2013/01/01
国際平和協力のあり方に関する調査研究 -PKO参加20年を迎えるに当たっての提言-
世界平和研究所は「国際平和協力のあり方に関する調査研究 -PKO参加20年を迎えるに当たっての提言-」を発表しました。
「国際平和協力のあり方に関する調査研究 -PKO参加20年を迎えるに当たっての提言-」
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【概要(PDF版)】
1992年に国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律が成立し、本年で20年となる。その間、我が国は、二度の法改正を行ったほか、運用面でも改善が重ねられてきている。
また、約20年前に冷戦が終了し、紛争の性質が伝統的な国家間の戦争から国内・民族紛争に変化したことに伴い、国連PKOの在り方は、ドラマティックともいえるほどの変遷を遂げてきた。しかし我が国はこのような変化に十分ついていけていない。
本稿では、PKO開始20年という節目の年に、課題を見直したうえで、より効果的で成熟したPKO活動を行うための提言を以下の通りまとめた。
(1) 戦略と方針 ― オールジャパンによる政策策定と実施
PKO法は、PKO活動参加のための手続きと条件を定めているが、どの様な理念や戦略で参加するかは明らかではない。
このため、我が国のPKOへの参加の在り方についての基本的理念を定めると共に、オールジャパンの連携システムを構築するための「国際平和活動に関する大綱」を閣議で決定することが必要である。同大綱には、その中で、政策的判断に基づく基本的理念や中期的な方針を定めると共に、政府あげての連携システムとして、各省庁の局長級で構成する連絡会議を内閣官房副長官の下に設置し、定期的に政策及びオペレーション面での協議と調整を行う。これにより、外交・防衛当局のみならず、警察・司法・人権・開発等に関する幅広い関係者が、情報の共有・分析・判断を共同で行うことが可能となる。
(2) 国際平和協力に関する憲法第9条の解釈の変更及び法的整理の見直し
いわゆる「参加5原則」や、「武力の行使」と「武力の行使の一体化」に抵触するとされる武器使用、後方支援分野についての我が国独自の法的整理は、国連のスタンダードに則しておらず、PKOへの参加形態・活動内容に様々な制約を課している。
このため、「国際の平和と安全の維持という国際公益を実現する目的で、安保理決議を経て執られる措置への参加は、国連の指揮の下、又は安保理の授権により活動する以上、国権の発動として武力による威嚇又は武力の行使を行うものではない。」と憲法第9条の解釈を整理すべきである。これにより、日本が他の派遣国と同様の認識で同等のPKO活動を行い、より積極的にコミットするための法的基礎が確立する。
(3) 自衛隊の参加形態の拡充
近年の国連PKOにおける軍事部門は、従来以上に高い能力や高度な器材を必要としている。我が国は、これまで主として工兵部隊等を派遣してきたが、更に広範な分野で自衛隊の能力を活かす余地がある。具体的には、人的損耗のリスクが比較的低く、かつ先進国等でなければ派遣が難しい多目的後方支援部隊、情報収集部隊及び教育訓練担任部隊は、貢献度の高い有望な選択肢となり得るであろう。日本の自衛隊は、装備品や練度の質的観点及び今後の軍事技術の動向の観点から、課題はあるものの、これらの部隊の派遣に実行の可能性があるといえる。
(4) 文民警察官の参加
近年の国連PKOにおける文民警察官のニーズは高まっており、展開中の15ミッション全体で1万3千人以上もの文民警察官が派遣されている。しかし、我が国のこの分野での派遣は、現在ゼロであり、国力に比して極めて不十分である。
このため、文民警察業務を警察の本来業務とし、迅速かつ効果的に文民警察業務に参加できるよう、特に人材育成への協力を中心とした体制を整備する必要がある。具体的には、国際警察センターを活用したPKO派遣経験者や各国の専門家等による教育の実施、派遣候補者の登録制度等の整備が必要である。
(5) 文民の参加促進
近年の国連PKOにおける文民の活動の重要性と要員のニーズは急激に増大しているにも関わらず、日本人の文民要員は約0.3%と極めて少ない。民主主義、法の支配といった分野で、我が国が国造り支援を行うことは、有意義であり、貢献度も高まる。
文民参加を促進するため、第一に、前述の「国際平和活動に関する大綱」に基づき、民間人のみならず公務員も含めた人材育成を行うセンターを設置すること、第二に、政府が、地方自治体を含む公的機関、大学・研究機関等に、PKO経験者の採用に当たって優遇措置を採るよう働きかけること、第三に、すでに組織で勤務し、国連PKOへの参加を志す者が、復帰の保障の下で参加できるようにすることが必要である。
(6) 高位ポストにおける貢献
事務総長特別代表やフォースコマンダー等、高位ポストの側面からの日本の貢献は、明石康氏及び長谷川祐弘氏以来見られない。日本人の高位ポスト獲得は、日本国内でのPKOへの関心を高めると共に、日本らしさを活かしたリーダシップの発揮を可能とする。そのためには、戦略的な人材育成が必要である。
(7) 女性参加の促進
近年の国連PKOにおいては、あらゆる側面で女性の視点が欠かせないため、PKO要員における女性の増加が重視されているのが現状である。
このため、前述の警察官派遣においては、できる限り積極的に女性の要員を選定すべきである。また、文民要員における女性の割合を増大するため、PKO派遣経験のある女性とNGOの女性職員や平和・開発関連分野の女性研究者との交流促進や、メンタリングするシステムの整備が必要である。
(8) 「国際平和活動センター」(仮称)の設立
近年の国連PKOの変化に対応し、軍事・警察・文民各部門を現場において有機的に連携させるためには、次の四つの要件を備えた人材育成のハブとしての「国際平和活動センター」の設置が必要である。第一に、軍事・警察・文民各部門を横断的・包括的に教育すること、第二に、調査・研究を行い、学術的なセンターであること、第三に、国際的な情報収集・発信力をもつこと、第四に、文民部門について、育成した人材をプールし、迅速に派遣できる機能を持ったセンターであることが必要である。
(9) ODAとの連携
これまでのPKOとODAの連携は、アドホックかつ現地中心のイニシアティブに頼ってきたと言わざるを得ない。軍民それぞれの分野での優位を活かした連携を実施するためには、平時から政府一体となって政策立案・実施の監督・情報共有・経験の蓄積を行える枠組みが望ましい。具体的には、ODAとの連携を、「国際平和活動に関する大綱」により定め、防衛省、警察庁、外務省、JICA等の関係省庁から担当者を出向等させて小規模のユニットを設置することが一案である。
グローバル化と相互依存関係が一層進展している国際社会の中で、我が国が今後も平和と繁栄を享受し続けるためには、国際社会のルールや制度作りの中で、日本の利益も適切に反映されるよう、発言力を保持し続ける必要がある。この意味でも、最も困難な状況にある国・地域を支援するPKO分野での貢献の拡充が望まれる。この提言案を含め、すでに多くの改善策が提案され、問題意識は政府関係者や政治家の多くに共有されている。残るは、提案を実施に移す政治的決断力であろう。