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外交・安全保障

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2020/02/10
米中技術覇権争いの行方 ~英国5G等の決定および欧米シンクタンクの見方も踏まえ~ 主任研究員 岩田祐一

米中技術覇権争いの行方 ~英国5G等の決定および欧米シンクタンクの見方も踏まえ~

(「情報通信技術(ICT)と国際的問題」研究会コメンタリーNo.3)

主任研究員 岩田祐一

※本コメンタリーに関連する前々稿・前稿は以下ご参照ください
(https://www.npi.or.jp/research/2018/12/10162351.html)

(https://www.npi.or.jp/research/2019/05/20100229.html)

■米国の最重要同盟国・英国における、5Gネットワークに関する最新の決定

 

 1月28日(英国時間)、米国の安全保障面での重要な同盟国"Five Eyes"の一国でもある英国は、世界トップクラスの通信機器メーカーで、中国の先端技術企業の代表格とされる、華為技術(以下「ファーウェイ社」)が、英国5G(携帯第五世代)および光ネットワークへの限定参入を可能とする政府決定を下した。

 その要点は以下のとおりである[1]:

・ネットワークのコア部分(中核部分:音声やデータのやり取りを司る機能)以外での参入を認める

・また、コア部分以外(基地局やアンテナ、ケーブル等)ネットワークの35%を上回らないようにする

・軍事基地や核施設の近隣地域には設置しない

 

 5Gは、4G以前の現行設備を活用しながら展開していくため、既に4Gまででファーウェイ社機器を用いている通信事業者は、上記の要求にあわせて設備を整備・見直ししなければならない。

 英国BBCによれば[2]、英国の4通信事業者のうち2事業者(Vodafone、EE社(ブリティッシュテレコム子会社))は、現時点でファーウェイ社への依存度が35%を超えており、既存設備の見直しも含めた対応が必要と報じている。

 

 今回の決定に対しては、英国内でも「(米国、日本、オーストラリアの厳しい対応に比しても)扱いが緩い」といった反発があり、米国要人からも懸念が表明されている状況である。

 翌日にはEUからも同種の声明が発表されたが、さらに曖昧な内容であり、欧州域内および米国用心からの懸念はさらに高まる状況である。[3]

 

■英国サイバーセキュリティ―センターの指摘

 

 英国政府の決定には、英国の国立サイバーセキュリティセンター(NCSC)の分析が大きく影響している。NCSCは同じく28日に、18項目からなるアドバイス(ガイダンス)を発表した[4]。上記政府決定にその要点は含まれているが、その他、NCSCアドバイスから筆者が選定した要点は以下のとおり:

・ファーウェイ社は目下のところ、英国通信ネットワークにおける重要性の一方、その品質や透明性、過去のふるまいなどに懸念があることから、「高いリスクを持つ通信機器供給業者(HRV)」に、特定要件を付した形で唯一指定されている企業。

・2017年中国国家情報法のもと、中国企業は英国にとって(サイバー攻撃を含めた)有害な振る舞いを指示されることがあり得る。

・(NCSCの経験からは)ファーウェイ社のサイバーセキュリティとエンジニアリングの品質は低く、プロセスは不透明。

 

■米中技術覇権争い/国際的な情報通信技術安全保障に対する、米欧シンクタンクの見方

 

 こうした動きに代表される米中技術覇権争い、そして国際的な情報通信技術(ICT)安全保障を、米欧のシンクタンクはどう見てきているか。

 米国外交問題評議会(CFR)のアダム・セガール氏は、同じく米国シンクタンクHoover Instituteからのインタビューで、以下の2点を指摘している[5]:

・グローバルサプライチェーンにおける米中相互の産業・経済・技術・人的各面における結びつき・恩恵がある一方、Huawei/ZTE等中国通信機器メーカーへの米国からの制裁に対する米中両国(をはじめとした世界)へのインパクトの大きさ

・5Gの導入が世界的に遅れるなど、世界のイノベーションのペースが遅れる可能性

 また、フランス国際関係研究所(IFIR)は、以下の概要からなる論考を発表している[6]:

