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2021/07/01
NPIメールマガジン 「台湾海峡、尖閣周辺波高し?」(理事長 藤崎一郎)

4月の日米首脳会談の共同声明以降、台湾海峡と尖閣に焦点があたっている。台湾問題で日本自ら一線を越えたとか日本の新しい立ち位置を模索するときだとかまびすしい。はて面妖な、と思う。台湾海峡と尖閣をめぐる状況はまったく違う。時が中国の側にあるか否かである。

台湾海峡
 首脳声明ではたしかに55年ぶりに台湾海峡への言及があった。
 日米両国の台湾問題の立場は一貫している。日本の従来よりの立場は「台湾をめぐる問題が両岸の当事者間の直接の話し合いを通じて平和的に解決されることを希望しています」(外務省ホームページ)というものである。「米国は台湾海峡の当事者間の違いが平和的に解決されるべきことを主張し、いずれの当事者も一方的に現状を変えようとすることにも反対し、両当事者が尊厳と敬意に基づく政治的な対話を継続することを奨励する」(米国務省ホームページ)というのが米国従来よりの立場である。
今回首脳声明で言及した理由は、台湾海峡での中国軍の顕著な動き、中国軍の一部首脳のアラーミングな言辞などの情勢に鑑み、この両国の従来よりの立場をあらためて確認しただけのことである。考え方は何も変わっていない。当たり前のことを言っているからこそ同様の表現がG7サミット首脳宣言にも盛り込まれたのである。自ら立場を変えたと標榜することは正しくもなく、またなんらのメリットもない。中国は、台湾統一を主張してきたが、これまで実際には手を出せる力はなかった。台湾の有する近代的な戦闘機の方が21世紀初頭まではるかに優位だったし、大陸中国の経済発展がトップ課題だったからだろう。近代的戦闘機で2007年に中国が追いつき以降は急激に差は拡大する(令和2年版防衛白書89ページ参照)。2012年習近平総書記就任とともに中国のよりアグレッシブな姿勢があらわになる。
 しかし中国にとって本当に今、台湾進攻することが得か。
 まず中国が台湾進攻せざるを得なくなるのは、台湾が独立を宣言する場合である。しかしこれには米国も上の引用のように「いずれの当事者も一方的に現状を変えようとすることにも反対し」ているのであり、米国の支持が得られない。米国が台湾の要塞化を可能にするような武器供与に合意するおそれがあれば、中国を急がせることになるが少なくともこれまで米国は慎重な姿勢をとってきている。米国が中国の台湾進攻も台湾の独立も促さないいわゆる「あいまい戦略」を継続するかについては米国内で議論はあるが、政権は慎重で当分の間、実質は変わらないとみるべきだろう。日本の防衛白書によれば中国の国防費は過去30年間で50倍であり中台の軍事力の格差は広がる一方と見込まれる。
また1970年ごろまで70以上の国が台湾と国交を結んでいたが、毎年1,2ずつ中国に切り崩され今や15の小国しか残っていない。
さらに習近平政権の外交は、衣を脱ぎ捨て鎧を見せびらかし、戦狼外交を展開し、今や四面楚歌、八方塞がり状況である。これを受けて習近平主席がようやく「信頼され、愛され、尊敬される」中国のイメージを打ち出すよう指示したばかりだ。もし台湾侵攻すればロシアのクリミヤ併合以上に国際社会の反発を受け、強力な制裁を受けて経済も停滞し、最大の課題である国内の安定を損なうおそれも十分にある。以上当面の情勢判断として中国が、時は自らに利していないと判断して、熟柿が落ちるのを待つという戦略から転換する可能性は大きくないと見る。しかしもちろん台湾の我が国安全保障への重要性に鑑みいろいろな備えは十分に尽くすべきである。安全保障法制が整えられたことは重要でありこれを踏まえ各種シミュレーションは静かに考えておくべきだろう。

