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外交・安全保障

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2015/06/24
フィリピンでのワークショップ「海洋の公共財に関する共同行動に向けて・・・地域協力を通じたアジア海洋安全保障の確保」(2015年6月15日開催)

今般、世界平和研究所とフィリピン外務省外交研究所、フィリピン大学の共催にて、6月15日にマニラ市内のホテルにおいて「海洋の公共財に関する共同行動に向けて・・・地域協力を通じたアジア海洋安全保障の確保」("Towards Common Actions on Maritime Commons"---Safeguarding Maritime Security in Asia Through Regional Cooperation---)と題するワークショップを開催しました。


本ワークショップには、日本、ベトナム、マレーシア、インドネシアの四か国からの有識者を招聘するとともに、100人近くの政府及び大学等の関係者、その他有識者、プレス等が多く参加しました。ワークショップでは、冒頭にフィリピン最高裁判所の判事で南シナ海問題の権威であるアントニオ・カルピオ判事による基調講演が行われ、その後、専門家による海洋安全保障問題についての現状評価及びその対策について議論が行われました。


とりわけ、中国による埋め立て工事の進む南シナ海情勢について活発な議論が展開されました。最後に、プレス・リリースを採択し、議論を終えました。


1 冒頭、フィリピン最高裁判所のアントニオ・カルピオ判事による、「南シナ海紛争における法の支配」と題する基調講演が行われました。この中でカルピオ判事は、現在の中国の埋立工事の現状及び中国軍の急速な近代化について概観した上で、国際法上の観点につき概要以下のとおり言及しました。

                             
中国は南シナ海にいわゆる「九段線」を主張し、南シナ海の85%以上を中国の領域と主張している。この主張は領土紛争と共に海洋紛争を引き起こしており、九段線の主張が南シナ海の紛争の中核にある。
低潮高地(LTE)は満潮時に水面下にあり、国連海洋法条約(UNCLOS)第13条によれば領有権主張の対象にならない。満潮時に水面上にある「岩」や「島」とは異なる。中国が埋立を進めている七つの環礁のうち、フィアリークロス礁とクアテロン礁を除く五つの環礁は明らかに低潮高地であり、領有権主張の対象にはならない。また、これら全ての環礁がフィリピンの排他的経済水域(EEZ)もしくは大陸棚にある。
UNCLOSの第290条は、海洋環境における重大な害を防止するため、加盟国が暫定措置を定めることを認めているとともに、第123条は南シナ海のような半閉鎖海における加盟国の協力義務も定めている。しかし、これらの条項に反して中国は、周辺国への通知・協議・協力なく環礁の破壊を行っている。
UNCLOS第60条は、EEZ内における人工島の造成は、沿岸国のみに認められることを定めており、第80条は大陸棚においても同様であることを定めている。しかし、中国はフィリピンのEEZ内又は大陸棚において、人工島を不法に造成している。
UNCLOS第87条1(d)は、公海上における人工島の造成の自由を認めているが、「第6部の規定の適用が妨げられるものではない」としている。これは、大陸棚の沿岸国による大陸棚の主張が認められない限りにおいてはそうであるが、フィリピンが沿岸国としてこれらの大陸棚への権原を有しているのであれば、そうではない。また、第88条は公海上における人工島の造成は平和的な目的に適う必要があることを定めている。したがって、公海上での中国の埋立であっても、それはこれらの条文に違反していることになる。
UNCLOS第60条8は、人工島は島の地位を有さず、それ自体の領海を有さないと定めている。そのため中国の人工島は、領有権主張の対象にはならない。よって、米国の偵察機が上空を飛行しても、領空侵犯にはならない。
フィアリークロス礁とクアテロン礁は、満潮時に水面上に出るため低潮高地ではない。すなわち領海の主張が可能である。だがそれがどこに帰属するかは紛争の対象である。
中国の埋立とフィリピンあるいはベトナムの埋立は異なる。ベトナムとフィリピンは、領有権主張の根拠となる「島」において埋め立てを行っており、中国のように低潮高地を埋め立てて領有権主張する行動は採っていない。
中国を除く、地域諸国の南シナ海問題に関する法的解釈は近似しつつあり、共通の法的基盤を生み出すことができる。
歴史的権利や歴史的事実に基づく主張は、EEZや大陸棚の権利を生み出すことはならない。UNCLOSは、沿岸国にそれらの権利を与えているのであって、それによって歴史的権利などに基づく主張は無効になったのである。
中国の九段線の主張の根拠となる国際法上の根拠はない。主権は領土を基礎に主張されるほかはなく、九段線の主張は領土を基礎としていない。
公海は全ての国家にとっての共有財(コモンズ)であるが、九段線の主張はこれに反する。海南省の2014年の漁業管理規則は、この領域で操業を行う外国漁船に国家会議の承認を得る義務があるとするが、そのようなことは許されない。
台湾の実効支配するイトゥ・アバ島(太平島)は、フィリピンの観点からは島ではなく、人間生活を営むことのできない岩である。よってEEZの主張根拠とならない。だがもしEEZを主張するとすれば、フィリピンのパラワン島沿岸のEEZと競合することになる。こうした場合には過去の国際司法裁判所の判例(ニカラグア対コロンビア)に基づき、関連する沿岸の長さの比で配分が決まる。この点、太平島とパラワン島では1km vs 495kmの違いがあり、フィリピンの主張に分があることになる。
中国は、紛争解決は「歴史的事実と国際法に基づくべき」だとし、中国の主張を支える歴史的証拠は豊富にあるとするが、そうした主張は誤っている。そもそも、中国による古地図の提示に基づく主張にも虚偽がある。
台湾の馬英九総統は、2014年9月、九段線の主張について、その中の島と領海12海里を主張したものであると述べた。この台湾の主張は、中国政府の主張とは全く食い違っており、中国政府の主張の正当性に深刻な疑義を与えている。
フィリピンのスカボロー礁の主張の根拠は、米西戦争の結果としての米スペイン間の条約に基づいている。1898年のパリ条約では取決めに含まれなかったが、1900年のワシントン条約で明確に対象となった。1938年に米国政府内の文書である当時の国務長官コーデル・ハルの覚書でスカボロー礁をフィリピンのものであると認めている。
中国は仲裁裁判所による仲裁を拒否するが、その根拠はUNCLOS第298条1(a)(i)である。だが第15条、74条、83条などの除外規定に照らせば中国の主張に根拠はない。
現代の海洋法の成立にあたっては、そもそもフーゴー・グロチウスの唱える「自由海」とジョン・セルデンの言う「閉鎖海」の対立があった。今日では「自由海」の思考が勝利している。しかし、中国の九段線の主張は「閉鎖海」の思考に基づくものである。これは海洋法のグロチウス的な基礎そのものに対する直接的な攻撃である。
 

