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2021/02/15
「点と線-デジタル大競争時代のグローバル連携とは?」【下・丁々発止編】(中曽根平和研究所「デジタル技術と経済・金融」研究会)

 中曽根平和研究所では標題につき、初代外務大臣科学技術顧問を務められた岸輝雄先生(新構造材料技術研究組合理事長)、「逆説の地政学」著者である上久保誠人先生(立命館大学教授)、ならびに、後藤厚宏研究委員(情報セキュリティ大学院大学学長)との意見交換を、以下の通り開催しました。

 【上・プレゼン編】に続き、【下・丁々発止編】の2回に分けて、概要をお届けします。なおスクリプトはこちらをご覧ください。

 

1 議論

■主な論点1:科学技術と外交・政治・行政・産業界との連携

 

〇日本では「政策のための科学(Science for policy)」をめぐる、横の連携が大きな課題。先進他国の状況を見ると、科学アカデミーと省庁の科学顧問とに依存するところが大きい。日本は、総合科学技術・イノベーション会議,審議会など、「科学のための政策(Policy for science)」 はあるが、独立したScience for policy が弱体。コロナでこの状況が露呈された一面も。
一つの解決策が、例えば各省庁に科学技術顧問等を設置して毎月集まって意見交換するような方向性。例えば英国では、20省庁それぞれに技術顧問がいて、毎月の会合を実施している。英国は少ない資金で研究成果を上げている面でも好例だ。
また連携と協調と競争のバランス、これは産学官連携にその一番の難しさがある。国のプロジェクトは協調を目標に何とか遂行しようとするが、産業界は競争の観点からデータを出したがらない。この協調と競争をどう融合して、国家プロジェクトに向かわせるかは、科学技術とりわけ産業技術の世界では、これから一番の克服すべき課題。

 

〇産学官連携につき、競争環境がオープンになった今、社会的に役立てられる技術人財プールをしやすい場所が薄くなったのは事実。誰かが強制的なリーダーシップを発揮するしかないのでは。特に技術に関する国家としての安全性については、一層その方向が必要。

 

〇日本におけるモノおよびモノづくりの強さへの過剰なこだわりが、逆にむしろ昨今のデジタル技術活用を、科学面でも、政治面でも、外交面でも、停滞させている部分があるのではないか。

 

〇科学技術外交において、Research Integrity が非常に大きな課題の中国、デュアルユース(軍民両用技術)をしっかり定着させることが必要な米国と比べれば、欧州は組みやすい相手。
しかし注意しないといけないのは、英仏独はじめとした個々の国の違いが非常に大きいことをよく理解しないと、これが困難に転じる点。例えば、国立研究所の位置づけ。フランスは非常に中央主権による統制下、ドイツは研究所の独自性が優位、そして英国は国立研究所がほぼ存在しない状況、といった違いがある。
また、欧州は、デジタル技術の研究開発において、日本と同じ悩みを持っている国が多い状況を感じる。特に、5G(携帯第五世代)において、自国の通信事業者・メーカー等だけでは主導権を取れない国からの個別相談もあり、そこからの仲間づくりは大切。
 
他方、開発途上国向けの科学技術外交については、文句なしに人材育成が重要。また新興国では工学という概念が全くなく、この重要性を説きつつ寄与していくことが重要。
新興国も開発途上国も、欧米諸国のように基礎/応用/開発を積み重ねて科学技術を進展させるより、日本のように良いキャッチアップをして改良しつつ(同時に基礎研究の厚みも増しながら)、一挙に先端にいくにはどうしたらよいか、ということに関心がある。これは、日本がお付き合いしていくうえで肝に銘じておくべきこと。

 

 

■主な論点2:地域・都市単位での自立・国際連携等活性化、そして、日本における未来に向けた制約からの解放

 

○日本で国際的な都市間連携を活性化させていくうえでの制約について、ドイツの州や、都市国家たるシンガポールと比較した場合、外交・通商の権限や予算・人材といった制約も背景にある。経済特区という手法が、新興国などで盛んなのも、同様の制約を取り払うための試みだろう。その最たるものが、社会主義市場経済の改革開放の中国といえるかもしれない。
日本でも、いま大阪で府市連携などを強めるなどして、大都市がリードして地域の自立性を高めていっているのは、いい方向だ。政府としてはこうした自治体の自主的な動きを支援すべく、中央集権体制を緩め、かつ、中央から地方へ関連権限・財源を一括移譲するような動きが必要だ。そうでないと、日本はデジタル時代の発展から取り残されることになるだろう。