尖閣
 尖閣はむしろ逆である。時は実効的支配をしている日本側にあり、現状が長引けばますますわが方が有利になる。中国は一刻も早く現状を変更したいと考えていよう。
 尖閣につき日本は、中国を刺激しないよう建築物設置を禁じ、台風など緊急事態を除き邦人の上陸も認めてこなかった。南沙諸島で他の国と係争中なのに大規模な軍事飛行場を次々建設した中国との対比は際立っている。2008年中国の公船が初めて尖閣付近の領海に入り、2010年9月の海上保安庁巡視船への中国漁船の衝突もあり国民の対中警戒感は高まった。これを背景に石原慎太郎都知事が尖閣をこのまま放置しておくことは危険として都が購入することを打ち出したのは2012年4月だった。当時ポトマックの桜植樹100周年記念で石原氏はワシントンに来ていた。桜の女王選出パーティーの席で大きなダーツで各州のプリンセス達から女王を選んだ後、駐米大使だった私に「もう帰る、後を頼む、そもそも僕はもっと大事なことでワシントンに来ているんだ」と言って中座した。私は分からないまま代理で選出された女王と踊ったが、あくる日シンクタンクのハドソン研究所で尖閣を守るため都による尖閣購入の演説をしたのを聞き、そういうことだったのかと思ったのを記憶している。
 石原提案は国民の支持を集め猪瀬副知事が国民の寄付を募ったところ数週間で約14億円になる。石原都知事が購入すると建造物を構築したりして中国を刺激することは明らかと判断した野田政権は、国がより高い20億円余を提示して、所有者から購入する。これは国による接収ではなく単に購入の私契約に過ぎなかったが、中国側から「国有化」したと強い反発を受け、日中関係は一挙に冷え込む。中国はその後毎年、公船を尖閣周辺の接続水域に連日送りこみ、月に数回は領海にも入れてくる。彼等の主張は尖閣は中国の領土であり、自国の領海、接続水域に入っているだけであるというものである。さらに今年は自ら公権力を行使しうるよう海警法を制定した。
 この経緯をどう見るか。日本政治をつぶさに見ている中国が野田政権の購入が対中関係を損なわないための措置という善意を誤解した筈がない。中国指導部は、もし石原都知事が購入していたら中国にとって困った状況になったことは十分理解していたと思う。しかし百戦錬磨、駆け引き上手のつわものである。実際には安堵しつつも、この機を利用して報復するという口実で公船侵入増大を図っているのだろう。中国公船の継続的パトロールにより日本による実効的支配が確立継続していないという論拠をつくっているつもりだろう。
 そこで二つの考えがある。一つは中国に改めてこの間の経緯に鑑み、もし日本の善意が通じていないのであれば、残念ながら日本側のとった政策は失敗だったと考えざるを得ない。したがって、石原構想的な措置を講ぜざるを得なくなる可能性があると話すのである。これは事前に米国にも話しておくべきだろう。そして中国側が自らの判断として侵入回数、隻数を減らしていくように導くのである。
 もう一つは奇襲への準備である。いま海からの脅威が常に語られる。グレイエリア問題などである。これもたしかに大事である。しかし粛々と巨艦や大集団が来るという議論は一種の陽動作戦の可能性もある。今や特殊部隊による電撃作戦の方が可能性が高いのではないか。ナチスドイツのブリッツクリーク作戦、ソ連のスペツナズ部隊、イスラエルによるケニアのエンテベ空港急襲作戦など歴史的事例だけではない。2011年の米国によるオサマ・ビン・ラーディン掃討も夜間ヘリ部隊で急襲した。ある朝起きてニュースを見ると五星紅旗が尖閣に翻って中国軍空挺部隊の兵士がこれを護っているというような悪夢はみたくない。空からの侵入に対するバリアーが十全であることを期待する。なお2012年に都が集金した14億円余の資金はいまだ都が管理している。
    
出典:https://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2020/image/zuhyo01020217.gif
 
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