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2020/02/17
デジタルプラットフォーマーとグローバルルールの在り方 主任研究員 岩田祐一

デジタルプラットフォーマーとグローバルルールの在り方

(「情報通信技術(ICT)と国際的問題」研究会コメンタリーNo.4)

主任研究員 岩田祐一

■新型コロナウィルスでも注目されるデジタルプラットフォーマーの役割

 中国を中心に、日本でも広まりを見せている新型コロナウィルスについて、改めてその発信におけるデジタルプラットフォームの役割が注目されている。

 日本の厚生労働省においても、Twitter上での情報伝達がタイムリーに行われているほか[1]、武漢をはじめとした中国国内でも、先月1月の流行初期における情報伝達が、当時から着目されていた [2]。

■デジタルプラットフォーマーのロビイング

 そうしたデジタルプラットフォーマーは、その存在の大きさが故に「フェイクニュース」や「国際課税」等、往々に国際的な問題の文脈でも取り上げられる。とりわけ'GAFA'(Google, Apple, Facebook, Amazon)は、各国政府へのロビイング活動の派手さでも折々に注目される。

 先月1月も、米国CNBCが2019年のGAFAロビイング活動費用につき「前年度比較で'G'大幅減、'AFA'は増」と報じた[3]ほか、欧州ではEuronewsがEU本部のあるベルギー・ブリュッセルでのGAFAのロビー活動の模様について報じたところである[4]。

 また昨年2019年3月、Facebookの創業者でもあるザッカーバーグCEOは、以下4分野からなるインターネットのグローバルルールの検討開始について提言した [5]。

1)有害なコンテンツ

2)清廉に行われるべき選挙の環境

3)プライバシーとデータ保護

4)データ移動

 

■ロビイングの背景

 なぜザッカーバーグは上記のような提言をしたのか?提言中にヒントがある。 (カッコ内は筆者補足)

"I (Zuckerberg) believe we(Facebook) need a more active role for governments and regulators. By updating the rules for the Internet, we can preserve what's best about it --- the freedom for people to express themselves and for entrepreneurs to build new things --- while also protecting society from broader harms."

 大胆に意訳するならば「Facebookの利用者にとっても、運営者にとっても、そして取り巻く環境にとっても、今後の自由かつ安全な活用に向けてハッピーだから」ということになろうか。

 逆に言えば「自分たちがこれを言い出さないと、世界的な流れが作り難い」という思いの表れでもあったといえよう。

■しかしながら・・・巨額な罰金と和解命令

 それから4か月後の2019年7月、Facebookは巨額な罰金(50億ドル)を米連邦取引委員会(FTC)から課されることとなった[6]。この金額規模は、プライバシーもしくはデータセキュリティへの罰金としては史上最大(それまでの20倍)である。

 この巨額な罰金の理由とは・・・遡ること7年前の2012年、FacebookがFTC和解命令により、「プライバシーを利用者自身が設定できるよう」見直しを義務づけられたにも拘わらず、プライバシーの取り扱いについて改善がみられず、第三者機関への大規模な個人情報流出をもたらしたことであった。

 そして今後の措置として、FTCからの追加和解命令により、以下のような新たな義務付けが発生した:

「独立したプライバシー委員会の設置」「独立したコンプライアンス担当者」「四半期ごとのFTCへのレポート提出/年次認証(違反時は刑事罰の対象にも)」「2年ごとの外部評価」。あわせて具体的かつ詳細な禁止要件も義務付けられた。

 

■それでも価値のあるFacebookからの提言-国際的かつ包括的なデジタル環境議論の場の不在

 この流れだけを見ると「Facebookは自社の罰金を逃れるために、グローバルルールのカウンター提言をしただけではないか?」と勘繰る向きもあるかもしれない。それは強ち否定しきれない想定ではあるが、それでもなお、ザッカーバーグの提言には価値があるといえる。

 それは「デジタル環境をめぐる各課題を、包括的に取り扱って議論できる、国際的な場が(ほぼ)存在しない」ことへの明確な指摘である。

 上記提言において、ザッカーバーグはこうも述べている。(カッコ内は筆者補足):

