2021/07/03
NPIメールマガジン 「中国共産党百周年:習近平演説を読み解く」(研究本部長代行 川島真)
2021年7月1日、天安門広場において習近平総書記による演説が行われた。胡錦濤、温家宝、キャリーラムらが姿を見せたが、江沢民、朱鎔基らの姿は見えなかった。時間はほぼ1時間。3時間半にわたった2017年の第19回党大会での「演説」に比べれば短いものとなった。米中対立などもあるが、中国の国内政治において2022年秋で総書記としての任期延長、または党主席就任の有無、2023年春の全国人民代表大会での国家主席としての任期延長の有無などが課題となっているだけに、習近平総書記自身が自らの事績をどのように表現するのかという点に関心があった。
結論を先取りすれば、今次の習近平の演説は必ずしも新奇な内容を含むものではなく、これまで述べてきた「言葉」をまとめたようなものであった。具体的には、昨今共産党が提唱している四史(党史、新中国史、改革開放史、社会主義発展史)の言説に即した歴史理解と、第18回党大会以降の習近平政権の政策、事績とを紹介したものだった。改革開放史が社会主義建設の側面から再整理されていた点など、やや耳新しいことがあったかもしれないが、中国国内ではこの数年でこのような言説が普及している。
演説の内容についていくつか述べれば、例えば習近平政権の主要事績として紹介されたのは、脱貧困を意味する「全面的な小康」の実現であった。焦点となる米中関係については十分に言及されず、外交面では新型国際関係の実現が唱えられた。米中関係に具体的言及がないのは、4月の日米首脳会談後に外交部報道官が厳しく批判していた時期にも習近平が日米を名指ししないで中国の外交姿勢を述べていたことにも重なる。対米外交政策が依然として明確になっていないことを示す。香港についても、「全面的統治」が謳われ、台湾についても2019年1月の包括的台湾政策(習五点)と大きくは変わらなかった。
では、習近平の演説内容がある意味で「穏当」であったことをどう見るのか。CCTVの映像は毛沢東を彷彿とされる服装に身を包んだ習近平と、小旗を振る老若男女、諸民族からなる「民衆」の姿を映し出した。このカメラワークに習近平個人への権力集中を示しているとする見解もあろうが定かではない。他方、その演説内容について、2021年に党主席となるための布石は十分だからこそ「穏当」な表現をした、すなわち「穏当」だったのはその自信の表れだとする見方もあろう。だが、逆に「穏当」であるのは、依然党主席になれるのかどうか不分明であり、敢えて下手に出たとの見方もあろう。だが、これらも定かではない。
習近平総書記の演説で語られた言葉は、国内向けに羅列された「正しいこと」でもある。新型肺炎の感染拡大を経ても、またアメリカとの対立に直面しても、中国共産党の統治は揺るがないし、また習近平政権の政策にも変更はない、というのがこの演説の趣旨であったのではないか、と筆者は考える。会場の「民衆」が大きな歓声をあげたのは、外敵からの包囲、攻撃に立ち向かうとした部分だった。「奮闘」もなんども使われた。外圧の下でも、従来通りの方針で突き進む、それがこの演説のメッセージであったのではなかろうか。
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