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2020/01/24
NPIメールマガジン(2020年の台湾総統選挙・立法委員選挙をめぐって)

NPIメールマガジン(2020年の台湾総統選挙・立法委員選挙をめぐって)

【特集記事】
川島真(上席研究員・東京大学教授)

 2020年1月11日、台湾の総統選挙と国会議員選挙に相当する立法委員選挙が行われた。投票率は好天にも恵まれほぼ75%であった。メディアで民進党の圧勝と報じられている通り、総統選挙では現職で、民進党の蔡英文候補が57%を超える票を獲得し、国民党の韓国瑜候補の38%強に大差をつけた。議会選挙でも、全113議席のうち、民進党が過半数の61議席(民進党の支持した無党派当選者を含めれば65議席前後)を占め、国民党の38議席を大きく引き離した。前回の2016年に、総統選挙と議会選挙の双方で民進党が初めて勝利し、「完全勝利」の下で蔡英文政権がスタートしたが、二期目もその状態が続くことになる。
 蔡英文候補の勝因は、第一に第1期の四年間における、ある意味で「地味」で、安定した政治にあっただろう。これは言動が不安定な韓国瑜候補と対照的だった。第二に、香港情勢や対米関係など、国際的な要因がある。中国のいう一国二制度を受け入れることを断固拒否する蔡英文にとって香港情勢は追い風になった。それに対して、経済関係を中心に中国との良好な関係の必要性を訴えた韓国瑜候補は、香港問題をどう捉えるのかという点で明確さを欠いた。第三に、国民党の韓国瑜候補の「失点」もあった。日本人の教授たちを故意に待たせた事件など、有権者を失望させる言動が少なくなかった。しかし、2016年選挙の蔡英文の得票率は56%であったことに鑑みれば今回の伸びは1%に過ぎず、国民党の候補者は逆に8%近く増えている。これは宋楚瑜の票を国民党が吸収したということだろう。
 立法委員選挙については、民進党が勝利したが、議席は7つ失った。だが、2016年選挙で惨敗した国民党は3議席しか増やしておらず、客家居住地域で多少議席を回復したとはいえ勝利とは言い難い。だが、比例代表では民進党と国民党はともに得票数が拮抗しており、獲得議席も13と引き分けた。そうした意味では国民党が民進党に一矢報いたとも言える。他方、柯文哲台北市長率いる台湾民衆党が5議席、時代力量が3議席を獲得し、今後一定の影響力を有するものと思われるが、二大政党間のキャスティングボードを握るということにはならない。
 ただ、中国との関係性などが争点になりやすい総統選挙と異なり、立法委員選挙は台湾内部に存在している様々な社会問題に対する政府の取り組みや、個々の地域における争点が結果に反映される。そうした意味で、今回の選挙結果を民進党は手放しに喜ぶことはできない。総統選挙では、台湾の基本的な位置付けについて有権者は蔡英文を支持しているが、国内政治の面では必ずしも手放しで民進党を支持するというわけではない、ということだろう。また、少数政党の出現は、多元化した社会の多様な問題に対処するのに、二大政党制では限界があるということも示しているとも言える。
 今後の争点は、2020年5月20日の就任式に至る時期における蔡英文の言動、とりわけ92年コンセンサスをはじめとする中国との関係に関わる言動だ。習近平政権は台湾に対して以前よりも厳しい姿勢をとっており、蔡の言動次第では、両岸関係が一層緊張する可能性もある。また、今回の勝利を背景に、蔡英文政権が対米関係の強化へとアクセルを踏む可能性もあろう。これもまた中国を刺激し、東アジア全体の安全保障に影響を与える可能性もある。国内に目を転じれば、蔡英文政権が2期目に入っても引き続き安定した政治を維持できるのかという点が重要だ。香港問題などによって選挙の争点にはあまりならなかった国内の諸課題-社会の様々な「亀裂」の修復、人口減に伴う教育問題や社会保障問題など-は山積している。これらに関して、蔡英文政権は有効な政策を打ち出せるのだろうか。引き続き注目していかなければならない。

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