2014/03/26
世代会計の手法を活用した政府支出の長期推計と財政再建規模の分析
北浦修敏(主任研究員)による報告を掲載しました。
「世代会計の手法を活用した政府支出の長期推計と財政再建規模の分析」(PDF)
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(要約)
北浦(2013)では、様々な出生率の下で計算された将来人口と2つの分析手法を用いて政府支出の長期推計を行うとともに、現在120%を上回るネットの公的債務残高を30年又は100年後までに60%(年金資産30%を加えてグロス90%)にまで引き下げるために必要な財政再建規模を計算した。
その結果、第1に、現状の少子高齢化が継続すると、政府支出の対名目GDP比は、2070年代に向けて6%から7%程度増加する可能性が高いこと(一方で、出生率が高まれば、政府支出の増加は長期的に抑制可能であること)、第2に、今後30年程度で公的債務残高の対名目GDP比を債務危機が誘発される可能性が低下するギリギリの水準である60%(ネットの債務残高。年金資産を考慮するとグロスで90%程度)にまで引き下げるには、財政再建規模が名目GDP比14%から17%ポイントと極めて大きくなること、第3に、当面は財政危機を回避するためにIMFの主張する財政再建策(対名目GDP比11%程度)を実施することが不可欠であるが、マーケットに長期の財政再建ビジョンを明示することで、100年程度かけて巨額の公的債務残高の水準を緩やかに引き下げていくことが現実的な政策と考えられること(その場合、少子化を反転することができれば、IMFの財政再建策に追加して実施すべき財政再建規模は相当程度抑えられること)、第4に、国力の回復、経済の活性化、さらには地域の再生には出生率の回復が欠かせないこと等について指摘した。
本稿では、北浦(2013)の分析の問題点(政府支出の年齢別の区分が粗いこと、少子化対策予算を考慮していないこと等)を踏まえて、世代会計の手法を活用して詳細に年齢別の政府支出からの受益構造を整理した上で、将来の政府支出の推移を分析し、長期的な財政再建規模を計算した。また、少子化対策費、さらにはその財源としての年金支給年齢引上げを考慮した場合の財政再建規模の分析を行った。
その主な結論は以下の通りである。
第1に、まず世代会計の手法を活用して、詳細に年齢別の政府支出からの受益構造を整理したところ、保険機能の結果という側面があるが、高齢者の政府支出からの受益は、65歳未満の者のそれに比べて非常に大きいことが確認された。
第2に、詳細な年齢別の政府支出の構造と制度要因を踏まえて政府支出の将来推計を行うと、高齢者の給付をより大きく見積もったにも関わらず、北浦(2013)の分析結果に比べて、政府支出の増加幅はいずれの出生率のケースでも大きく変化せず、政府支出の増加幅(対名目GDP比)は、出生率が低迷するケースで7.3%(北浦(2013)で6.9%)となる一方で、出生率が2.07(前回2.03)に回復するケースで▲0.3%(北浦(2013)で0.8%)となった。これは、高齢者の一人当たり政府支出を大きくした結果、高齢化効果がより強く働くこととなった一方で、年金の制度改革により65歳未満の年金(2012年度で対名目GDP比1.2%程度)がなくなることを明示的に考慮したこと、未成年への一人当たり政府支出の水準が壮年層に比べて高く、少子化の進展が未成年に対する政府支出を抑制する方法に働いたこと、出生率を2.03から2.07に引き上げたことにより、高齢化効果が政府支出を抑制する方向に働いたこと等を反映したものである。
第3に、100年後に公的債務残高の目標を達成するためにIMFの財政再建策に追加して必要な財政再建規模は若干高まったが、出生率が回復すれば、追加的財政再建規模は相当程度抑制できること(出生率が2.07のケースで対名目GDP比1.6%)は、北浦(2013)と同様であった。
第4に、少子化対策費(スウェーデン並みの予算規模を目指して対名目GDP比2%ポイントの追加)を考慮すると、追加的財政再建規模は、少子化対策予算を考慮しなかった場合に比べて、2.6%ポイント程度高まる(出生率が2.07のケースで対名目GDP比4.2%)。
最後に、未来に向けた改革である少子化対策の予算を、過去に対する給付である年金の削減でカバーするすると(年金支給開始年齢を70歳とすると)、70歳未満の労働供給の増加により2030年代の経済成長の落ち込みが相当程度改善されるとともに、追加的財政再建規模は大幅に改善されること(出生率が2.07のケースで対名目GDP比1.7%)が確認された。