 

〇日本における特区等の課題として2点。
①特区は本来、そのなかでの営みは、カネ・ヒト・モノ・ルール等で自由放任して、効果の最大化を試行錯誤する姿勢が大切。しかし日本の場合、規制をいかに適正化するか、問題点をいかに洗い出すか、に注力されがちで、いわば「官僚主義の下の特区」となりがち。
②新興国と違って、中央集権やデータの法制度なども含め、個別既得権が固まっており、それが特区で打破されることに許さない(抵抗する)、という風潮。

 

〇コンパクトデモクラシーを巡って。
当該地方政府のリーダーシップは、同時に、政治と国民及び市民との距離を近づけ、細やかな対応が出来る、というのがキモ。従って、国民・市民の参加を促す側面がある。
また、地方の独立性が経済格差の拡大や価値観のかい離をもたらす面もありうるが、一方で、地域の実情に合った社会保障問題や福祉の問題への取り組みが出来、貧困等も減少していく可能性も有る。

 

〇次世代イノベーションの基盤となる創造性教育、ベンチャー育成等について。
諸外国事例としてすぐに思いつくのはイスラエルだ。軍産学の徹底した共創と、兵役中の情報に絞った教育。ここでIoTを含む製造業でも、ベンチャー設立に成功している。知財戦略にも長けている。また、スイスや、オランダも、対象分野を絞り、ベンチャーに賭けている点について、興味を持ってみている。
ただこれらはいずれも小国だ。しかしながら、中国に比して日本は小国であるため、日本自身を大国と思いこむことなく、思い切った絞り込みに成功しないと日本の将来は危ない。また、ベンチャー設立・育成には、特区や、科学技術の5か年計画といったことは役に立たず、むしろ拘束する側面が大きい。
日本で大切なのは、人に投資すること。まずは大学院の学生に、適応な給与を払い博士論文作成とベンチャー設立を促し、自由に泳いでもらうこと。

 

〇地方分権や道州制、そして国際金融都市などの議論は、過去20、30年と続いてきつつ、結局軌道に乗っていない。
それは結局、失敗して当時の人がいなくなって、次の人がまた出てきて議論して・・・という、プレーヤーの入れ替わりの繰り返しが故の部分もある。
また過去と現在の大きな差異は、過去が日本国内事情に起因した一方、現在は、デジタル技術の拡がりやスーパーグローバリゼーションを背景に世界がそうなってきており、それに日本が付いていけていない、という点だ。そこをきちっと分析しなおす必要がある。

 

〇日本の様々な規制の問題、そして財源予算ファイナンスの問題、これらが、これからの日本にとって、やはり重要な制約になっている。
しかし、特区を巡る問題も足許で議論が続いていることは、逆に言えばそれだけ、日本の将来が深刻になってきている状況が、霞が関或いは一般社会でも、かなり共有されつつあることの表れ。これから寧ろチャンスなのではないか。
目下のコロナ対策予算を見ていても、本当に必要だと思えば改革は出来るのではないかと。そういう意味では、厳しい財政の中でも、今が日本にとって最後のチャンスかもしれない、とも感じている。

 

 

■主な論点3:モノづくりのデジタル化による、日本の製造業・科学技術の国際的地位向上

 

○材料研究開発をはじめとしたモノづくりの科学技術開発において、10年ほど前からデジタル化による強化方向性へと転換し、進んできたが、今後の要諦として考えられることは以下各点。
①大学の教育は何より大切。とりわけ、デジタル関連教育を、工学部以外の他の理系学科でもしっかり教えられるようにすること。
②優秀な理系学生をモノづくりの会社でキープし、社会人以降もデジタル教育を継続すること。
③高校で文系理系を分けてしまうことによる、プログラミング教育およびダイバーシティの状況を、良い方向へと改善すること。
④研究-開発-事業化のシナジーを高めるために、一人の研究者に、一気通貫に担当する環境を作ること。研究者は常に、基礎と応用のテーマを共に遂行すべき。
⑤材料開発は、プロセス-構造・組織-特性-性能の4要素を結び付けることが必要。デジタル技術により、各要素の関係を明白にして、迅速に最終性能を評価することが可能となり、また、目標の最終性能から逆解析で、所望の構造を求めることも可能になる。また、材料技術とデジタル技術との全体的な融合・成熟は今後の課題。

