2020/03/30
NPIメールマガジン(2020年3月16日号)
NPIメールマガジン(2020年3月16日号)
【目次】
1.特集記事
2.研究活動のご案内
3.刊行物のご案内
4.イベント・お知らせ
【特集記事】
インド経済の今後と日本の進出の可能性を探る
横山昭雄(主任研究員)
昨今、わが国ではFOIP(自由で開かれたインド太平洋)が重視されている。特に安全保障や政治面でインドへの注目が高まっているが、経済成長の鈍化も鮮明になっている。
そのようなインドをとりまく国際環境、モディ現政権の政策とその実現状況や現地に進出した日本企業の動向を踏まえ、日本(企業)の貢献の可能性を検討してみたい。
1.大国インドの内憂外患
◎中国との明暗
インドは面積を見ても人口を見ても大国であるが、中国と比べて経済成長のスピードは遅く、一人当たりGDPで大きな差をつけられている。
◎周辺諸国との関係
インドは、独立の経緯からパキスタンと長期的な対立関係にあり、中国とも国境紛争を抱えてきた。冷戦時代は社会主義を志向し、旧ソ連と友好関係を結び、武器・兵器の供給も仰いだ。しかし、1990年代以降は、経済自由化へ舵を切った。
◎国内の問題
インドは、今に至るまで宗教、人種・民族間の対立や、宗教内の女性・階層差別の構造的な課題を抱えている。識字率でいえば全体としても高くない上、低階層や女性は平均よりはるかに低いという二重の課題がある。
2.モディ政権の改革
第一次モディ政権の産業政策で特に目覚ましい成果を得たのが、GST(物品・サービス税)の導入である。これにより、海外からの進出への障壁となっていた州独自の税制度の乱立が押さえられた。ただ、貨物専用鉄道の建設計画のように、制度改正と異なり「カネ」「手間」のかかる改革は思う通りに進んでいない事例が多いようである。
さらに、2019年5月の総選挙では、BJPが単独過半数を制する勝利をおさめたが、その足元では景気減速が進んでいる。
2018年以降、好調だった国内景気が急速に悪化し、自動車販売の悪化など深刻である。そのような中で第二次政権に期待されるのは、インフラ整備の加速であった。(BJPの総選挙の公約によれば、今後5年で総額100兆ルピーにのぼる)
3.多様化してきた日本企業の進出
かつては、主に自動車や電機産業の進出が見られたが、現地資本との合弁事業でなければならなかった。90年代以降経済成長と自由化がすすんだ現在、進出企業の業種や事業形態の選択肢が広がっており、日系企業の進出数は急増している。
例えば文具大手のコクヨは、現地で文具等の事業を行っている。インドには数億人の子供たちがいる上に、就学率も上がっており、文具需要拡大の余地は非常に大きい。ほかにもクリーン・インディア政策の推進によって、衛生製品への需要が高まることも見込まれる。
4.モディ政権の影
今年に入っても国内経済の悪化に歯止めがかかっておらず、金融機関の経営も悪化しつつある。これまでインド準備銀行(中銀)は、利下げなど対策を採ってきたが、昨年秋には大手ノンバンクの破綻処理を行ったのに続き、本3月には預金流出が止まらない大手銀行の再建に乗り出している。
BJPとモディ政権は、昨8月には憲法を改正、パキスタンと領有権を争うカシミール州を連邦直轄下に置いた。12月には「国籍法」を改正し、国内のイスラム教徒の不満を招き、一部では暴動も起きている。
モディ政権には、経済や社会情勢が不安定になってきたためか、自由化へのためらいが見えてきている。昨11月にはRCEP(東アジア地域包括的経済連携)交渉からの離脱を表明した。
2月に提出した2020年度(20/4-21/3)予算は、財政赤字懸念とのかねあいから歳出規模は前年度比13%増・30兆ルピー台にとどまり、5年で100兆ルピーという公約の実現からは遠いものとなっている。
インドマーケットに進出し・進出を図っている企業にとって重要なのは、単にインド政府は経済悪化にどう対策を講じるのか、にとどまらない。せっかく積み重ねてきた社会・経済の自由化や成長戦略、政府・行政の透明化・健全財政といった多岐に渡る改革は、どれもが自由な企業活動にとって大切な因子であり、これが旧来に戻ってしまうのか改革がさらに進むのか、冷静にウォッチしていかなければならない。
※NPI Quarterly第11巻第1号(2020年1月)に掲載された記事を、加筆・要約したものです。全文は以下のリンクからご覧ください。
http://www.iips.org/publications/iips_quarterly_11_1.pdf
