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経済・社会

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2023/03/24
経済社会研究会は2022年度研究報告「『ポストコロナの新常態』における経済社会の展望と政策」を掲載しました。

 中曽根平和研究所・経済社会研究会では、2020~22年度の3年間にわたり、「コロナショック後の日本の経済社会の変容」をテーマとして研究を行ってきた。その結果、新型コロナウイルス感染症のパンデミックをきっかけとして、人口減少の加速、デジタル技術の普及、都市・地域への影響等、いくつかの大きな変化が我が国の経済社会に生じたこと、これらの「新常態」(new normal)にいかに対応するかが、ポストコロナの経済社会政策を考える上で大きなポイントになりうること、がそれぞれ明らかになった。

 本研究会の議論におけるこれらの課題とその展望、並びに今後の政策対応の方向性を要約すると以下の通りである。


1.新たな発想で人口政策の見直しに取り組み、短期的には国民希望出生率の達成、長期的にはその引き上げを目指そう。

■ 政府の「少子化社会対策大綱」(2020年5月閣議決定)では、国民希望出生率を1.8と算出し、それを実現することを政策目標としている。しかし、最新の統計調査を用いて推計すると、国民希望出生率は1.6程度となるという試算がある。国民希望出生率は、短期的な出生率の上限と解釈できるが、当面はそれを目標にして、一定の期間で実現可能な少子化対策の手段を考えられる限り講じていくことが必要だろう。

■ しかし、出生率が国民希望出生率を上回ることは原理的に不可能であり、長期的には、国民希望出生率自体を引き上げるような何らかのブレークスルーが必要となる。子育てにおける経済的負担とともに、心理的・肉体的負担の大きさも意識されてきており、それらが国民希望出生率の低下にも表れているのだとすれば、我が国の経済社会の枠組みが、必ずしも「子育てにやさしい」ものにはなっていない、いわば「文化的背景」にも課題があると考えらえる。

■ このような状況を踏まえれば、政府にはこれまでにない少子化対策が求められている。今後残された課題としては、ポストコロナにおける「異次元の少子化対策」としての人口政策のあり方について、国際比較も交えつつさらに検討と議論を深めていくこと、などが挙げられよう。


2.経済社会全体で「まずやってみる」「まず変えてみる」という機運を醸成し、デジタル技術を上手に応用して、経済社会のさまざまな課題解決につなげていこう。

■ 経済社会のデジタル化は、ある一定の共通したソフトウェアやサービスを使用しなければ効果があがらないという意味では、一種の「標準化」を前提にしている。このような特性を踏まえれば、例えば雇用・労働分野では、デジタル技術に対応した業務フローの見直しが必要となるように、人々の日常生活における行動様式に何らの変更をもたらすことなくデジタル化を推進することは不可能だろう。

■ 我が国においては、しばしばデジタル化の遅れが指摘される。しかし、インフラとしてのデジタル基盤の部分では、諸外国と比べて遜色があるわけではない。また、新型コロナウイルス感染症のパンデミックをきっかけとして、テレワークやオンライン会議は、すでに一定の定着を見ている。利用者によってその利便性が認められれば、我が国でもデジタル技術の普及の素地は十分にある。

■ 進化が速いデジタル技術の普及に係るリスクは、政府や企業における意思決定の過程やそのスピードにあるかもしれない。我が国では、プロセスを重視するあまり「何かをする」「何かを変える」という一つひとつの意思決定が重く、環境の変化に柔軟に対応することを難しくしている側面がある。たとえ完璧なものでなくとも、早く社会に送り出し、みんなで利用して、どんどん改良してよいものに進化させていく、という発想を経済社会全体で共有し実践していくことが必要だろう。

■ 経済社会全体のデジタル化を、個別の技術やその利用体験のみに基づいて議論していくことは難しい。今後に残された課題としては、デジタル産業を客観的なデータや証拠に基づいて把握する努力と、そのあるべき姿や今後の発展の方向性についての議論を同時に進めていくこと、などが挙げられよう。


3.地域間連携と「共感型」まちづくりを組み合わせ、人口減少下でも人々のwell-beingの維持・向上を目指す「スマートシュリンク」を実現しよう。

■ 少子化対策は人口減少に対する緩和的政策であり、また直ちに効果が出るわけでもない。当面は、人口減少を前提に、人々のwell-beingの維持・向上を図りながら経済社会の枠組みを変えていく、適応的政策としての「スマートシュリンク」も考えていく必要がある。人口減少も見据えた、持続可能なまちづくりのコンセプトとしてのコンパクトシティの考え方は、引き続きその有力な選択肢だろう。地域間連携を前提に、都市・地域に必要な機能を共用したり互いに融通したりすることで、住民のwell-beingの維持・向上を目指すことが望ましい。

■ 人口減少の加速やデジタル化の普及のように、まちづくりの前提が急速に変わりうる時代には、ある都市や地域の姿として、何が正しいのか、ということを先験的に示すことは難しい。コンパクトシティや地域間連携を規範ととらえ、それを政策当局者や専門家が政策目標として示す「規範型」のプロセスだけではなく、住民自身が政策効果を実感できることを前提として合意形成に参加する「共感型」のプロセスを組み合わせていく必要がある。

■ 今後の新たな「共感型」まちづくりのプロセスの推進力となりうるのは、行政区(界)にとらわれない、例えば共通の歴史や伝統、文化をはじめとする、いわばその「土地」のソフトパワーかもしれない。それぞれの「土地」の個性、強みを生かしていくことは、ポストコロナにおける家計や企業の立地選択の多様化に応えることにもなるし、結果的に複数の都市・地域を、住民のレベルでも、また行政のレベルでも有機的に結び付け、そこでの社会的問題をともに解決し、住民のwell-beingを向上させるための力にもなりえよう。

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