2 このカルピオ判事の講演を受け、有識者らによる議論が、概要以下のとおり行われました。


(1) インドネシアのシャフィーア・ムヒバット研究員(インドネシアCSIS)は、インドネシアが南シナ海の紛争に対して公的に中立姿勢を採っていることを述べた上で、これを解決するための枠組みとして既存のASEANの制度、特に東アジア首脳会議(EAS)を活用していく重要性について指摘しました。


(2) ベトナムのハ・アン・トゥアン研究員(外交学院)は、中国の埋め立て行為は地域の諸国の懸念を招いており、やがてはマレーシアやインドネシアにもかかわる問題となる、これは単に米中の問題なのではなく、地域諸国全体の問題である旨を強調しました。


(3) 日本の川上高司教授(拓殖大学)は、日本が最近米国との間で改定した防衛協力の指針(ガイドライン)は南シナ海における日米の協力についても明記しており、日比の間で武器や技術の移転に関する協定の交渉も始まっている旨を指摘しました。その上で、日本が①米国やフィリピンなどと南シナ海で共同演習を行う、②フィリピンやベトナムなどに対して能力構築を行う、③地域諸国に共同規範の策定に向けた法的な支援を行う等の幾つかの具体的な提案を行いました。


(4) マレーシアのバラクリシュナン教授(マラヤ大学)は、マレーシアがソフトな外交プレイヤーであって中国は最大の経済的なパートナーであり、紛争が平和的に解決されることを強く求めている、マレーシアは日米のイニシアチブを歓迎するが、同時に紛争に至らぬことを強く希望している旨の指摘を行いました。


(5) フィリピンのジェイ・バトンバカル教授(フィリピン大学)は、中国の行動に対しては異なる国同士が法的な次元で協力することが大事であり、全ての国家がルールに基づき対等の資格で扱われることが大事である旨の指摘を行いました。その上で、台湾の馬英九総統が「九段線」の主張について中国の主張と異なる見解を述べたことは、中国の立場を複雑なものとした旨を述べ、地域諸国と地域外の諸国はこのような法的な次元で協力していくことが重要であるとの主張を行いました。


(6) 当研究所の松本太主任研究員からは、今後は、日本列島から、台湾、バシー海峡、ルソン島、ボルネオ島へとつながるアーキペラジックな地域防衛コンセプトがますます戦略的に重要になることを強調し、地域諸国の緊密な協力を訴えるとともに、アジア海洋安全保障協力機構(AMOSC)構想のような、既存の制度の強度を高め、実効性を有する取組を行う必要がある旨指摘しました。


こうした有識者らによる発言に対して、参加していた関係者との間で、中国の埋立行為を止めるために環境の問題をどう活用すべきか、百年の屈辱を強調して自己主張を強める中国の失地回復主義をどう受け止めるべきか、南シナ海の問題を地域問題として解決するためにどのようなアプローチが適切なのか等の活発な質疑応答が展開されました。


今回のシンポジウムにおいては、参加者の多くから今年一月に世界平和研究所が提唱した「アジア海洋安全保障協力機構(AMOSC)」創設提案に対する積極的な支持の声が聞かれました。世界平和研究所としては、今回のシンポジウムを通じて得られた有機者の意見やコメントを踏まえ、更にAMOSCのアイデアを具体化すべく、さらに検討を進めるとともに、地域の専門家との知的交流を活発化していくことを考えています。

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