・欧州諸国の脆弱性(Vulnerability)は、米中両大国の間に挟まれて明確な形に。具体的には、

 <ハードウェア>ICTバリューチェーンにおける中国の中心的立場に依存

 <ソフトウェア>米国が支配しており、引き続き欧州の主要なセキュリティ保証機関的立場

・このような新技術がもたらす地政学的衝突をナビゲートし、欧州の利益と価値とを守っていくためには、健全な原則と客観的基準とに基づく、共通的政治戦略の開発が必要

 共に、米中からの/米中が受ける、影響の大きさを鑑みつつも、その対処については、目下の時点での決定打がないことを示している。

 

■米中技術覇権争いの行方~世界協調による対処の可能性は?

 

 英国NCSCも示した「2017年中国国家情報法」の存在は、ファーウェイ社をはじめとした中国のハイテク技術企業の、世界各国における経済産業生活基盤における存在感の高まりを踏まえると、世界の安全保障に影を落とし続けることであろう。

 米CFRも示唆するように「使うことを遅らせる」、また今回の英国(そして他各国等)の決定のように「使う部分を(安全と考えられる部分に)限定する」、米中技術覇権争いに対する、実際的かつ短中期の対応としては、こうしたことに絞られるのではないか。

 但し、長期的にはより大切なアプローチがある。それは「5GそしてAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、クラウドサービス等に代表される、デジタル基盤への世界共通理解を深め、世界共通のガイドラインを作っていこう」という営みである。

 この過程においては、国家の(現行制度等に基づく)安定と、グローバルシームレスなデジタル基盤との相剋が、必ず発生する。その(バランスある)選択を、各国が主体的に行っていく(いかねばならない)、そうした方向性での世界共通ガイドライン作りが肝要である。

 

 日本は世界で最も、デジタル基盤が高いレベルで普及している国の1つである[7]。一方で、国家制度等におけるデジタル基盤の組み込みには、慎重な国の1つでもある。今後の国家制度等へのデジタル基盤組込検討に際して、「日本にとってのみならず、今後の"デジタル主導世界"においてはどうあるべきか」、そうした議論が1つ1つ丁寧になされ、それらが世界に発信されていくことは、そうした世界共通ガイドライン作りに少なからず資するものになるのではないか。

 

[1]詳細は以下英国政府サイトを参照(https://www.gov.uk/government/speeches/foreign-secretary-statement-on-huawei)1/29閲覧

[2]以下英国BBCサイトを参照(https://www.bbc.com/news/technology-51283059)1/29閲覧

[3]詳細は以下EUサイトを参照(https://ec.europa.eu/digital-single-market/en/news/cybersecurity-5g-networks-eu-toolbox-risk-mitigating-measures)1/31閲覧

[4]詳細は以下英国サイバーセキュリティセンターサイトを参照(https://www.ncsc.gov.uk/guidance/ncsc-advice-on-the-use-of-equipment-from-high-risk-vendors-in-uk-telecoms-networks)1/29閲覧

[5]詳細は以下Hoover Instituteサイトを参照(https://www.hoover.org/research/cyberspectives-adam-segal-china-cybersecurity-and-global-trade) 1/29閲覧

[6]詳細は以下IFRIサイトを参照(https://www.ifri.org/en/publications/publications-ifri/articles-ifri/5g-and-us-china-tech-rivalry-test-europes-future) 1/29閲覧

[7]この背景には、携帯網(特に4Gまで)と光ブロードバンドにおける、日本国内の研究開発力の高さが存在する(英国はブリティッシュテレコム等の業態見直しや通信機器メーカーの衰退等が、国家全体としてのICT研究開発力維持においてマイナスに働いてきた側面がある)。今後5G以降、そして量子通信の時代においても、これを可能な形で維持していくことが、日本がデジタル基盤の普及・使い勝手・ルール整備で世界をリードしていくうえでは肝要である。

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