 

〇日本の戦後の科学技術の大成功は、キャッチアップと改良の積み重ねによるもので、2000年以降のノーベル賞で積み上げ研究による独自性も示してきたところだが、一貫してリスクヘッジの考え方がない状況で進んできた。それ故、情報技術への転換を、大学も、関係するエレクトロニクス産業も考える余地はなかったといえる。これは、戦争や大恐慌がなかったからともいえる。コロナが逆説的にチャンスになることを期待する。但し今、リアルとデジタルの融合に失敗すると、ただ落ち込むだけの剣が峰でもある。

 

 

■主な論点4:科学技術の安全保障と、デジタルおよびサイバーセキュリティ

 

○デジタル及びサイバーセキュリティについては、様々な試行を行う上で、法律との兼ね合いが大切であり、日本に比べてその縛りがより薄い、米国の州の研究機関に渡って実験を続けるケースも出てきている。従って、日本の今後のデジタル経済成長、デジタル安全保障には「技術・人材をプールして、特区的に試行錯誤できる場所を、セットで用意すること」が必要。
またそこには、GAFAほどのビッグスケールのようなものは今更日本発では作れないとしても、日本としての安全保障上、転ばぬ先の杖として国内的に担保しておくものであれば、日本の若手の優秀な技術者が、日本にとどまって、そこに貢献可能。
米国・中国と比して、日本は、社会全体における余裕のようなもの、つまり、本流に対する亜流・アマノジャクを社会で保持できるような、そうした次世代開発もしくはイノベーションに向けた環境を保つことが難しくなってきている。企業単位で考えうることには限界があり、政策的に考えるべき時期、と感じている。

 

〇地域もしくは都市国家が先導するコンパクトデモクラシーの中でデータ活用をより上手に行っていくには、透明性の担保若しくはチェック機能が働くといった環境下で、プライバシー情報と権力の関係を、政治がどう扱うか、を明確にしていくことが大切。
なお台湾で、この民主的議論が出来たのは、大陸に対する「有事への緊張感」があることが土台。イスラエルでワクチン接種が進むのも、同様の素地の様子だ。

  

〇日本は、DFFT(信頼あるデータの自由な流通)を国際的に提言しているところだが、むしろ、世界からデータが流れ込む場、世界からデータを持ち込みたい場が、果たして日本にあるのか、という点に危惧を頂いている。そういう流れが出てくること、日本が世界からデータを引き寄せよう・持ち込ませようという強さを出すことが、データ流通を良くしていくだろう。

 

〇デジタル時代の安全保障問題は、その市場メカニズムとは反対に位置するものだ。米国への依存度の高まりすぎ具合を踏まえると、日本一国の安全保障観点からは、それを受けて立つのは大切で、かつ、おカネも人もかかる。しかしもし、米中対立の狭間等で、米国が日本に何らかの理由でデジタル制裁を科すようなことがあれば、日本はGPSも使えず、クラウドも使えない。そういう事態にも備えて、デジタル時代の国家としての安全保障の人材・資金・プラットフォームを確保しておくことは大切。

  

〇米国バイデン政権下でも、Buy Americanの大統領令をはじめとして、各国で必要なものを囲い込んでおくという動き、逆に、ワクチン外交のような形で国際関係を維持向上させていく動き、そして半導体の台湾TSMC社のように米中での綱引きとなっている動きなど、デジタル時代の経済安全保障をめぐる国際的動きは、更に激しさを増していると感じている。
2021年中に、おそらく日本は、米欧中との付き合いを試される時代になるのではないか。そういう意味で今日のような議論をもっと広げて様々な方に入っていただく場の必要性が高まる。

  

 

2 日時等:令和3年2月2日(火)14:45-16:15 (ウェブ会議により実施)

3 参加者: 中曽根平和研究所「デジタル技術と経済・金融」研究会 研究委員、および中曽根平和研究所関係者、外務省関係者 ほか

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