が始まったとの見方を示した。いまや中国の個別の問題行動だけでなく、そのパワーの増強自体を脅威とする見方が主流化していると言える。与野党対立が深刻な連邦議会でも、対中強硬路線は例外的に超党派の支持を集めている。
 しかし、東南アジア諸国は米中対立の深まりによる地域の分断を懸念している。象徴的だったのは、シャングリラ対話の開幕夕食会でシンガポールのリー・シェンロン首相が行った演説である。リー氏は、東南アジアが大国の草刈り場になってきた歴史に触れたうえで、中国に対しては重商主義的なアプローチをとらず、他国の核心的利益や権利を尊重して正統性を伴った形で力を使うべきと述べ、他方で米国に対しては中国を新たなルールや規範の形成に参与させつつ、中国を抑止するために国際的なルールを利用したり、それから逸脱したりすることは控えるべきだと述べた。
 東南アジア諸国は、米国による地域関与の取り組みが「中国との離別」を求めるものに変質することを恐れており、5Gネットワークへのファーウェイ機器の導入問題などは、こうした不安を高めている。こうした中、地域諸国が対米協力を消極化させないような米国のインド太平洋外交が求められつつある。

■インド太平洋戦略を通じた米国の安全保障面での関与
 リー氏が演説全体を通してトランプ政権に送ったメッセージは、中国の台頭を現実として受け入れるべきで、中国の弱体化や孤立を追求すべきではないという事であった。しかし、その一方で注目すべきなのは、安全保障分野についての対米批判はなく、海洋分野についてはむしろ中国の行動に懸念を示した点である。
 IPSRは確かに中国を現状変革国家と性格づけているが、国防省が進めている地域関与の取り組みは継続性を示している。米国が目指すのは、独立国家が自国の利益を守り、国際市場で公正に競争できるような地域秩序であり、覇権国が現れるべきではないとしている。また、戦略の3本柱は、準備態勢、パートナーシップ、ネットワーク化とされており、そこに大きな変化はみられない。
 対立が深まる米中両国の間での立ち位置に悩む各国は、米国との同盟を堅持しつつ、対中関係を安定させている日本に注目するようになっている。このあたりに日本のインド太平洋構想の戦略的意義を考える手掛かりが潜んでいるのではないだろうか。

※NPI Quarterly第10巻第3号(2019年7月)に掲載された記事を要約、一部修正したものです。
 本文はリンク(https://www.npi.or.jp/publications/iips_quarterly_10_03.pdf)からダウンロードできます。

【研究活動のご案内】
 こちらでは、研究所の様々な研究活動について、その成果や提言を中心にご案内致します。

〇海洋安全保障の現場から~海上自衛隊インド太平洋方面派遣訓練乗艦レポート~(2019/07/12、大澤主任研究員)
 https://www.npi.or.jp/research/2019/07/12190043.html

研究ノート(http://iips.org/research/kind/note/)
〇「国際標準化の「変貌」と日本に必要な「対応」」(2019/07/12、岩田主任研究員など)
 https://www.npi.or.jp/research/2019/07/12114125.html

〇「WTO改革と開発;米中から見たWTO「途上国ステータス」問題」(2019/07/08、木村主任研究員)
 https://www.npi.or.jp/research/2019/07/08153204.html

〇「AIは世界に平和をもたらすのか?-人工知能・5つの闘究-」(2019/06/14、岩田主任研究員)
 https://www.npi.or.jp/research/2019/06/14095110.html

〇「トランプのアメリカ-WTO軽視の心理分析」(2019/06/04、杣谷主任研究員)
 https://www.npi.or.jp/research/2019/06/04124920.html

コメンタリー(http://iips.org/research/kind/commentary/)
〇中国レアアース問題の再燃(2019/06/11、江藤主任研究員・横山主任研究員)
 https://www.npi.or.jp/research/2019/06/11181850.html

〇中国・華為技術(ファーウェイ)の激震を読み解くPART II (2019/05/20、岩田主任研究員)
 https://www.npi.or.jp/research/2019/05/20100229.html

【刊行物のご案内】
 こちらでは、研究所が刊行するNPI Quarterly(季刊)や、Asia-Pacific Review(英文ジャーナル)、研究員の著書・論文・その他の活動について、ご案内致します。

〇NPI Quarterly(第10巻第3号)
 https://www.npi.or.jp/publications/2019/08/09092829.html

〇大澤主任研究員の寄稿が『海外事情7・8月号』に掲載されました。(2019/07/12)
 https://www.npi.or.jp/media/2019/07/12155709.html

〇高橋主任研究員の委託研究成果報告書が公表されました。(2019/07/05)
 https://www.npi.or.jp/media/2019/07/05140047.html

〇日米韓のシカゴ会合を開催しました。(2019/07/05)
 https://www.npi.or.jp/research/2019/07/05103201.html

〇岩田主任研究員のインタビュー記事が毎日新聞夕刊に掲載されました。(2019/06/14)
 https://www.npi.or.jp/media/2019/06/14103005.html

〇百本主任研究員の寄稿が『月刊グローバル経済』に掲載されました。(2019/06/07)
 https://www.npi.or.jp/media/2019/06/07161333.html

〇大澤淳主任研究員がIISS主催のシャングリラ・ダイアローグに出席しました。(2019/06/04)
 https://www.npi.or.jp/media/2019/06/04132159.html

〇久保研究本部長の論考がEast Asia Forumのサイトに掲載されました。(2019/05/31)
 https://www.npi.or.jp/media/2019/05/31095049.html

【イベント・お知らせ】
 こちらでは、研究所が行うイベントについてご報告致します。

〇米中経済研究会「コロキアム」No.2「南太平洋に於ける中国の経済的プレゼンス台頭と日本はじめ諸外国のアクション」(2019/07/16実施)
 https://www.npi.or.jp/research/2019/07/29170641.html

〇「知りたいことを聞く」シリーズ「AI時代に於ける日本の可能性と課題」(2019/06/11実施)
 https://www.npi.or.jp/research/2019/06/17133005.html

〇「知りたいことを聞く」シリーズ「中国の知財・技術戦略-米中対決と日本への影響」(2019/05/15実施)
 https://www.npi.or.jp/research/2019/05/31093228.html

〇スイス・ベルン州訪問団との意見交換:「高齢化社会への対処について」(2019/05/08実施)
 https://www.npi.or.jp/research/2019/05/20094707.html

【お問い合わせ先】
 このメールマガジンは、ご登録頂いた皆様および役職員が名刺を交換させて頂いた方々を中心にお送りしております。
 ご意見を頂戴できる場合は、本メールマガジンの配信用アドレス(news@iips.org)までお寄せください。

・NPIメールマガジンの配信停止はこちらからXXXX

本メールマガジンの内容を引用する際には、出典を明記くださいますようお願い致します。

----------------------
中曽根平和研究所(NPI)
〒105-0001 東京都港区虎ノ門3丁目2番2号 30森ビル6F
TEL 03-5404-6651 / FAX 03-5404-6650
https://www.npi.or.jp/

< 前のページに戻る

NPIメールマガジン バックナンバー

記事一覧へ >
公益財団法人 中曽根康弘世界平和研究所(NPI)
Copyright ©Nakasone Peace Institute, All Rights Reserved.