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外交・安全保障

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2018/11/09
「アメリカ中間選挙の結果と今後」上席研究員 森 聡

アメリカ中間選挙の結果と今後

上席研究員 森 聡

 2018年11月6日にアメリカで中間選挙が実施され、上院では共和党が多数派を維持し、下院では民主党が8年ぶりに多数派に返り咲いた。

※2018年11月9日現在

【上院】 未確定3議席                   ()内は改選議席数

民主党

共和党

49(23)

51(9)

46

51

【下院】 未確定10議席

民主党

共和党

193

235

225

200

1.選挙の結果

●全般

上院を共和党、下院を民主党が支配する「ねじれ」の構図が出来上がり、アメリカ政治の分極化がいっそう際立つ結果となった。選挙全般の特徴ということでは、多くの現職共和党議員が引退を表明した中で戦われた選挙であったということと、多数の民主党系女性候補者が出馬したということであろう。トランプ氏の女性蔑視発言への反発や、#MeToo運動も背景にあって、下院選では239名の女性候補者が出馬し、下院での女性議員総数は84人から90人超に増える見通しである。また、36の州で知事選が行われ、民主党が23州(今回7州増で16州)、共和党が26州(今回6州減で19州)という結果となった。

●共和党

共和党は減税と好景気、雇用の増加を追い風に、選挙終盤では移民規制強化も掲げて保守層の支持を集めた。これまでの中間選挙では、大統領の政権党が敗北するのが常であり、たしかに今回も共和党は下院で議席を減らして過半数を割ったが、上院では多数派を守り、善戦した。下院でも、多くの共和党現職議員が引退を表明する中、議席減は35以下に収まる見通しであり、オバマ政権期の2010年の中間選挙で民主党が下院で63議席失った時と比べればましな結果である。選挙終盤でトランプ氏が精力的に遊説し、共和党が猛追をかけ、それまでの劣勢を挽回したことも手伝った。

●民主党 

民主党は、やはり「反トランプ」を争点に掲げながら、都市部を中心に、女性や若年層、マイノリティを動員することに一定程度成功し、期日前の投票者数も過去最多となった。伝えられている出口調査によれば、下院選で女性の約6割は民主党候補に投票し、全体でも若者の約7割、黒人の約9割、ヒスパニックの約7割が民主党支持であった。また、別の出口調査によれば、18歳から29歳の若者の投票率は、4年前は21%であったが、今回は31%に達した。上院で民主党は過半数を取れなかったが、2016年大統領選でトランプ氏が勝利したウェストバージニア、オハイオ、ペンシルヴァニア、ウィスコンシン、ミシガンなどで民主党候補が勝利した。選挙資金の面でも民主党は有利であったが、序盤で支持者に期待された「ブルーウェーブ」と言えるほどの圧勝は実現しなかった。

2.内政への影響など

●内政の停滞/トランプ公約の実現遠のく

選挙の大勢が判明したのを受けてトランプ大統領は記者会見を持ち、経済成長策、インフラ、貿易、薬価引き下げなどで民主党と協力したいとの意向を表明した。たしかに政策綱領上、民主党はこれらの問題でトランプ氏と一致する面もあるが、分極化した政治状況の中で、2020年の大統領選でトランプ氏をなんとしても敗戦に追い込みたい民主党が、トランプ氏と協力する可能性は低いというのが大方の見通しである。トランプ氏に政策上の成果をできるだけ与えずに、大統領のパーソナリティや物議をかもす政治手法などをはじめとする属人的な問題こそが政治を停滞させたとする見方を浸透させ、議会の調査権を行使しながら、トランプ氏個人にまつわる疑惑を追及していくことが民主党の政治戦術になるとみられる。トランプ氏は、「偉大なアメリカ」の復興を進めようとする自分の足を引っ張っているのは民主党だと主張するだろうが、メキシコとの国境の壁の建設や、いわゆるオバマケアの改廃といったトランプ氏の公約は実現が一層遠のくことになる。オバマ前大統領は連邦議会との連携が困難と判断した後は、大統領令を頻用するという手法に走ったが、トランプ氏も類似の道のりをたどる可能性がある。

●民主党の「顔」の不在と左傾化

こうした政治の停滞が続く場合、民主党が有利になるかといえば、必ずしもそうとは言えないようである。今回の中間選挙を経てみて、民主党には「党の顔」と言えるような指導者がいないことが明らかになったとも言われている。それを象徴的に表していたのは、オバマ前大統領が退任直後の中間選挙で姿を見せたことにあったといえよう。また、民主党内部では、トランプ氏による移民問題への対応やカバノー最高裁判事の性的暴行疑惑の問題などへの反発から左派が主張を強めて躍進し、党内穏健派との溝を深めているようである。西山隆行氏は、民主党左派が人種やジェンダーなどの問題で過激な言説を強めることによって、白人労働者層や社会的保守派などが共和党の下に結束するという現象を引き起こしていると指摘している。

3.外交の今後

 内政で行き詰まるトランプ氏は、対外政策面で強硬路線を打ち出して、成果をアピールしようとするのではないかといわれている。本来、外交面での成果は内政面での成果に取って代われるものではないが、2020年に再選を目指すのであれば、何も成果を上げられない事態は、トランプ氏といえども避けたいであろう。対中政策、対露政策、貿易政策といった主要分野では、より厳しい路線が顕れる可能性がある。

