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2020/03/30
「デジタル時代の異分野連携コーディネート-個と個との認識・信頼醸成に基づく国際的情報発信・価値創造-」 (伊藤伸・東京農工大学教授、蛯谷敏・リンクトイン・ジャパン マネージングエディター) (「情報通信技術(ICT)と国際的問題」研究会コロキアム)

 中曽根平和研究所では標題につき、日経新聞にて産業系記者を経験したのちにアカデミアに転じ、農工大TLO初代社長を会社設立来務める伊藤伸・東京農工大教授、日経BP社にて日経ビジネス ロンドン支局長などを務めたのちにソーシャルネットワークサービス(SNS)の世界に転じた蛯谷敏・リンクトイン・ジャパン マネージングエディターとの意見交換を、以下の通り開催しました。

 議論の概要は以下3のとおりですが、オフレコを前提としていますので、これ以上の詳細は割愛いたします。

1 日時:令和2年3月26日(木)15:30-17:00 (新型コロナウイルス感染拡大防止のため縮小実施)

2 場所:中曽根平和研究所 大会議室

 

3 概要

(1)デジタル時代の産官学連携~高まるコーディネートの重要性~ (伊藤教授)

 

■新型コロナウイルスと産官学連携

 2001年以降在籍している東京農工大学では、知的財産の権利化・管理も担当してきたが、目下、新型コロナウイルス検査でも脚光を浴びているPCR検査装置に携わった経験は思い出深い。私が直接関わった案件は大きくは成功しなかったものの、こうした農工大の潮流は今も産学連携で研究開発成果を世に問うことが出来ている。(直近の動きは以下<https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP530666_Q0A310C2000000/>)

 ただこのような形で大学の研究開発成果が製品サービスとして結実する確率は決して高いわけではない。農工大での経験を通じた見立てでは、何らかの知的財産の形で対価を得られるようになるものが全体の1割程度、そのなかで長期的に収入が得られるとなるとごく限られた数となる。

 大学と民間との共同研究・受託研究は毎年、件数・金額共に伸び、現在は共同研究で年間600億円をこえる規模となっている。しかしながら2016年11月に文部科学省・経済産業省が共同で策定した「産官学連携による共同研究強化のためのガイドライン」ではこれを2025年度までに更に3倍程度に伸ばすという、高い目標を掲げている。

 

■コーディネート・マッチング・価値創造の要諦と課題

 いわゆる「オープンイノベーション」の潮流の中で、産官学連携が結実して価値を生み出すには、「外部知識探索」「マッチング」といったプロセスを経ることが必要だ。しかしながらこれらの手法はここ数十年基本的に変わっておらず、「大学からのリリース(記者発表)」「学会・研究会・展示会・技術発表会等での交流」「ダイレクトマーケティング」などが主な契機であり、そのなかでも人的ネットワークが果たす役割が大きい。

 その時に課題として、時間や費用、ニーズ・シーズの合致精度、また情報をやり取りする障害(知識の粘着性)や、外部シーズに対する的確な評価(ネガティブに働くとNot Invented Here症候群)などが浮かび上がる。SNSの拡大、スマホの普及、AIの飛躍的発展といった潮流のなかで、もっと効果的・効率的なマッチング・コーディネート手法はないか、試行・探索が必要である。

 

■イノベーション・コラボレーションを生み出すための土壌

 日本でこうした土壌をより育てていくには、大学や研究機関内に、その促進をサポートするような機能・システムの充実が必要だが、そこに人を張り付けられるかどうかが大きな課題と考える。米欧は人材の流動性が高く、国内外で多様な経験を持った人を登用しやすいが、日本ではそこがなかなか容易ではない。

 また資金集めに関しても、寄付税制などの仕組みに、改善の余地があるのではないかと感じる。産官学連携に伴うイノベーションの成功が、より高い経済的成長を生み出しうる、ということへの社会的な着目がより必要かと感じる。

