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2019/05/20
中国・華為技術(ファーウェイ)の激震を読み解くPART II 主任研究員 岩田祐一

中国・華為技術(ファーウェイ)の激震を読み解く PART II

(「情報通信技術(ICT)と国際的問題」研究会コメンタリーNo.1

(米中経済研究会コメンタリーNo.4

主任研究員 岩田祐一

520日(月)日本時間午前8時時点の情報に基づく

※本コメンタリーの昨年12月前稿は以下ご参照ください
(https://www.npi.or.jp/research/2018/12/10162351.html)

■ファーウェイ社への制裁強化

 米国商務省は15日、世界トップクラスの通信機器メーカーで、中国の先端技術企業の代表格とされる、華為技術(以下「ファーウェイ社」)および関連70社あまりを「エンティティ―リスト」に追加すると発表した。このことにより、ファーウェイ社は米国政府の許可なく、米国企業との間で部品などを取引することが禁止される[1]。この措置により、ファーウェイ社の生産販売活動に影響が及ぶことも予想され、日本企業そして米国企業への影響も更に表面化・顕在化してくるであろう。

 米国商務省はこの決定について、米国司法省が開示した起訴状で、ファーウェイ社が禁止された金融サービスをイランに提供しようとしたこと指摘されたことを受けたものと説明し、「米国の安全保障や外交政策上の利益に反する活動に関与した」と結論付ける正当な根拠があるとした。

 同様の措置は2016年そして2018年、同じく中国の通信機器メーカーZTE社に課されたことがあるが、ファーウェイ社の規模はより大きく、影響はより広範かつ深いものになろう。

 昨年12月、ファーウェイ社の最高財務責任者(CFO)で、創業者の娘である孟晩舟氏が、カナダ・バンクーバーで逮捕されたが、今年1月に米国政府は同氏を、イラン経済制裁への違反のかどで起訴している。今回の決定も、この一連の流れで起こったものと考えて差し支えない。

■秘密裏の遠隔操作-「バックドア」の存在

 また4月末には、ファーウェイ社の機器に、秘密裏に遠隔操作が可能な、いわゆる「バックドア」が発見されていたとの報道がなされた [2]

これによると、通信サービスの大まかな2つの要素:

1)通信事業者が保有するネットワーク(物理的に通信を運ぶ光ファイバー、電波基地局等と、その設備の中を経由して流れる通信トラヒックを中継するルーター等からなる) 

2)上記ネットワークに接続して、利用者が保有する端末(家庭用ルーター、スマートフォン等)

のうち、2)のみならず1)についても、英国本拠の国際的通信事業者ボーダフォン社がイタリア国内で展開する固定通信サービス機器のなかで、バックドアが特定された、とされている。

 この特定されたバックドアについては、2011年及び2012年の問題であり、現在は問題が解消された、とされているが、こうした懸念が続くこと自体、同社への「信頼性」を揺るがす1つの事象といってよいだろう。

 なお429日に、米国国務省次官補代理のRobert Strayer氏は、「ファーウェイ社は信頼できるベンダーとは言えない」旨の指摘をしている [3]。一方で、ファーウェイ社梁華会長は「スパイ行為に関与しない取り決めを外国政府とかわす用意がある」との考えを、英国時間14日に明らかにしている[4]

■情報通信技術と政治、そして安全保障

 51日、英国国防大臣のギャビン・ウィリアムソン氏が解任された。英国の携帯第五世代(以下「5G」)ネットワークにおけるファーウェイ社機器の採用可否についての、英国国家安全保障会議での協議内容をリークしたことがその理由とされている。

 まさに、情報通信技術が、一国の政治を揺るがす事象といえる。前稿コメンタリーで示したように「日本は、通信サービス・通信機器の安全保障問題について、幅広く考えることが必要である。具体的には、世界各国において、政府としての対策や通信事業者への働きかけなど、事態が動いていることを的確に把握する必要がある。」[5]といった流れが、ますますクリアになり、大臣の罷免問題ともなってきた。

米国はかねてより、同盟国に、もしファーウェイ社製品等を通信事業者が保有する5Gネットワークのコア部分に使い続ける場合は、機密情報の共有を取りやめる旨、警告を続けてきている。[6][7]

■なぜファーウェイ社の在り方がここまで問題になるのか?