【研究活動のご案内】
こちらでは、研究所の様々な研究活動について、その成果や提言を中心にご案内致します。
研究ノート (http://iips.org/research/kind/note/)
〇岸淳一主任研究員「「金融リテラシー調査 2019年」にみられる暗号資産を入手したことがある人の特徴」を掲載しました。(2020/03/06)
http://www.iips.org/research/2020/03/06101756.html
コメンタリー (http://iips.org/research/kind/commentary/)
〇新型コロナウイルスの世界的拡がりに対する"デジタルな"戦い(2020/03/16、岩田主任研究員)
http://www.iips.org/research/2020/03/16101127.html
〇"デジタル経済革命"とは?(2020/02/28、岩田主任研究員)
http://www.iips.org/research/2020/02/28094605.html
〇デジタルプラットフォーマーとグローバルルールの在り方(2020/02/17、岩田主任研究員)
http://www.iips.org/research/2020/02/17141941.html
〇米中技術覇権争いの行方 ~英国5G等の決定および欧米シンクタンクの見方も踏まえ~(2020/02/10、岩田主任研究員)
http://www.iips.org/research/2020/02/10161200.html
〇混迷する国際経済環境におけるRCEPと日豪パートナーシップ(2020/01/23、林主任研究員)
http://www.iips.org/research/2020/01/16104235.html
〇WTO改革への道;WTO閣僚会議(MC12)まであと5ヶ月(2020/01/20、木村主任研究員)
http://www.iips.org/research/2020/01/20094044.html
【刊行物のご案内】
こちらでは、研究所が刊行するNPI Quarterly(季刊)や、Asia-Pacific Review(英文ジャーナル)、研究員の著書・論文・その他の活動について、ご案内致します。
〇NPI Quarterly 第11巻第1号(2020年1月)
http://www.iips.org/publications/2020/02/03145112.html
〇百本主任研究員の寄稿が掲載された『トランプ大統領の保護主義下における日本の米国事業戦略』が公開されました。(2020/03/06)
http://www.iips.org/news/2020/03/06093930.html
〇高橋主任研究員が寄稿した論文がアジア太平洋討究38号に掲載されました。(2020/02/28)
http://www.iips.org/news/2020/02/28095158.html
〇大澤主任研究員が寄稿した『2020年生き残りの戦略』が出版されました。(2020/01/29)
http://www.iips.org/news/2020/01/29175709.html
〇メールマガジンのバックナンバーは以下のアドレスからご覧頂けます。
http://iips.org/publications/book/other/
【イベント・お知らせ】
こちらでは、研究所が行うイベントについてご報告致します。
〇「デジタル時代の"国際金融安全保障"とは?」 (「情報通信技術(ICT)と国際的問題」研究会コロキアム、2020/02/03実施)
http://www.iips.org/publications/2020/02/10100745.html
〇「デジタル化するグローバル経済社会における"サイバー・フィジカル・セキュリティ"の重要性」 (「情報通信技術(ICT)と国際的問題」研究会コロキアム、2020/01/06実施)
http://www.iips.org/publications/2020/02/10100324.html
【お問い合わせ先】
このメールマガジンは、ご登録頂いた皆様および役職員が名刺を交換させて頂いた方々を中心にお送りしております。
ご意見を頂戴できる場合は、本メールマガジンの配信用アドレスまでお寄せください。
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