2020/11/19
NPIメールマガジン「豪州における米中関係」(米中関係研究会)
NPIメールマガジン「豪州における米中関係」(米中関係研究会)
中曽根平和研の「米中関係研究会」は、7月に「豪州における米中関係」と題して
防衛研究所の佐竹知彦主任研究官からお話を伺い、議論しました。佐竹氏のご報告骨子は以下です。
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佐竹知彦氏 (防衛研究所 政策研究部防衛政策研究室主任研究官)
慶応大学法学研究科前期博士課程を修了後、オーストラリア国立大学大学院博士課程で国際関係論博士号を取得。
2010年防衛研究所入所。オーストラリア大学国立クロフォード研究所豪日研究センター客員研究員。
専門分野は同盟研究、アジア太平洋の安全保障、日米豪安全保障協力。
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豪州と米中関係 ― 「幸福な時代」の終焉
■「二重の依存」の下での安全と繁栄
冷戦後の豪州は、米国との同盟関係に自国の安全を強く依存しつつ、他方で急速な経済成長を遂げた中国との貿易に自国の繁栄を託してきた。こうした安全保障と経済における「二重の依存」の下、豪州は防衛コストを相対的に低く抑えつつ、先進国では類を見ない長期に亘る高い経済成長率を維持してきた。
■「幸福な時代」の終焉
だが、こうした豪州にとっての「幸福な時代」は「終わりの始まり」を迎えることになる。2000年代後半からの中国の急速な台頭と米国の相対的な衰退(「パワーシフト」)は、豪州の「二重の依存」が内包する戦略的なジレンマを表面化させた。そして2017年1月の米ドナルド・トランプ政権の誕生とその後の米中対立の激化で、豪州は基本戦略の維持が更に困難になった。トランプ政権による保護主義的な政策は、米中双方と緊密な豪州の経済に悪影響を及ぼしかねない。南シナ海や南太平洋における米軍のプレゼンスの強化は、歓迎であるものの、米国の同盟国である豪州が米中の軍事紛争リスクに「巻き込まれる」懸念を強めた。
以前の豪州であれば、米中間の「仲介」役を買って出たであろう。ところが、2016年頃からの中国による豪州の重要インフラへの投資、組織的な「内政干渉」、南シナ海や南太平洋における影響力の増大といった懸念で、豪州の対中警戒感は急速に上昇した。この4月に豪州が要求した新型コロナ・ウィルス発生に関する独立調査は中国の激しい反発と報復を呼び、豪州は香港の国家安全維持法に抗議する。7月末現在、豪中関係に改善の兆候は見えていない。
■「二重の依存」からの脱却?
今後も、関係は悪化の一途を辿るのだろうか。中国との対立が安全保障を含む構造的な要因に基づく以上、以前の状況に戻るとは考えにくい。一方、豪州が米中「新冷戦」に全面的に参戦し、対中「デカップリング」に動く可能性も低い。豪州には多国間主義や国際機関の強化といった伝統的な「ミドルパワー外交」の流れがあり、豪州を一概に米国の「手先」と見る中国の対豪観は実態を正確に反映したものではないからだ。
むしろ、豪州は米中いずれかの選択より、自主防衛強化、安全保障・経済両面における対外関係の「多角化」によって、長期的には「二重の依存」からの脱却を図っているようにも見える。2020年7月発表の「防衛戦略アップデート」は米軍との緊密な連携を前提としつつも、抑止力を維持するための豪州の自助努力の必要性をかつてなく強調している。また、インドやインドネシア、日本、英国等との安全保障・経済両面での更なる連携の強化も図っている。
とはいえ、「多角化」が「二重の依存」による豪州の戦略的なジレンマの本質的な解消につながるかどうかは未知数だ。米軍の「代替」になりえる強い安全保障、全貿易量の4割を占める中国からのサプライチェーンの多角化は「言うは易し、行うは難し」。その間も、米中対立は回復どころか先鋭化している。豪州の「幸福な時代」は過去になりつつある。
全文は、こちらをご覧下さい。https://www.npi.or.jp/research/2020/08/31104939.html
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