いまや、世界の通信機器メーカー最大手の1社とは言え、なぜここまでファーウェイ社の在り方が問題になるのか? この原因は以下の2点に要約される:

Gネットワークは、Internet of Things(つながるインターネット、以下「IoT」)の核心をなすとみられ、「自動運転」や「繋がる工場」(世界中の工場のリアルタイムオンライン化)などを通じて、私たちの日常生活の隅々まで、影響を及ぼす存在たりうる可能性があること。

そのなかで、「規模の経済」「Winner Take All(勝者総どり)」といったICT市場の特性により、かねてより5Gの技術開発・機器開発に熱心に力を入れてきたファーウェイ社の世界的な寡占度が、通信事業者保有ネットワーク(前述1))の機器、および端末機器(前述2))の双方、とりわけ前者において、高まる可能性があり、そのファーウェイ社の在り方・企業行動への信頼性が、私たちの日常生活における信頼性にも直結しうること。

私たちの生活において、「世界1社独占・寡占、しかもつながりあっていて、日常生活不可欠」といった機器・サービスを提供している事例は、極めて少ない。辛うじて、コンピュータ基本ソフトWindowsの米国Microsoft社、インターネット検索サービスの米国Google社ぐらいであろうか。

Windowsへの信頼性、Googleへの信頼性[8]は、トラブル等の折々に議論になり、その都度、修正・改修が行われ、信頼性の維持をここまで続けてきている。また、何らかの形でライバル企業が常にその地位を脅かす動きを見せている。

ファーウェイ社については、そうした動きが見えづらい。米国政府はかねてより、中国政府がファーウェイ社に対して、米国の安全保障に反するようなネットワーク切断等を指示できる可能性があることを警告してきており[6]、信頼性への疑義とその改修、といった株式上場をしている一般民間企業の改善サイクルとは異なる見方がなされてきている。またコンピュータやインターネットサービスで元気のよい米国企業も、通信機器の世界、とりわけモバイル5Gの世界においては、存在感が薄く、ファーウェイ社を脅かす存在にはなりえていない。(これにはかつて、世界の著名ハイテク企業の1社として、携帯電話の世界においても君臨してきたモトローラ社の凋落が大きい)

Gの、とりわけ前掲の「通信事業者が保有するネットワーク」において、ファーウェイ社のライバル足りうる中国外企業は、フィンランドのノキア社、そしてスウェーデンのエリクソン社、そして韓国サムソン社のほぼ3社に実質、絞られている。各社とも業績絶好調というわけではなく、経営体力として、ファーウェイ社に勝っているとまではいえない状況である。

■情報通信技術の世界寡占が容易となる時代:対処をどう考えるか

 現下のファーウェイ社の問題は、基幹情報網の世界寡占の可能性、そしてそこにおける安全保障・信頼感とのバランスに、警鐘を鳴らすものであるともいえる。勿論、本エンティティ―リストへの掲載が、ファーウェイ社に留まらない可能性もあり、更には今後のAI(人工知能)/IoT/ICT時代の進化に伴い、おそらくこうした局面に直面するケースはさらに増えていくのではないか。

AIの「倫理」が議論されるケースが増えているが、ハード・ローのみならずソフト・ローによる規制、もしくはマーケットメカニズムが、こうした世界寡占がもたらす弊害可能性に対して、一定程度のスクリーニング機能を果たしていくことは考えられる。

一方で、AI/IoT/ICTはその「ネットワーク性(相互運用性)」、そして「規模の経済」の観点から、「勝者総どり」が容易に起きやすい世界である。1社がすべての技術・製品を提供せずとも、その基幹部分を押さえることによって、全体を押さえる効果が発揮されやすい。そしてこれが一国を超え、法による規制の困難さが増す局面で、特にハード・ローおよびソフト・ローを駆使して、どういった形のルール設定が必要となるのか、また適切といえるのか。ここが議論されるべき重要なポイントとなってくる。これは、政治・外交・安全保障のみならず、特に来たるべき5G時代以降において、私たち一般市民の日常生活における「安心・安全」にも直結する重大問題である。

今こそ、国際的に、政・官・学・産・民が連携した形での、情報通信技術の世界寡占可能性に対する議論、そして対処検討が、求められる。

[1]実際の運用の詳細にはまだまだ変動があると見込まれる。例えばファーウェイ社との既存取引企業に対する発動猶予の動きなど(https://jp.reuters.com/article/usahuawei-tech-idJPKCN1SP0RN5/20閲覧

[2]米国Bloombergによる(https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-04-30/vodafone-found-hidden-backdoors-in-huawei-equipment5/16閲覧

[3]英国The Guardian紙による(https://www.theguardian.com/technology/2019/apr/30/us-lobbies-mobile-phone-firms-in-anti-huawei-campaign5/16閲覧

[4]英国BBCによる (https://www.bbc.com/news/business-48276822) 5/16閲覧

[5]筆者前稿コメンタリー参照(https://www.npi.or.jp/research/2018/12/10162351.html)

[6]米国New York Timesによる(https://www.nytimes.com/2019/05/15/business/huawei-ban-trump.html) 5/16閲覧

[7]現在の各国政府の5Gに関するファーウェイ社へのスタンス詳細については、以下英国BBC記事を参照(https://www.bbc.com/news/world-48309132) 5/20閲覧

[8]Google社はファーウェイ社との取引を見直す動きがあると報じられている(https://jp.reuters.com/article/huawei-tech-alphabet-idJPKCN1SP0ST) 5/20閲覧

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