2020/11/19
NPIウェビナー「多元化する米中のイデオロギー攻勢-ヨーロッパへの浸透」を開催しました。
昨今の米中対立は貿易や技術面だけでなく、社会主義体制下の一党独裁かそれとも民主主義かというイデオロギーの対立にも発展しています。
米中対立やそこでの対立の争点は欧州でいかなる様相を見せているか、2020 年11月12日にNPIは公開研究会をウェビナー形式で開催し、ジェトロ・アジア経済研究所副主任研究員の江藤名保子氏、明治学院大学国際学部教授の中田瑞穂氏をお迎えして、チェコのケースを取り上げながら議論しました。討論には東京大学大学院総合文化研究科国際社会学専攻・教授の伊藤武氏と当研究所の川島真上席研究員が加わり、司会は森聡上席研究員が務めました。
概要は以下の通りです。
<中国・中東欧関係の現状‐「信頼性」を担保する枠組みとは - 江藤名保子氏>
8月末にチェコのビストルチル上院議長が台湾を訪問したが、親中派のゼマン大統領はこれを批判し、中国との摩擦を回避した。中東欧諸国の対中姿勢は、台湾を重視するトランプ政権と中国と経済関係を深めるEUの双方向から影響を受ける。人権問題を重視するEUは香港や新疆ウィグル自治区の状況に懸念を示し、中国市場の不透明さや権威主義的ガバナンスにも反対、ファーウェイの排除も進める。だが米国が「共産党独裁の中国は信頼性に欠ける」とする点に同調せず、中国に対して人権や経済の平等性におけるルールの改善を強く求める。中国への信頼性問題とイデオロギー問題を区別する点において、EUは米国と異なる対中アプローチをとっていると言える。
<EUの中の中東欧と対中関係 - 中田瑞穂氏>
中国は、2004年の中東欧のEU加盟以降、同地域にEUへの足場としての関心を示した。中東欧諸国は西欧に比べ経済水準が低く投資を切望していたことに加え、政治的にも「法の支配の後退」と指摘される状況があり、中国をガバナンス面で評価し、プラグマティックに受け入れる姿勢が見られた。特にチェコのゼマン大統領の中国への接近は目を惹いたが、国内には大統領権限逸脱との評価もあった。中東欧の中国との16+1参加は、EU分断の試みとも危惧された。
しかし、EU共通市場内の中東欧諸国への中国からの経済進出は困難であり、雇用を生むような投資ははなく、幻滅が広がる。チェコでは、台湾との関係に関連する中国からの度重なる圧力が国内で政治問題化し、今回の上院議長訪台に至った。法の支配の後退が指摘されつつも、中東欧には政治的多元性も維持されていることの現れともいえる。
※講演の動画はこちらから。