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経済・社会

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2014/10/01
人口減少下での労働市場―女性、高齢者の労働力率引上げにより2040年にかけての労働力不足を乗り切れ―

藤江泰郎主任研究員による報告を掲載しました。


「人口減少下での労働市場―女性、高齢者の労働力率引上げにより2040年にかけての労働力不足を乗り切れ―」(PDF)

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(序文)~要旨にかえて~

 最近、人手不足の声がいろいろなところから聞こえてくるようになりました。思い起こしてみれば、最初は、震災後、被災地での復興事業関係で人手不足が言われ始め、それがアベノミクスによる景気の拡大とともに、いろいろなところから聞こえるようになってきたように思えます。牛丼屋が人手不足で深夜営業が出来なくなったり、アルバイトの時給が上がったり、某外資系コーヒーチェーンでは非正規雇用社員の正規雇用化を始めたりしています。また、2015年3月卒の新卒者の就職環境も昨年、一昨年に比べるとかなり好転してきているようです。こうした労働需給環境の好転は、景気の拡大という「労働需要」の増大による面もあると考えられますが、一方で人口減少局面に入った我が国においては「労働供給」の天井が低くなってきていることも少なからず影響しているのではないかと思われます。


 私は、本年1月に「出生率=2を目標とした異次元の少子化対策政策を」と題する研究レポートを出させていただき、「我が国の人口減少に歯止めをかけバランスのとれた人口構成とするためには、2025年までに出生率を2.07まで回復させる様な少子化対策政策をとるべきである」ということを述べさせていただきました。本レポートは、1月のレポートの続編で、労働市場について分析したものです。労働市場についてみると、仮に2025年までに出生率を2.07まで回復できたとしても、生まれてくる子供たちが労働力になるまでの間(生まれてくる子供が労働力となるのは2040年以降になると考えられます)は、現在の少子化の影響を引きずり労働力人口の減少が続くことが見込まれます。労働力人口の減少幅は、今後より大きくなります。このことは、現在見られ始めた労働力不足が早々には解決せず、むしろ今後は一段と深刻化していく筋合いにあることを示唆しています。


 こうした目先の労働力不足への対処として本レポートで提言しているのは2点です。1点目は女性の労働市場参加の一段の促進です。2点目は高齢者の雇用の促進です。

 1点目の女性の労働市場参加の一段の促進については、これまでも女性の労働市場への参加が労働供給面で大きく貢献してきたのですが、女性の非労働力人口をみるとまだ労働市場への参入の余地は残っています。こうした層に対するケアが行き届けば、女性の一段の労働市場への参加が期待されます。

 2点目の高齢者の雇用の促進については、年金の支給開始年齢の引上げとペアで実施してはどうかと考えています。本レポートでは、年金の支給開始年齢を65歳から70歳に引き上げることと並行して、現在進められている65歳への雇用延長を2040年にかけて70歳にまでさらに延長することを想定しています。年金の支給開始年齢の引上げに関しては、当研究所の北浦修敏主任研究員が本年3月にディスカッション・ペーパーとして発表した「世代会計の手法を活用した政府支出の長期推計と財政再建規模の分析」において試算されたものです。ご関心のある方はご参照ください。


 結論を先に述べてしまうとすれば、図表23、24のような年齢別労働力率の引上げが実現すれば、2040年にかけて労働力人口の減少を防げることとなります。では、図表23、24のような労働力率の引上げが実現可能かどうかというと、3-2、3-3での検証結果からすれば、実現の可能性はあると考えられます。ただ、それは何もしなくても自動的に実現するのではなく、女性や高齢者が労働市場に参入していけるよう、きめ細かく対応をしていくことも必要です。目前に広がる労働力不足の現実を乗り越えるよう、取り組んでいくことが必要です。

 本レポートは、極力データをもとに事実を確認しながら議論を進めるようにしました。その結果、掲載した図表数は159になってしまいました。グラフを眺めながらお読みいただければ幸いです。


(本レポートの構成)

 本レポートは下記の様な構成となっています。

  1 現状の確認

   1-1 最近の労働需給の状況

   1-2 人口見通しを前提とした労働力人口の見通し

  2 必要な対応:2040年にかけての労働力率の引上げ

   2-1 労働力率引き上げによる労働力人口の試算

   2-2 労働力人口の前提別にみた中期的な成長率の試算

  3 労働力率引き上げの可能性についての検証

   3-1 これまでの労働市場の動きの確認

   3-2 女性の労働力率引き上げの可能性の検証

   3-3 高齢者の労働力率引き上げの可能性の検証

   3-4 若年不就業者の就業の可能性の検討

   3-5 フリーターの正規雇用化について

   3-6 外国人労働者について


 「1」では、労働市場の現状について確認するとともに、人口見通しを前提とした労働力人口の見通しについてもみていきます。その結果、年齢別の労働力率が現在比横ばいで推移すると、出生率の前提の違いにかかわらず目先2040年にかけては労働力人口が減少していくことが確認されます。


 「2」では、そうした労働力人口の減少を防ぐための方策として女性と高齢者の労働力率を引上げた場合の労働力人口の試算が行われます。また、労働力人口の前提の違いにより中期的な成長率がどうなるかも確認します。結論としては、図表23、24のような年齢別労働力率の引上げが行われれば、目先の労働力人口の減少は避けられ、我が国の潜在成長率もマイナスとなることが避けられることが確認されます。


 「3」では、「2」の試算の実現可能性について個別項目ごとに確認していきます。「2」の試算は図表23、24のような年齢別労働力率の引上げが行われれば労働力人口がどうなるか機械的に計算したものです。問題は、図表23、24のような年齢別労働力率の引上げが実際に可能かどうかということです。この点が検証されなければ、「2」の試算は絵に描いた餅となってしまいます。検証結果からすれば、前述のとおり実現の可能性はあると考えられます。なお、労働力人口の確保の観点では、女性と高齢者の年齢別労働力率の引上げが行われれば十分ですが、若者の経済生活の安定の観点から、ニート、フリーターの状況についても分析しています。また、最後に一時期議論となった外国人労働者についても状況の確認を行っています。

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