 

 

(2)ソーシャルメディアと既存メディアの違い ~自らの体験に基づいて~ (蛯谷マネージングエディター)

 

■「組織対組織」の関係から「属人関係」の重要性へ ~新型コロナウイルスも踏まえ~

 2018年に、18年間勤めた日経BP社を辞して、ビジネス系SNSで世界最大手、現在6.7億人を超える利用者を持つリンクトイン社に移った。「紙のメディアではやれることをやり切った」という思いと「組織の看板に左右されない個人ベースの自由な発信の重要性・可能性」を知りたい、という思いがあった。

 「なぜSNSに編集者が?」と不思議に思われる方もいるかもしれない。仕事探しのSNSとして欧米で広がったリンクトインだが、仕事探し以外にもビジネス用途等でアクセスし使ってもらえるよう、という狙いで、米Forbes誌等でデジタル版の開発長を務めた人間を迎え入れ、ワールドワイドな編集部体制を作ったものだ(現在世界で70名規模)。

 このリンクトイン編集部の狙いは「3C」で表現される。①Curate (注目トピックスを集め紹介) ②Create(独自記事・独自ランキングの作成) ③Cultivate(実際の顔合わせイベント開催・リンクトインを高活用している発信者を増やし、リンクトイン本体の活性化を狙う) いずれも「顔の見える利用者との対話」を狙ったものだ。ビジネス用途のSNSであるが、個々人に焦点を当てた狙いを有している、ということをご理解いただけるのではないかと思う。

 新型コロナウイルスに関してもこうした狙いの中で特集記事などをタイムリーに発信・掲載し、利用者とのコメントの交わしあいなどを通じ、SNSとしての存在価値を高めていっている。

 

■コーディネート・マッチング・価値創造の要諦と課題

 既存の「読者に対して受動的な」紙メディアとは異なり、「利用者に対して話しかけてみる/利用者から話しかけられたことに応えてみる」能動的なスタンスがSNSでは極めて重要だ。書き手と読み手の立場が柔軟に入れ替わりつつ、相互コミュニケーションが拡がり深まる中で、個々人としての相互信頼関係が高まっていく。これがコーディネート・マッチング、そしてオープンイノベーションのカギなのではないか、と感じる。

 そのときに何が媒介になるのか、というと、リンクトインの場合はやはりコンテンツ(記事)である。利用者により共感を持ってもらいやすいテーマを探し、自分が持つ得意技(したい方向性)記事化し拡散していく。記事へのコメントを通じて、人々がそれぞれの関心を知り、繋がっていく。一定の繋がり規模を超えると今度は逆に、情報が集まってくるようになる・・・。こうしたサイクルの起点はやはり「人」である。しかしその「人」に「組織」「経歴」「経験」「知識」といった看板・情報が付与されることで、相互認識・相互信頼をより促すことになる。

 

■イノベーション・コラボレーションを生み出す土壌

 日経BP時代に、ロンドン支局長を務めた経験からの観察では、欧州におけるイノベーション関連人材の流動性は、個々人が「技術」+「α(専門など自分らしさ)」を有しているところに特徴があると感じる。「自分が、何ができるか、何がやりたいか、をはっきり出していける」ことが重要ではないか。

 また、現下のコロナウイルス感染拡大防止策にも通じるのだが、遠隔(リモート)で協働していくときの仕組みづくりも大切だ。特にリンクトインでは、国境を越えて仕事をする関係が日常的なので、ビデオやチームコミュニケーションツールの活用(ZoomやSlackなど)、またこれらを仕事の必要な打合せのみに活用するのだけではなく、ちょっとした雑談や声掛け、場合によっては遠隔ビデオランチなど、人と人とのさりげない触れ合い・相互信頼を高めていくものとしても活用していくことが大切だ。また達成目標や評価軸などを個別具体的かつ客観的に共有しておく営みも、遠隔での協働には必要になるだろう。

 

以上

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