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2019/12/24
NPIメールマガジン(「一国両制」の限界-香港問題)

NPIメールマガジン(「一国両制」の限界-香港問題)

川島真(上席研究員・東京大学教授)

 2019年1月11日の土曜日、台湾の総統選挙、立法委員選挙がおこなわれるが、総統選挙は現職の蔡英文総統の圧勝が予測されている。民進党の蔡総統の支持率は、2019年に入って急速に上昇していった。その背景にあったのが香港問題だ。蔡総統は、中国が主張している一国両制(一国二制度)を受け入れることに明確に反対している。1997年の香港返還時にトウ小平が「五十年不変」だとした香港のありよう、そして「自由」が急速に変化するのをみている台湾の有権者は、たとえ中国との経済関係が重要とは言っても、それと引き換えに中国の「一国両制」が自らに適用されるような将来にはノーを突きつけようとしている。

 香港の人々が直面している問題は、中国が「一国両制」のうちの「両制」よりも「一国」に明確に重点を置くようになったことに伴う問題だ。香港の諸制度の基礎である香港基本法の解釈権は、限定的にではあるが北京の全国人代表大会に付与されている。その解釈権が香港における普通選挙実現について適用され、その実現が延期されたことが2014年の雨傘運動の淵源となった。もちろん香港経済の占める地位は規模としては小さくなっているが、金融面や世界と中国との結節点という点での香港の重要性は変わらない。今回、香港の人々は、むしろその重要性を「人質」にして、その資源を「破壊」しながら、何かしらの譲歩を引き出そうとしている。

 2019年の逃亡犯条例が大問題になった背景には、すでに香港の人々が自らの身辺に迫る危険を感じていたからだ。象徴的だったのは2015年に発生した銅鑼湾書店事件だと思われる。この事件は、中国に批判的な書籍を扱っていた銅鑼湾書店の関係者が相次いで中国当局に拘束された事件だ。2014年から15年当時、習近平政権は「国家安全」を強調し、相次いで国家安全法、反テロ法、NGO管理法などを制定した。この「国家安全」の論理が特別行政区たる香港にも及ぶことを実感させたのがこの事件だった。中国国内で、国家の安全の論理が強化されると、「自由な」香港とのギャップが広がり、問題になったのだろう。2017年5月、香港特別行政区基本法実施20周年座談会において張徳江は、香港について「国家安全」にも言及しつつ、また独立運動への警戒心を露わにしたのであった。

 2019年の運動は雨傘運動とは異なり、「暴力」や「破壊」を伴っている。それは雨傘運動が政府から何の譲歩も引き出せなかったことが第一の背景にあり、また今回の逃亡犯条例関連の運動でも、一部のデモ隊が立法会を占拠したことが効果を発揮したと思われる面があったことが第二の背景にあろう。また、運動を行う側はSNSを駆使し、活動場所を移動させ、運動の指導者が見えないように、まさに「水のような」活動している。これはリーダーが明確であった雨傘運動とは大きく異なる。だが、11月16日、BRICS首脳会議に参加するためにブラジルを訪れていた習近平は、「暴乱を制止し、秩序を回復すること」を最も重要な任務とした。運動者は「暴徒」と位置付けられた。区議会議員選挙の結果運動側を支持したが、習近平の方針は簡単には覆らない。

 区議会議員選挙の結果は中国では報じられなかった。中国社会では香港のデモ隊や民主派への共感は強くない。だが、この問題をいかに中国政府が適切に処理するのかということに関心があろう。情報を遮断することへの批判、問題解決が長引いていることへの批判もあり、中国政府はこの問題の対処方法について各方面に対策案を求めているという指摘もある。今後も引き続き、許可のない運動や、「暴力」、「破壊」を伴う運動が個別に取り締まられる状況が続くが、中国の政策が突発的に強硬になる可能性も完全に否定できるわけでもない。引き続き注視が必要である。

 ※トウ正平 漢字表記は「登」におおざと

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