2020/11/19
NPIメールマガジン「先端技術の国防利用からみる米中関係」(米中関係研究会 no.3)
9月3日にNPIウェビナー「先端技術の国防利用からみる米中関係」を開催し、米中によるAIを中心とする新技術の国防利用の動向とその影響について、新進気鋭の研究者と問題を考察しました。パネリストに、防衛研究所地域研究部中国研究室・八塚正晃研究員と横浜国立大学研究推進機構・齊藤孝祐特任准教授を迎え、司会は当研究所上席研究員の川島真・東京大学大学院教授、討論者は上席研究員の森聡・法政大学教授が務めました。
概要は以下の通りです。
<AIと米国の安全保障-齊藤特任准教授>
・まず、オバマ政権下の第三次オフセット戦略で「米国は自国に優位性がある先端技術分野で対抗する」としたが、2017年頃からロシア・中国の脅威を認識し、米国の優越性を前提にした戦略は難しくなってきた。
・2020年に米国は「AI五原則」を発表。この指針は産業界、政府・学界・一般市民の専門家達との協議から策定されたもので、米国のAI開発は民間を含むエコイノベーション構築を前提にしたものとなっている。
・トランプ政権下でも安全保障分野の研究開発を民間企業や大学を含めオープン・イノベーション型で展開している。問題として、そもそもAIを含めた先端技術開発に関する国内エコシステムの縮小や、研究開発のオープン化が同時に外国からの技術保護への要請を高める等、イノベーションの管理や推進をめぐるオープン/クローズのジレンマが出てきた。
・現下の米国によるAIの軍事利用は、殺傷兵器より人間の能力補助やオペレーション全体を合理化する方向に向かっている。民主主義下で経済産業戦略と一体でAIを安全保障に利用するには、多少の制約があっても「AI五原則」のような基準は重要との認識が示された。
<中国の視座-八塚研究員>
・まず、中国の智能化戦争とは「IoTのシステムに基づき、インテリジェント化した武器装備とそれに対応した作戦方法を利用して、陸・海・空・宇宙・電磁・サイバーおよび認知領域で展開する一体化戦争」と人民解放軍で定義されている。
・中国は、オバマ政権の2014年「サードオフセット戦略」を契機に「米国が中国を対象に智能化を核とした軍事変革を進めている」と認識。習近平政権は科学技術振興による強国化戦略を描き、「中国製造2025」では智能分野を含めた革新技術の自国生産化を意図している。
・そして産業政策を含めた「軍民発展融合戦略」を推進しつつ、今世紀中葉までに3段階で「世界一流の軍隊」を建設・完成することを目指している。背景には経済の低成長による軍事費の低成長を予測し、幅広い民間のアセットやイノベーションを軍に導入したい意識がある。
・今後の注目点として、智能化戦争への対応と今までの軍改革との関係はどうなるか、党軍として政治教育が強化される人民解放軍は智能化部隊として能力を十分に高めることができるか、実戦経験がない人民解放軍は周辺海域で実験的に智能化武器兵器を運用する可能性もある等があげられた。
最後に、川島教授が「米中それぞれの国内事情を睨み、相互の展開を引き続き観察してゆきたい」と締めくくりました。ウェビナーは途中退室がほぼなく、アンケートでは「とても満足」が83%でした。今後もご期待に応える企画を展開して参ります。
※パネリストの講演動画は https://youtu.be/0VxJO6clfFY をご覧ください。
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