2022/10/25
NPIメールマガジン「習近平3期目をどう読むか:人事と演説から考える」(川島研究本部長)
習近平3期目がスタートした。習自身の演説、および目下発表されている人事からはおよそ次のようなことが言えるだろう。
第一に、党主席制は採用されず、総書記制、すなわち集団指導体制が維持されたが、その代わりに党中央のほとんど全てが習近平派と目される人物になり、女性の委員も不在となった。多様な集団が含まれるのが「団結」ではなく、習近平派一色に染めるのが「団結」だということを示したのだろう。
第二に、演説でも人事でも団結を協調したのは、2049年の社会主義現代化強国、2035年の社会主義現代化の目標を達成する上で黄信号が灯っていると思っているからだろう。コロナも含めた経済失速、アメリカや先進国からの圧力などがその原因だ。だから、共産党の、そして国民の、さらには中華民族全体の団結を強化しようとする。これは危機感の現れだ。
第三に、後継者指名がなされなかった。新常務委員が二名であれば事実上の後継者とみなされたが、実際は四名であった。また中央軍事委員会も習近平以外の文官はいない。これにより、習近平が今後10年総書記を継続する可能性が高まった。
第四に、さまざまな慣例を破ったことである。68歳定年制も、副首相経験者が首相になるという慣例も破られそうだ。江沢民、胡錦濤以来の党内民主化は人事の面では潰えた。その結果世代交代は遅れ、1970年代生まれが中心の第七世代は政治局委員には入らなかった。習近平は文革を体験していない第六世代以下に不信感を有しているのかもしれない。
第五に、経済、財政担当者の問題である。李克強、汪洋、胡春華をはじめ改革派は一掃され、何立峰はいるものの、懸案となる経済を担当する人事体制が弱体化した。「共同富裕」の共同、つまり分配ばかりが強調されれば、改革開放路線は抑制される。改革開放が特に西側諸国との協調に結びつくことを考えれば、これは外交にも影響する。
第六に、台湾については言葉の上での変化がない。2049年を目標に「戦わずして勝つ」が基本線だ。中国は、台湾人を中華民族の一部と見做し、「夢」を一緒に見ることを前提にするから、建前上、台湾社会を取り込むことを目標にする。すなわち、軍事圧力を高め続け、サイバー攻撃、ディスインフォメーションで社会浸透を行い、経済制裁などを与え続け、台湾社会が統一に向かうように強引に仕向けることだ。問題は、この政策に効果がないと習近平が思ったときだ。その時、軍事圧力のレベルを上げ始めるだろう。
第七に、このような人事への党内の不満、2割近い失業率や経済失速、コロナ対策などへの社会の不満への対処だ。掌握するビックデータや全過程民主などで社会の不満を事前に吸い上げ、同時に「国家の安全」を盾に、デジタル監視や基層社会レベルにめぐらした統治網を通じて異分子排除を行うのだろう。だが、「幸福な監視社会」は共産党が社会に豊さや便利さを与え続けるから成立する。それが新体制で続けられるのか。習近平の夢が、共産党員の夢、中国の人々の、そして中華民族の夢と一致することは果たして可能なのであろうか。
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