●中国

 トランプ氏と連邦議会がほぼ一致し、中間選挙の影響をあまり受けない対外政策があるとすれば、それは対中政策であろう。これまでトランプ政権の対外政策の多くが批判に晒されてきたが、対中強硬路線については、微妙な温度差はあれ、党派を超えて広く支持されている。中間選挙前の10月4日に、ペンス副大統領がハドソン研究所で行った対中政策に関する演説は、トランプ政権の「中国問題」を総覧する内容となった。一部報道では、トランプ氏が中国との取引案を政権内でとりまとめるように指示を出したと伝えられている。しかし中国側は、アメリカとのいわゆる貿易戦争による悪影響を避けたいという思惑を抱きつつも、5月の閣僚級協議での合意を反故にされて辛酸をなめた経験もあり、仮にトランプ氏との取引に応じたとしても、そのあと再び圧力をかけられるのではないかとの懸念も持っているとみられる。そうだとすれば、中国はトランプ氏との取引にも及び腰となろう。また中国は、貿易赤字の削減などについては一定程度の譲歩が可能かもしれないが、テクノロジーの強制移転、「中国製造2025」、人権問題、東・南シナ海、軍備拡張などといった問題は、中国の産業発展、国際競争力、政治体制、安全保障といった根幹に係わる問題であるため、妥協することは困難であろう。とりわけ中国による先進テクノロジーを含む知的財産の窃取・取得に対する警戒心は、連邦議会でも共和・民主両党でかなり高まっている。つまり、仮に貿易等をめぐって何らかの米中取引が成立したとしても、それは一時的なものとなる公算が高く、むしろアメリカによる対中国の戦略的競争は幅広い分野で続いていく可能性が大いにある。

●ロシア

 中間選挙前からトランプ氏と連邦議会との間に不一致があったのは、対露政策である。トランプ氏はプーチン氏との接触を重ねて米露関係の改善を追求しようとしてきたのに対し、連邦議会はかねてからロシアに対して厳しい姿勢で臨もうとしてきた。共和党議会は、2017年夏に、大統領の反対を押し切る形で対ロ制裁法案を可決した。下院民主党は、議会の各種委員会において調査権を行使するなどして、ロシアによるアメリカの選挙への干渉の実態を白日の下に晒し、ロシアに対する制裁の履行徹底を求めたり、新たな制裁を科すといった動きに出る可能性がある。トランプ氏とロシアとの関係についても、民主党が例えば下院政治改革・監視委員会などでどのような方法で疑惑の究明を行うか、モラ―特別検察官がいかなる追究を繰り広げるのかが注目される。

●貿易

これまでのアメリカの対外経済関係はアメリカに不利益をもたらしてきたと主張するトランプ氏は、関税引き上げを圧力手段として、自由貿易協定の改定を進めてきた。アメリカ国内の労働者を保護したい民主党も、こうしたトランプ氏の取り組みを支持してきた面もある。新議会が発足する年明け以降、米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が議会に上程されるといわれているが、民主党がこれにどう対応するかは、その後の民主党の姿勢を占う試金石として注目されよう。日本との物品貿易協定(TAG)について、あるワシントンの専門家は、トランプ政権がEUやイギリスとの貿易協定も視野に入れて、民主党が伝統的に追求してきた厳しい労働・環境基準をTAGに盛り込もうとするのではないかと予想するが、そうした考慮に基づいた交渉方針をとるのかどうかを現時点で見通すのは難しい。むしろ当面は、米側がいわゆる為替条項の挿入を求めてくることへの警戒が強い。

●マティス国防長官の去就

 トランプ政権の今後の対外政策ということでは、中間選挙の結果の影響よりも、まずマティス国防長官が政権を去る事になった場合に、それがどう影響するかということに注目が集まっている。トランプ氏から軍人として尊重され、国防省の指揮を委ねられてきたマティス氏は、国防省という巨大な軍事機構の長として、アメリカの国防戦略の焦点をテロから大国間競争に切り替えるという指導力を発揮するのみならず、大統領の危うい判断を諫めるという重要や役割を果たしてきたといわれる。大統領の言動によって信頼性が低下しているトランプ政権に、かろうじてクレディビリティをもたらしていた存在が政権を去ることになれば、不確実性が増す。後任候補には、若きトム・コットン上院議員や、歯に衣着せぬリンゼー・グレアム上院議員らが噂されている。

4.結び

 上記以外にも、下院民主党がイエメン内戦への関与を断つべきとする主張を強めていくのではないか、国防予算のさらなる削減を求めるのではないかといった予想もある。他方、トランプ政権の内政と外交が今後どう展開するかということは、議会の「ねじれ」以外にも、数多くの要因の影響を受けるのであり、これから起こるアメリカ国内外の動向や出来事にも大きく左右されることになる。日米関係については、選挙結果そのものに直接大きな影響を受けることはないと今のところみられる。しかし、内政での行き詰まりの反動としてトランプ氏が対中強硬路線を強めていく場合、それが経済・安全保障・外交面で日本の対中関係にどう影響するかは、選挙前と同様、引き続き注意深く見守っていく必要がある。

(以上)

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