2019/11/18
NPIメールマガジン(2019年11月8日号)
NPIメールマガジン(2019年11月8日号)
【目次】
1.特集記事
2.刊行物のご案内
3.イベント・お知らせ
【特集記事】
TICAD7の舞台裏
総括研究顧問 北岡伸一
8月28日から30日まで横浜で、第7回東京国際アフリカ開発会議(TICAD7)が開かれた。アフリカから53カ国(首脳級42名)が参加し、安倍首相とエジプトのエルシーシ大統領を共同議長として、全部で約10000人が参加した。
JICAも31のサイド・イベントを行ない、私も前日の27日からJICA横浜センターに3泊し、12の会議に参加して基調報告などを行い、5つの合意文書に署名し、24人の首脳級・国際機関等の長と面談した。
今回のTICAD7は間違いなく大成功だった。その成果は、官邸のホームページなどに譲ることにして、すこし違った面を紹介したい。
まずアフリカらしいハプニングである。
29日のJICA主催のハイレベルの会合は、NHKの道傳愛子さんが司会、パネリストはルワンダのカガメ大統領、セネガルのサル大統領、ナイジェリアの元財務大臣でGAVIのオコンジョ理事長、それに私の4人の予定だった。ところが、カガメ大統領が急遽帰国することになったと言ってきた。会議が始まる数時間前の話である。そこで代わりの大物を探したら、ノーベル経済学賞受賞者でアフリカ問題に造詣が深いコロンビア大学のスティグリッツ教授が出席してくれることになった。ホッとしたところへ、今度はサル大統領から、出席できなくなったので、代理の外務大臣を送ると言ってきた。
さらに、今度はカガメ大統領から、申し訳ないので、代わりに貿易・産業大臣を出席させると言ってきた。これはさらに困った。一人余ってしまう。舞台のセッティングはもうできている。結局、全体を二部構成に切り替えて、セネガルの大臣とルワンダの大臣に、それぞれ前半と後半だけに出席してもらうことにして、事なきを得た。
第二に、首脳との会談における「雑談」である。時間は限られているから儀礼的な挨拶や要件だけですます人もいるが、私は必ずアイスブレーキング+アルファの雑談をして、相手との間に共感を作り出すように努めている。
今回、私は多くの首脳に対して横浜の歴史の話をした。かつて小さな漁村だった横浜が、160年前に開港し、日本は横浜から世界へ発展していったのだという話をした。大多数の首脳は強く反応してくれた。
開港から12年たった1871年、日本は廃藩置県を断行し、やはり横浜から岩倉使節団が欧米視察に出発した。そのころ、ヨーロッパのアフリカ侵略は、まだ沿岸部が中心だった。彼らがアフリカの奥地まで入り、彼らの間でアフリカ分割の決定をした(ベルリン会議)のは、1885年のことだった。日本で内閣制度が創設され、伊藤博文が初代総理大臣になった年である。
日本がアフリカのように欧米に分割される運命にあったとは思わないが、ほんのすこしの差だった。アフリカ首脳も日本の発展の苦労に共感を覚えるし、こちらも、あらためてアフリカの運命に共感を深めることになる。
三番目に盆踊りである。27日、前夜祭のイベントとして、JICAが主催した(アフリカ盆踊り実行委員会共催)。アフリカ音楽のライブ・パフォーマンス、アフリカのファッションショーなどのあとに、創作日本舞踊の孝藤右近(たかふじ・うこん)氏の振り付け、TRFのDJ KOO氏のアレンジによって、Bon for Africa ~アフリカ盆踊り~を行なった。アフリカからの参加者を含め、2200人の参加者があり、500人を超える人が踊りの輪に加わってくれた。メインは美空ひばり、「川の流れのように」で、小雨の中、予想以上の盛り上がりだった。
JICAのビジョンは、「信頼で世界をつなぐ」である。人と人との信頼関係を築き、それをもとに国際協力を進めようということである。
アフリカは人口増加が著しく、将来大きな市場になるとか、国際社会ではアフリカの54票が重要だとかいうのは、重要ではあるが、まだ相手を手段としてみているということだ。それ以上に、相手に対する深い理解と尊敬がなければ、本当の相互信頼にならない。日本が援助をくれる経済大国とみてくれるだけでは嬉しくない。立派な伝統と文化を持つ尊敬できるパートナーだと、思ってほしい。それと同じことである。
相互信頼のためには、相手の文化を知ることが大事である。アフリカの文化、伝統、アイデンティティを知ることが大事だというのが、この盆踊りで一緒に盛り上がるという考えの基礎にあったわけである。
相互理解の点で、重要なのは、ABEイニシアティブ(African Business Education Initiative for Youth)の発展である。
これは、アフリカの若者に日本の大学院の修士課程で勉強したのち、日本企業でインターンをして、日本とアフリカとのビジネスの架け橋になってもらおうというものである。第一回は2014年受け入れだったが、順調に発展し、すでに1200人以上が卒業あるいは日本で勉強中であり、かなりの諸君が今回のTICADに参加してくれた。
こうした人的絆に支えられ、人と人との結びつきを大切にして、アフリカとの関係を発展させたいと願っている。
※NPI Quarterly 第10巻第4号に掲載された記事を転載したものです。その他の記事については、http://www.iips.org/publications/2019/11/01142834.html をご覧ください。
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