"I'm looking forward to discussing them (ルール検討提言分野) with lawmakers around the world."つまり彼は、グローバルインターネットルールの議論の相手として、国際機関名を挙げたわけでも、政府名を挙げたわけでもなく、「世界中の法律制定従事者」との議論を希望したということである。ここにこそ、GAFAがロビイング活動に力を入れざるを得ない、1つの背景がある。

 こうした状況の裏付けの1つとして、国連が2019/6に発表した報告書"the age of digital interdependence"[7]がある。立派な報告書だが、4.2項のタイトル'Three possible architectures for global digital cooperation'に示されるよう、概念論・試案に留まっているのが現在の状況である。

 

■最新技術を包括咀嚼したうえでのグローバルルール提言の必要性-日本のリード可能性

 上述米国FTCの対応にもみられるよう、技術を含めた専門家の協力のもと、個別具体的かつ実効的なルール制定を行うことが、グローバルデジタルプラットフォーマーをめぐる必要なルール作りのキモであるといえる。

 米国のシンクタンクであるランド研究所は、ザッカーバーグの提言を踏まえつつ、更にグローバルに検討すべきインターネットルール分野を、サイバーセキュリティの側面から以下3点指摘している[8]:「セキュリティ・バイ・デザイン(設計時点から組み込むセキュリティ)」「情報保護のためのインターネットシステム全体の価値保証」「新たなビジネスモデル/デジタルサービスを踏まえたこれらの最新化」

 実はこの3点、日本も世界に先駆けて、内閣府の戦略的創造プログラム(SIP)で取り組んでいるところである[9]。最新技術を包括的に理解・咀嚼したうえでの、グローバルなデジタルルールづくりは緒に就いたばかりであるなか、そしてそれを世界の安全・安心により活用していこうとするなか、日本の果たしうる役割可能性は十分に大きいと言えよう。

 

[1]詳細は以下厚生労働省のTwitter参照(https://twitter.com/MHLWitter) 2/17閲覧

[2]詳細は以下JBPressサイトにおける近藤大介氏の1/22レポート参照(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59069?page=3) 2/17閲覧

[3]米国CNBCによる(https://www.cnbc.com/2020/01/22/how-much-google-facebook-amazon-and-apple-spent-on-lobbying-in-2019.html?&qsearchterm=lobbying)1/28閲覧

[4]欧州(フランス)Euronewsによる(https://www.euronews.com/2020/01/14/tech-giants-are-serious-about-lobbying-in-brussels)1/28閲覧

[5]詳しくは米国Washington Post紙を参照(https://www.washingtonpost.com/opinions/mark-zuckerberg-the-internet-needs-new-rules-lets-start-in-these-four-areas/2019/03/29/9e6f0504-521a-11e9-a3f7-78b7525a8d5f_story.html)1/28閲覧

[6]詳細は米国FTCからの以下発表等を参照 (https://www.ftc.gov/news-events/press-releases/2019/07/ftc-imposes-5-billion-penalty-sweeping-new-privacy-restrictions, https://www.ftc.gov/news-events/blogs/business-blog/2019/07/ftcs-5-billion-facebook-settlement-record-breaking-history)1/28閲覧

[7]詳細は以下を参照(https://www.un.org/en/pdfs/DigitalCooperation-report-for%20web.pdf) 1/28閲覧

[8]詳細は以下米国ランド研究所サイトを参照(https://www.rand.org/blog/2019/05/three-new-rules-worth-considering-for-the-internet.html) 1/28閲覧

[9]詳細は例えば以下内閣府SIPサイトを参照(https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/keikaku2/3_iot.pdf) 1/28閲覧

また当該プログラムのプロジェクトリーダーでもある後藤厚宏・情報セキュリティ大学院大学学長の弊所における意見交換の模様は以下を参照 (https://www.npi.or.jp/research/2020/02/10100324.html) 2/17閲覧

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