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2019/06/17
「知りたいことを聞く」シリーズ「AI時代に於ける日本の可能性と課題」(中村伊知哉・慶應義塾大学教授)

 中曽根平和研究所では、「AI時代に於ける日本の可能性と課題」と題して、郵政省ご出身で、メディア政策・情報通信・デジタル知財等をご専門とされる、慶應義塾大学の中村伊知哉教授と、研究所員・会員企業等との意見交換を、下記の通りにて開催しました。議論の概要は下記3のとおりですが、オフレコを前提としていますので、これ以上の詳細は割愛いたします。

 この会合は従来型の講演会ではなく、最初の1/3を基調講演、その後2/3を会員はじめとした出席者との質疑応答、という、意見交換重視型のものです。今後も継続して開催する予定です。

1 日時:令和元年6月11日(火) 16:30-18:00

2 場所:中曽根平和研究所 大会議室

3 概要

(1)AI(人工知能)時代に於ける日本の強み・チャンス

 AI時代に於ける日本の強みは、「情報通信技術 × ポップカルチャー」である。すなわち技術力・コンテンツ制作力を共に有しているところが日本の強みであり、いまでは、YouTubeやInstagram等を活用して、誰もが「歩くメディアプロデューサー」となれる時代となった。

 現在は、モノがすべてインターネットを介してつながっていくIoT(Internet of Things)の時代となりつつあり、その背後でAIがつながることによって、全体がより賢い社会的プラットフォーム(土台)となっていく可能性がある。こうした技術変化・市場変化の時代に於いて、米国・中国・EUが、そのプラットフォームのパワーのカギを握る「データ」をめぐる鍔迫り合いを演じている。既に米国ベースのGAFA(Google/Amazon/Facebook/Apple)は、国家を超えるパワーを有しており、これに対して、EUは個人情報保護のルール化やデジタル課税等で反撃をしている状態であり、また米国と中国との間では、5G(携帯第五世代)時代のデータ主導社会の覇権争いが生じるなかでファーウェイ問題が注目されている。いずれも「データ・情報」が資源であり、産業の構造や在り方そのものを変革してゆく」という認識からのせめぎあいである。

 日本にとって、こうした状況はむしろチャンスである。各国からは「日本となら組める」という声も上がり、日本が世界を融和させられるポジションにある。DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼ある自由なデータ流通)の提案をはじめとした国際的動きも活発化しつつあり、さらに、AI政策のプライオリティも日本政府の中で高まりつつある。

(2)日本の課題-AIの社会実装に向けて

 となると、重要なのは中身、すなわちAIの社会実装である。既に理化学研究所のAIP(革新知能統合研究センター)では、基礎研究/応用研究/社会課題解決の3本柱で進めているが、今後はいかに民間とのオープンな連携を推進していくかがカギになろう。

 AI政策は、知財制度とデータ流通基盤が二本柱である。

 前者については、AI時代に於ける知財概念の拡大(ソフトウェアのみならず、それを生んだ"親"ソフトウェア、そしてそのもととなるデータ・・・)、また昨今のマンガ海賊版問題の議論にも見られるよう、IT(情報技術)と知財双方への国民の関心が高まってきており、今後、与信や犯罪予測など、様々なAI活用場面での議論可能性を踏まえると、このITと知財の共存共栄をどう図っていくか、知恵と工夫が求められる。

 また後者のデータ流通基盤について、民間がこれをビジネスとして主導していくことを考えると、GAFAが市場化を十分しておらず、かつ日本の産業の強みを生かしていけるような分野を中心に、データを有効利活用していきながら、日本が世界有数の「AI利用大国」を目指していくことが必要と考える。この際、日本の弱みとなるのは、AIに対する「不安感」であったり、またAIを活用せずとも「既に便利な社会」であったりするところだが、AIが人間の既存の仕事を引き受けてくれることで生じる新たな可能性・余暇時間をどう活かしていくか(「超・ヒマ社会」の実現)、またそうしたなかでいかに、セキュリティやデジタル格差といった社会問題への対応やルールの完成度を高めていくか、これこそが日本に問われた課題であり、かつ世界をリードする可能性と考える。

(3)ビジネスを生み出せるようなクリエイティビティ・プラットフォームの大切さ

 AI時代はいわば「予見不可能な」世界といえる。したがって「創る」「楽しむ」がより重要な時代となってくる。日本は世界からそのクリエイティビティの高さを評価されているものの、自らがクリエイティブだと思っている人の比率が低いことは残念である。こと米国と比べると、大学が新しいビジネスを生み出すプラットフォームになっていない(サービスとテクノロジーといった学際知の結合や、財務・法務的なスタートアップ支援含め)といったところが課題であり、また経営者においてもITに何を求めるか、といった点の理解深化(学びなおし)が大切な時代になっている。これらをクリアすべく新しい大学(i専門職大学)を、産業界と連携して来年東京・竹芝に立ち上げたいと考えている。

以上

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