2023/10/11
海洋安全保障研究委員会リサーチノートNo.2「ハイブリッド戦争の本質的メカニズム -軍事・非軍事の諸手段を最終目的に結びつける「認知レベルでの戦い」-」(松村五郎・元陸上自衛隊東北方面総監)を掲載しました。
近年、安全保障関連の論考においてハイブリッド戦争という用語が多く使用されるようになってきた。しかし論者によって、この用語が意味する内容は必ずしも同じではなく、この用語を用いて記述しようとする安全保障上の含意もそれぞれ異なる。
そのような中で本稿では、国家の軍隊間における本格的軍事戦争に至る閾(しきい)値未満で目的を達成しようとする軍事・非軍事の複合的手段を用いた戦いとしてのハイブリッド戦争に焦点を当て、その戦いがどのようにして目的を達成するのか、その本質的なメカニズムについて考察する。
そのために、最初に本稿におけるハイブリッド戦争の定義を明確にした上で、その中で用いられる軍事・非軍事のハイブリッド脅威手段を明らかにし、それら手段を目的達成に結び付ける「認知レベルでの戦い」の性質について考察していく。
考察に当たっては、まずハイブリッド戦争における目的達成メカニズムの中で「認知レベルでの戦い」が持つ意義を明らかにし、それらがどのようなターゲットに向けられ、どのような仕組みで機能するのかを、順を追って考えていくこととする。
これらの考察の上に立って最後に、現在進行形のロシアによるウクライナ侵略(以下、便宜的にウクライナ戦争と呼称する)においてそれがどのように具現されているのか、また日本を含め人権を重んじる国家がハイブリッド戦争に対処していくためにはどうすればよいのかについて、考えを進めていきたいと思う。